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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
3章 病院に潜む影
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2:探索Ⅳ

 四限をこれ以上ないくらい集中して終えると、一限から授業を受けていたような疲労が襲いかかった。思ったよりノートを写す量が少なめであったおかげで何とか完遂した。


「疲れた」


 授業が終わってからの私の第一声である。机に伏していると、誰かがそばに近付いてきた気配を感じた。起きてみれば加奈だった。


「お疲れ様。ホントに終わらせるなんて意外ね。八割冗談だったんだけど」

「え~!」


 一瞬にして私の短期集中の努力が水泡に帰した。そして殆どが冗談だけど、僅かに本気であったところが加奈らしい。


「元はと言えば、紗希が来なかったのが悪いんだから、文句を垂れない。それより早くご飯食べに行くわよ」

「ん、了解」


 いつもはだいたい、優子と合わせて三人で昼食を共にするが、優子が入院してからは二人でとることが多い。多いって言うのは、たまに他のクラスメイト食べるときもあるからだ。そして何より、いつもの一人が飛んでくる。


「サキリ~ン」


 先に向かうように加奈に言われた私は単身学食を目指す。廊下に出たところで大声で走ってくる人影が見えた。どうしたことか、三限後の休み時間、四限の授業にいなくて静かだったので、普通に休みなのかと思ったけどそうではなかったみたいだ。何処に行っていたのか訊いてみたいところではある。だがやはりそれより先に言わなければならない。何度呼ばれても慣れなくて、恥ずかしいと思う。


「だから、サキリンって言うな!」

「好きだ~」

「……っ……」


 止まる気配はなく、むしろ速度は速くなる一方だった。狭山は両手を広げて明らかに抱きついてきそうだったので何とか避わした。


「ぅおっ……たっ、と……」


 かなりスピードに乗っていたのが分かる。転びそうになりながら何とか止まっていた。


「何で避けるのさ」

「当たり前でしょ!」

「やれやれ全く。サキリンは恥ずかしがり屋さんだね」


 肩を上下させてまいったとでもいう様子だ。抱きつかれそうになったら避けるのは当然であり、それは恥ずかしがり屋かどうかは問題じゃない。だけど、そういう常識が通じないから困る。


「ていうか、今日は何処に行ってたの? えらく来るのが遅かったみたいだけど」

「ちょっと病院にね」

「……そうなんだ。う~ん、まぁこうして無事だし、あんまり心配はかけないほうがいいと思うよ」


 狭山もそれなりに私の心配をしてくれたのだろうか。


「えと、ありがとう」

「いやいや。気にかけるのは当然だし。かなっちの方が心配してたから、そっちに言ったほうがいいよ」


 そう言ったあとは、購買に買いに急ぐと狭山は駆け出して行く。

 もしかしてだけど、自分は結構、考え無しの行動を取っているのだろうか。そんな考えが、少し頭をよぎっていた。


 放課後になると、教室の喧騒は一気に静まり返る。昼に庵藤が言っていた通り、今日は反省文というペナルティがないらしい。どうやってこじつけたのかは知らないけれど、早く帰れることは有り難い。しかし、そんなことが出来るなら前々からやってくれても良かったんじゃないかとも思える。でもまぁ、規律に厳しい庵藤には無理な注文かと、すぐに思い直した。


「紗希帰ろっか」

「あ、うん。ちょっと待って」


 加奈から帰りの誘いがあった。いそいそと鞄に教科書の類を詰め込む。ほとんどは、誰もがやっているように学校に置いたままだ。一応少しだけ持って帰る。もしかしたら勉強するかもと、帰宅後の私のためだが、それが実際に功を為したことはない。

 鞄の重みをそこそこに調節して、帰ろうと立ち上がる。その時近くに狭山もいた。


「一緒に帰ろっかサキリン」

「残念だけど私もいるから」


 そばにいた加奈が主張する。二人きりじゃないと言いたいのが分かる。だけど狭山はむしろ嬉しげに言う。


「残念なもんか。そっちの方が僕は嬉しいね。まさに両手の花だよ」

「……まぁ何でもいいけど」

「あはは……」


 相変わらず過ぎる狭山と、飽きれる加奈に私は苦笑いを浮かべた。


 帰り際、得意気に狭山はいろんな事を話していた。意外にも、自分本位な話ばかりでつまらないことはなかった。むしろその逆である。雑学に長けているのか、歴史の裏側みたいなことや、芸能関係とか話題が豊富と言えた。


「…ってわけなんだ」

「いやそれは違うから」


 たまに加奈が訂正してたけど。

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