表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
3章 病院に潜む影
128/271

3:侵入Ⅵ

「……!?」


 スピードタイプのリリアがたった一撃で終わるわけがない。すかさず左腕を振りかざした。ギルは掴んだ腕に力を入れ、きびすを返すと同時にリリアを投げる。

 攻撃を加えることも可能だったが、さらに看護士が向かってきているのを目にしたのだ。振り返って投げた勢いのまま、ギルは向きを戻して、看護士の懐に沈んで旋回しながら蹴り上げた。


「……っ」


 深くめり込んだようで、看護師は嗚咽を漏らす。そのままギルが追撃を試みる。右足で蹴り上げた動作から継続するため、左足を振るう。が、嗚咽したほど怯んだわりに、無理矢理ともいえる動きで体をねじ曲げる。当たりはしたものの、威力は反撃したであろうとギルは感じ取った。腹部に蹴りの衝撃で看護士は吹き飛ぶ。


「今度はこっちか」


 威力も半減した。あれぐらいでは堕ちないだろうと予測できるが、投げて時間を稼いだリリアがもう戻ってきていた。今度は真っ直ぐには来ていない。ギルが見せた動き同様、右、左とフェイントを織り交ぜていた。

 とはいえ、ギルから見れば稚拙な動きといえた。あっさりと見切れるレベルだ。だが、リリアにはギルにない風がある。ギルもスピードをつけて腕を伸ばす。が、急な加速でギルは目測を誤る。何とか避わしたものの、肩をかすったようで服が裂けた。


「ち……」


 そのままリリアは、もう立ち上がっていた看護士と並ぶ。もはや完全にこっち側だと主張するかのように。


「リアちゃん……」


 紗希が零す。悲痛な感情を滲み出した呼びかけだ。加えて、何故と疑問の念が紗希の中で渦巻いていた。


「貴方は何もしないんですか?」


 看護士が気になったのは、攻防が繰り広げるなか、何もしようとしないスカルヘッドだ。何かしようとする気配すら全くない。能力を発動するために時を待つわけでも、隙を狙いすましているわけでもない。ただ呆然と見ているだけであった。視野を広げて注視していたが、そんな印象を看護師は受ける。


「私ですカ? あまり戦闘には向いてないデスから」


 しれっとそんなことを言う。向いていない。とはいえ、手を貸す気が全くないのはいかがなものかと引っ掛かる。むしろ、あえて処刑人一人に任せてる感じだ。


「そうですか」


 しかし看護士には関係がない。二人を同時に相手するよりはずっといいだろう。


「よそ見か?」

「……!?」


 顔はスカルヘッドの方へ向けていた。その隙を狙って、ギルが広げた右の手を振り下ろす。跳んで後退して避けたが、あまりある勢いの手腕は、床をえぐった。


「凄い威力ですね。防ぐ方法が私にはないかもしれません」

「それは降参のつもりか?」

「まさか……。防ぐ方法がなければ出させなければいいです」

「ちょっと待って!」


 二人が動き出す時、いやリリアも含めて三人が紗希の声に反応した。


「何だ」


 ギルが短く問う。何故止めたと背後の紗希を睨む。紗希は少したじろぐものの、今言わないと機会はもうないだろうと口を開いた。


「待合室で会ったとき、貴方は言いましたよね。犠牲者を出したくないって。私たちは出さないためにここに来ました。だから、止めないでください。私たちが戦うなんて……」

「知ってます」


 遮るようにはっきりと看護士が答える。そんなことは分かりきっていると。ぎゅっと拳を作っていた。


「そして本当は誰を止めるべきかも。でも、それでも今の私は……。……私にも、事情がありますから」

「で、でも……」


 それでも紗希は食い下がらない。しかし、ギルに止められた。


「下がってろ紗希」

「ギル……」


 言葉だけの制止だが、随分と重みがあるように紗希には感じられていた。


「あいつにも何か考えがあって俺らを止めてんだ。いちいちそんなことを気にしてる暇はねぇよ」


 紗希はそれでも争いたくはない。納得は出来ていない。紗希の瞳には、看護士を敵として見ることが出来なかった。


「私への気遣いは無用です。それに、じきにそんな余裕もなくなりますから」


 それは勝敗を制するのはが自分であると、宣言しているとも取れる。だが、それはそんな意味じゃないだろう。


「イヤァァァァァ……!?」

「……!?」


 紗希たちの背後から悲痛な叫びが聞こえる。誰かは分からないが、暗闇の向こうで何かが起こったのは確かだ。


「何をしたんだ?」

「おそらくは、アレが動き出したんだと思います」


 ギルの冷静な問掛けに、看護士もまた冷静に答える。さらに疑問が浮上する答え方だ。


「アレ……って何ですか!?」


 紗希が青い顔をして尋ねる。平静さを失い、声を張り上げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ