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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
3章 病院に潜む影
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3:侵入Ⅶ

「説明するより、直接見たほうがいいかもしれませんね」

「ギル!」

「目の前にいるのが先だ」


 紗希の呼び掛けが何を意味するかは、ギルも瞬時に判断できた。だが、ギルには人間を助ける義理はなく、ただ処刑人として動いているだけだ。おそらくは此処にいる人間が危険な状態だろうが、わざわざ目の前の敵をほっぽって向かう必要はなかった。


「……いいよ。じゃあ私だけ行くから」


 もしかしたら少しヤケが入っていたかもしれない。紗希だって馬鹿ではない。自分一人が出来る範囲は理解出来るはずだ。だが、今はそれに反する行動を取ってしまう。もちろんギルは驚いた。静かに様子を見守るスカルヘッドさえ、耳を疑った。


「はぁ!? 馬鹿か。お前一人で何が……」


 戦闘中につい振り向いてしまったギルだが、紗希の姿はもう闇に紛れていた。


「ど、どうするんデス?」

「ちっ……。何であいつはこう勝手に……」


 愚痴を溢しながらギルは紗希を追い掛けることを選択する。当然ながら、看護士とリリアがまたそれを妨げる。


「行かせるつもりはありません」


 看護士とリリアが同時にギルを追い掛ける。


「スカルヘッド! お前が足止めしろ」

「ま、また。そんな無理をおっしゃる」


 浪狽を見せるスカルヘッドだが、実質はその役割を予見していたようで、瞬時に二人の前に立ちはだかった。ただ立ちはだかるだけならば、突破されていただろう。スカルヘッドは常備している愛用のメス十本を同時に投躑した。


「くっ」


 リリアはその全てを避わし、看護士は三本ほど片手で受け止め、無傷であった。ギルはそのうちに迅速に駆けていき、もう闇の中へと消えていた。


「戦闘が苦手と、よく言ったものですね」


 武器としてのメスを投げただけだが、その投躑力で看護士は相当の手練れだと予測した。適当に投げたわけではない。その投げた刃全てが二人のもとへ向かっていた。看護士が嘘を吐いていたことを指摘しているようだが、スカルヘッドはまたもやしれっと否定した。


「嘘は言ってませんヨ。私の有する能力ではあまり戦闘向きでないし、私自身好んでいませン。これでも医者ですからネ」


 そのひょうひょうとした態度には、どこか異質めいたものがあった。


「それならそれで構いません。おとなしくしていてくれれば、それだけ苦しませずに殺せますから」


 看護士に躊躇は全くない。否定してきた殺しの宣告を口にして、看護士は力強く踏み出す。リリアがそれに続いた。


「カカカ、どうやら貴方がたには治療が必要のようデス。患者さんは至急、手術室へお願いしマス」


 スカルヘッドは白衣のポケットからゴム手袋を取り出す。手の甲を相手に見せるように、おもむろに掲げて装着した。


「さて、手術を開始しますカ」



§



 どうすれば良かったのか。声が聞こえたのは一度だけ。走ってきたけど、全く分からない。

 ただでさえよく把握してない病院内だ。この暗闇が余計に迷わせる。


「はう……」


 何かがあった。間違いなく魔界の住人がらみだ。全く気にしないギルに苛立って、一人でつっ走ってしまったけど早計すぎた。今では一人迷子になっただけで、何の役にも立っていない。

 それでも何かが起こったのは間違いなく、足を止めるわけにはいかない。そう思っていたのだけど、むしろ今自分が襲われたらどうしようと身震いしてしまう。

 奥に行ってみれば、階段に差し掛かる。真っ直ぐ行ってもすぐに行き止まりだから、階段を上がるか降りるしかない。一回きりの声だけでは、どっちなのか分からない。勘を働かせて下の方だと考えた。一応ナースステーションの可能性も考えてみた。それからも散策を続けたけれど、特に異常めいたものは何もない。


「おい」

「きゃあ!」


 肩に手が置かれたらしい。感触で察知して跳ぶように翻る。


「あ……」


 ギルだった。この状況で、誰かと会った場合の一番の当たりだ。これまでで最も安堵した瞬間かもしれない。が、それもすぐに砕け散る。ガシッと頭を掴まれた時にはもう遅かった。


「この頭はカラッポか!? あぁ!?」

「うわ~~~ん! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


 キリキリと万力のように締め付けられ、逃げたくても逃げられない境地に陥る。ギルが止めてくれるまで泣き叫ぶ羽目になった。


 ジンジンと残る痛みに苛まれながら、乱れた髪を調えた。ギルはまだ怒っているらしく、振り向くのが怖い。


「次やったら吊すからな」

「……」


 吊す?

 吊すってなに?

 そんなことされる言われはないと言ってやりたい。が、ちょっと今のギルに言う勇気はない。いや、それよりも重要なことが今はあるはずだった。


「ギルお願い。私じゃ助けられないから」

「……俺には関係ないって言ったろうが」


 今はまだ、私はしゃがんで背を向けたままだ。へたる体のまま私はギルに頼み込む。先程のやり取りが要因でもあるけれど、断れた時のことを考えると怖く、すぐにはギルを見れずにいた。


「それでも……お願い」


 膝を前に足を広げて、ぺたっと座り込む態勢からやっと振り向いてみれば、ギルは廊下の向こうを見据えていた。不思議に思って呼び掛ける。


「ギル?」

「どうやら、向こうから来たみたいだぜ」

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