2:探索Ⅹ
ギルは適当にうろついついた。その時物音が聞こえたので行ってみると、誰もいない廊下で私が寝かされていたそうだ。そして走り去る音が聞こえた。
「本題はここからだ」
「待ってよ。リアちゃんはどうしたの?」
「いたのか? あいつには会ってねぇけど」
酷く呆れたようにギルは口を開く。まさかほっといたのかなんて勘繰ってしまったわけだが、そんなことはなかったようだ。本当に知らない様子だ。ということは、まだリアちゃんはまだ病院にいることになる。
「一緒に病院に行ったんだけど……」
私はリアちゃんと別れたときのことを話した。
「馬鹿かあいつは」
と、短い感想をギルは漏らす。ギルが頭を抱えるという、(実際に抱えているわけじゃないが)珍しい光景を目にしてしまった私はある意味役得かもしれない。
「正直あいつも囮にするつもりだったんだが」
あ、上を向いて本当にまいってる。というか、“も”って言った?
今迄通り私も囮にするつもりだったのか。
いやそれより今は、リアちゃんがどうしてるか気になる。
「犠牲者が増えたんですよ」
マスクをつけた看護士の、篭った声が思い出される。まさかリアちゃんに限ってそんなことは……ないと思うけど。
「あいつは殺しても死ぬような奴じゃねえよ」
ギルがぽつりと言う。反応して私はギルを視界に留めた。
「……何だよ」
居心地が悪くなったのか。ギルはあぐらを掻いて前屈みになって私を睨む。とはいえ、別に敵意はない。多分ギルなりに気遣って言ってくれたんだろうと思う。でもそれは、さっきのまいってる姿なんかよりもずっとずっと珍しい。
「……何笑ってんだ」
「笑ってないって」
ギルが少し赤くなって抗議する。実際私の顔は緩みまくってるんだろう。ちょっと鏡で確認したくなる。
「とにかく今回のはな。早く片付けなきゃなんねぇんだよ」
そう言ってギルは本題を話し始める。
「どうやら病院内にいる人間を殺すつもりらしい。まぁ正直それ自体はどうでもいいが。そうなると機関の奴も集まってくるだろうし、色々とそれは都合が悪いからな」
「えぇと、それはもう知ってるけど」
あ。ギルの顔が面白いことになってる。目を見開いて驚いたあとは、少し紅潮していく。よほどの情報だと思っていたみたいだ。
「何で知ってたら言わねぇんだ」
「ら、らっへ……。ふいひゃっひひったんひゃひ(ついさっき知ったんだし)……」
「何言ってるか分かんねぇんだよ。ちゃんと分かるように言いやがれ」
理不尽だ。この上なく理不尽だ。自分が私の頬を引っ張るからうまく喋れないのに。
「その話した看護士から聞いたの。具体的にはどうするのかよく分からないけど」
「もうすぐ完成って言ったんだな」
「うん」
「つまり時間がないっことだ。あんまりもたもたしてる場合じゃねぇな」
ギルはそう言って私を担ぐ。
「え?」
困惑する私をよそに、ギルは意気揚々と窓を開けた。
「行くぞ」
「……っ」
担がれたときに予想はしていたが、心の準備はまだ出来ていない。そのロケットのようなスピードに私は目を瞑った。
「おい着いたぞ」
「あ、うん」
ずっと目を瞑っていたら、もう病院に着いていた。相変わらず早い。今いる場所は、ちょうど病院の正面入り口の前だ。夜の人気のない病院は、とても薄気味悪い。出来れば入りたくなかった。
「何やってんだ?」
そんな私の心情は知る由もないギルは、さっさと入り口に近付いていく。そういえば鍵が開いてないんじゃないのかと思った。ちょうどギルも困って……るわけがなかった。
「ちょっと待った」
「何だよ?」
「今何しようとしたの?」
本当は訊かなくても分かる。ギルは開かないことをいいことに、何と破壊しようとしたのだ。
「開けようとしただけだろ」
しれっと答える。その方法に問題があることを分かってない。
「駄目だからそんなの」
「じゃあどうすりゃいいんだ?」
「う……」
いきなり連れて来られたわけだから、そんなの分かるわけがない。なんて言ったら多分怒るんだろうなと思う。
「コンバンワ。そしてお久しぶりデス。ギルさん」