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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
3章 病院に潜む影
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3:侵入Ⅸ

「?」


 スカルヘッドは違和感を感じ始めた。リリアの休む間もない攻め手は相変わらずだ。いや、むしろ少しずつだが速くなってきている節さえある。が、看護士の方はどうだ。


「外しましたか」


 二人を相手にしていては、どうしてもどちらか一方に気をやりがちである。リリアの風に攪乱され、絶好ともいうべき隙がスカルヘッドに生じた。それを外したらしい。スカルヘッドは何もしていない。少し飛び上がり過ぎたため、回し蹴りを当て損なった。


(今更外れた?)


 今まで正確に狙っていたのに、最大の好機になって外れことに気味が悪く思える。気になりはしたが、すぐにリリアが襲ってきたため、質問のタイミングを失う。


「……!?」


 同時に逃走のタイミングも逃したわけだが、その時、暗かった病院内に明かりが一斉に灯る。全員が一瞬何事かと動きを止めた。

 と、スカルヘッドは天井に何やら黒い物体が蠢くのを見た。暗いままでは気付かなかっただろうが、明るくなった今ではむしろその姿は目立つ。黒い物体は見付かったと危惧したようでわさわさと逃げていく。一本、スカルヘッドは試す意味でもメスを投擲した。


「……ギ、ィ」


 そんなうめき声を上げて、メスとともに黒い一部がボトリと落ちる。びくんびくんと形を変えて動かなくなった。


「これは、魑魅魍魎ちみもうりょう


 力は特にない無数の小鬼だ。至るところで見掛けるが、ここにいるのはおかしい。数は多いが、微弱であるから戦いにはもちろん向かない。それどころか、危険を感じるとすぐにいつの間にか消え失せる。さっきまで攻防があった近くまでいたことには不思議でならない。


(いや、ナルホド。そういうことデスか)


 スカルヘッドは一つの仮説を立てる。一番シンプルで一番分かりやすい。そしてそれが一番、スカルヘッドが助かる見込みのある説だった。


「見張りは消えましたヨ」

「……そうですね。これで演じる必要はなくなりました」


 看護師はふっと力を抜いた。操られるリリアもそれ従って動きを止める。


「あれで演技デスカ。随分強烈な殺意でしたヨ」


 限界が来ていたらしいスカルヘッドは、どさっと腰を下ろす。呼吸も乱れ始めていた。


「正直、さっきの人とは本気でやりましたから。手を抜いてなんていたらこっちが殺されてました」

「カカカカ。ナルホドナルホド。さすがギルさん。何にせよ本気で殺しに来てなくて助かりましたヨ。それで、教えてもらえますカ。色々と」

「あまり時間もないので手短に話します」



§



 鮮血で染まる。もうどれほどその体を撃ち抜いたか分からない。尋常じゃない出血に、私は気分が悪くなる。それでも逃げるなんて出来ない。ギルが頑張っているのだから、せめて見守らないとと思う。


「はぁぁ……」


 全身が赤く染まってても、視野の外に追いやっている。どれだけギルが攻めてもその者は意に介さない。


「ち……」


  不気味に思える男の異常さに、ギルも困惑していた。胸を貫いてもそのまま怯むことなく男は攻撃に転じる。顔面を蹴り上げようともすぐに向き直し、笑みさえも浮かべながら、ギルの頭部を掴んで壁に叩き付けた。


「ぐっ」

「ギル!」


 壁に亀裂が走る。男の力が人間のそれとは全く違う。攻撃が攻撃にならないなら、掴まれている今の状態はまずいと私でも感じた。

 ギルは壁の反動を利用しつつ男を押し出すように蹴り出す。距離が開けたその一瞬を狙って脱出に成功すると、私に向かって声を荒げる。


「余計な心配すんな。こんな奴、すぐに片付けてやるから」


 そう言うギルは、頭から血を滲ませていた。痛々しい光景に違いなく、それでも何も出来ないでいる自分が歯痒かった。


「こ……ころ……ころす……」

「こいつ喋れるのかよ」

「ころ……ころす……」


 言葉を発しているが、変わり映えする様子はない。ただニタリと口をつり上げて笑うだけだ。


「何笑ってやがる」

「……!?」


 比較的近くにいたギルを見失う。今度は随分離れたところに位置していた。その右腕はすっかり血で染まり、手に何かを持っている。男もやっと気付いたようで、ゆっくりと顔を後ろにやった。ギルは男の背後で背を向けていて、すれちがった形だった。男はギルを一瞥したかと思うと、またゆっくりとした動作で、左胸を手で押さえた。男が血まみれのせいで気付きにくかった。ギルが右手に持つ、鼓動を打つ存在を確認してやっと遅れて私も事態を把握する。


「お……おぉお……ぉ……」


 男は胸を押さえた手を伸ばしてギルの方へと歩を進める。


「やっと気付いたか?」


 ギルは何の躊躇もなく手の内にあるソレを潰した。男に見せつけるように。えぐりとった男の心臓を。


「どういう理屈かは分かんねぇけど、さすがに心臓がなくなったら死ぬだろ」

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