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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
3章 病院に潜む影
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2:探索Ⅶ

 分からない。罠なのか。導きなのか。でも、マスクを付けた看護士への接触を出すあたり、全くデタラメというわけではないかもしれない。何かを知っているのは確かだ。ただ、それを鵜呑みするべきか判断がつかなかった。


「……まぁ、結局どうするかは、先程言ったように貴方次第なんですがネ」

「紗希。こいつのことなんか信じる必要ない」

「こいつではなくて、私の名前はスカルヘッドと申しマス。いたいけなシャイボーイなんで」

「そんなことは聞いてない」


 リアちゃんは今にも飛びかかりそうな勢いで吠えた。スカルヘッドと名乗った医者は、驚いたように押し黙る。髑髏の仮面で表情が見えないが、少し落ち込んでるようにも見えた。けどまた明るく発せられる声で、それは気のせいだと思い直す。


「ま、いいでしょう。私は私で動きますヨ」


 そう言って飛び去っていく。今度は本当に去る姿が見える。リアちゃんも張りつめた緊張を緩めたようだ。私の肩も自然と力が抜ける。と、同時に歩いてくる人が数人現れた。まるで、今まで違う場所にいたみたいだ。


「紗希」


 そんなことを思っていると、リアちゃんは猫の姿になって私を見上げていた。身を屈めたあと、私の胸の中に飛び込んできた。


「行くの?」


 そして迷うことなく尋ねてくる。その真っ直ぐな瞳に、誤魔化すことは出来なかった。どうするのが、一番身の安全を保証できるのかは明白だ。それをあえてリアちゃんは示してくれているのに。


「……うん」


 控え目に私は頷く。その途端に、何だか呆れられている気がした。


「前から思ってたけど紗希ってけっこう頑固。何でわざわざそっちを選ぶのか分かんない」


 何だか加奈に咎められているような錯覚を覚えた。それには何も返せないでいると、リアちゃんは諦めたように言った。


「だから、私も手伝う。看護士に接触するのが安全とは思えないから」

「うん。ありがと」


 ムギュと柔らかい毛並を私は堪能する。リアちゃんは戸惑って、猫と変わらない鳴き声を上げた。



 一度家に帰った私は、早速そのまま病院に向かおうと考えていた。けど、ギルにも事情を話してついてきてもらったほうがいいと思い付く。ただギルの所在は分からない。

 どうしようかと悩むと、リアちゃんがギルの助けなんかいらないと口にする。

 いつ戻って来るか分からない処刑人を、わざわざ待ってはいられない。緊急を要する可能性もあるかもしれず、今の段階では予測できないから急いだ方がいいことと、ギルの力を借りなくても大丈夫であると根拠を挙げた。


 急いだ方がいいのは賛成だ。だけど、罠の可能性も捨て切れない私は少し渋る。一応少しだけ待ってもギルが来ない場合は、二人で病院に行こうと結論付けた。

 三十分程度経ってもギルは現れない。今日合流すると示し合わせたわけではないので、当然と言えば当然だった。あまり待っても暗くなってしまうだけだ。当初決めた通り、急いで病院に向かった。


「マスクを付けた看護師?」

「はい」


 受付で直接訊いてみた。受付の人は少し思案したあと、思い出したようにその名を口にした。


「源川さんよね。風邪気味みたいで今日つけてたはずだから」

「……え?」

「あれ? 違う?」

「えと、他にはいなかったですか?」

「他に? ……いなかったと思うんだけど」


 こんなあやふやな質問だったけど、受付の人は他のスタッフにも確認を取ってくれた。それでもそんな人はこの病院にはいないとの答えだ。


「どういうことかな?」


 私は人間の女の子と変わらない、隣にいるリアちゃんに尋ねる。私たちは、待合室の横長い椅子に並んで座った。


「魔界の住人なら、それとなく侵入して身を潜めるのも不可能じゃない。けど……今の段階じゃその源川って人が魔界の住人だったって可能性も……」

「そんな……」

「あくまで可能性だから。それに、そもそもスカルヘッドが示したのがまだ魔界の住人とは限らないし、もしかしたら源川って人を指したのかもしれない」

「だよね」


 何処か楽観的に考えていたのかもしれない。すぐに見付かる。見付けられると。けど、全然そんなことはなく、接触するだけでも難しい事態だ。


「紗希。とりあえず回ってみよう?」

「回るって?」

「紗希がマスクの看護士を見掛けたところ。スカルヘッドと会ったところ。手形の現場も見ておきたいから」

「ん、そうだね」


 スカルヘッドと会った場所より、例の看護士とすれちがったところのほうが近い。まずはその廊下に向かった。

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