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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
1章 闇に蠢く住人たち
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2:定まった標的Ⅲ

 そして昼休み。


「紗希? 今日は何かおかしくない?」


 食堂にて、加奈が午前の態度の感想を述べた。


「え? ううん、そんなことないよ」

「そうは見えないけど。紗希絶対おかしいよ。何か悩み事?」


 朝の疲労から復活した優子も、そんなことを言う。二人はかなり鋭かった。


「何か悩んでるなら、相談に乗るけど?」


 加奈の申し出は嬉しいけど、相談出来る内容じゃない。でも、二人の優しい言葉からか、こんなことを、私は口にしていた。


「もし……。もしさ、自分がもうすぐ死ぬって分かったら……どうする?」


「紗希……?」

「え……? な、何で、そんなこと訊くの?」


 二人は動揺していた。空気がガラリと変わった。いや、私が変えてしまったんだ。


「あ、違う違う。例えばの話。例えば」


 懸命に私は嘘をついた。


「何よ。急にそんなこと言うから、紗希が死ぬのかと思うじゃない」

「もぅ、びっくりしちゃったよ」


 こういう時、自分が嘘をつける人間であって良かったと思う。


「もうすぐ死ぬならね。実際ならないと分からない気がするけど……」


 私も加奈と同じだ。実際なってみても、何かをしなければいけないのか。どうしたらいいのか分からない。


 ただ、優子は違う意見だった。


「私だったら、あんまり変わんないかな」

「え? どういうこと?」


 私は身を乗り出して問い掛ける。とても気になった。

 思わぬ私の行動に、優子は少々たじろいながら答える。


「えっと、やっぱあと少ししか生きられないなら、楽しく過ごしたいじゃん。だから、今みたいに友達と話したり、何処かに遊びに行ったりすると思う。だから、あんまり今と変わんないってことだね」


 ……そっか。そうだよね。


「それって、本当にあと少しの命って前提入ってる? じゃなかったら優子はお気楽思考ね」


「加奈。今のは私のこと馬鹿にした?」

「してないしてない。これでも褒めてる」

「本当に?」

「本当に」


 疑いの眼差しを加奈に向けるけど、にっこり微笑む加奈の表情からは真意は読めなかったらしい。むぅと困った優子は私に尋ねてきた。


「う~~。紗希。どう思う?」


「馬鹿にしてないよ。それよりありがとっ。二人とも」


 見ると、二人とも不思議そうな顔をしていた。


「紗希も馬鹿にしてる?」

「何処かお礼を言うとこあった?」

「いやまぁ、何となくね」


 優子と、加奈と友達になれてて良かった。出会えてて良かった。求めていた答えが見付かったような気がしたから。ううん、きっと教えてくれた。


「やっぱり今日の紗希は何か変」


 一字一句外すことなく、二人はハモった。

 そして、三人とも吹き出していた。



「サキリ~ン」


 後方から聞こえてくる声。この名で呼ぶのはただ一人。狭山しかいない。温かい気分が台無しだった。


「ごめん。今日は担任に仕事押し付けられてて、構ってあげられなかったよ」


 いったい狭山の中ではどうなっているんだろう。なかなか気になるところだ。なぜ私が構ってもらっている側なのか。そして何より……。


「サキリン言うな!」






 日が紅く射すのも、そろそろ終わりに近付いた。これからは段々暗くなっていく。今日はいつもと違い、二倍の字数だから当然だ。私は何回目になるだろう反省文に、四苦八苦していた。


 今日は私と同じ様に、反省文で残っているクラスメートが何人かいた。けど、私とはそもそもノルマが違っている。次々と置いてかれてしまった。


 辺りを見回せばもう誰も……いや、一人だけいた。私から右後方に位置する席で、必死に原稿と睨めっこしている。

 彼の名前は確か……山村君、だっけ。下の名前は……あれ、覚えてない。



 二倍のノルマだったが、何とか字数だけは埋める。その頃にはもう、空は暗くなっていた。昨日以上に、時間を要していたのが分かる。


「よっしゃ、終わったー!」


 私が終わったとほぼ同時だ。後方から、驚くほどの叫び声が聞こえた。


「あ、ごめん」


 私が驚いて振り返ったことに気付いたみたいで、山村君は謝ってきた。


「あ、別に大丈夫だから」


 そう言って私は、立ち上がり帰ろうとする。教室を出ようとした時だ。


「……!?」


 ドアは誰かが帰った時に、開けっ放しのままだった。しかし、廊下側には誰もいなかったはずなのに、急に教室のドアが大きな音を立てて、勢いよく閉まったのだ。


「あれ、どうしたの?」


 山村君は不思議に感じたらしい。私が閉めたのだと思ったのだろう。


「開かない」


 いくら力をいれても、開けることは出来なかった。黒板近くのドアも、窓さえも同様だった。私たちは閉じ込められたみたいだ。


「何で……?」


 奇妙な現状を理解し、山村君も必死に出口を探す。

 いや、何で……じゃない。分かっていた筈だ。こうなることは既に、私は分かっていた筈だった。けど、だからといって、恐怖を振り払うことなんか出来ない。


「貴女が、神崎紗希さん?」

「……!?」


 声がするまで気付かなかった。何とかドアを開けようとしていた私の後ろに、誰かが立っていた。高く、消え入りそうな声だった。

 私は、ゆっくりと後ろを振り向く。


「……!?」


 けど、誰もいなかった。確かに声はしたし、気配もあった。振り向く直前までは……。


「……こんばんは」


 再び声がした。消えてなどいない。驚くことに、宙に浮いていたのだ。


「ふぅん。見たとこ、ただの人間みたいだけどね」


 白いワンピースを着ていた。白い髪の少女は気味悪く笑いながら言う。その長い髪は、短い背丈とは対照的に腰まで届く程だった。


「な、何だよ! お前!?」


 山村君も気付いた。上を見上げて、指を差しながら驚いていた。

 けど、そんなことを白い少女は全く気にしなかった。小さく笑って、私に問い掛けた。


「あれ、どうしたの? 武装しないの?」


 武装?

 何のことだろうか。私には見当もつかない。

 少しだけ沈黙があった。


「何よもう。ホントにただの人間じゃない。肩すかし。ねぇ、シロ?」

「……え?」


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