表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
3章 病院に潜む影
112/271

1:御見舞い御一行様Ⅴ

「それより、さっき病院であの医者を見たの」

「あ?」

「……っ」


 ガバッとギルが起き上がる。背を向けて寝転ぶギルに聞こえるよう、鞄を下ろして膝を落としていた私はかなり驚いた。少したじろぐ。


「だから、病院で見たって」

「……あいつか」


 再度確認するギルに私はコクっとうなづいて肯定する。そしてギルは何かを考え込む。


「あのヤロウ。何考えて……」


 ギルはその先も何か言葉を続けると思ったが、急に言葉を切った。


「つ-か紗希、何でお前が見たんだ?」

「え?」


 何でと言われても、普通に御見舞いで病院に行って、そこで偶然会った。何でと言われれば、それは偶然でしかない。


「言ったよな、アイツに近付くなって」

「……!?」


 ギルはゆっくりと立ち上がり、鋭い視線で見下ろしながら何やら指を鳴らしている。実に軽快に。口元は不吉に笑っていた。


「うぅ……」


 これは怒ってる。突然矛先を向けられて私は戸惑うしかない。


「俺の忠告も聞かずに、接触したんだなお前は」

「で、でも、わたひはら(私から)……ちひゃふいたんひゃなふへ(近付いたんじゃなくて)……」

「あぁ? 何言ってるかわかんねぇよ」


 そりゃそうだ。ギルがほっぺをつねるからうまく喋れない。離してくれても、まだジンジンとほっぺが痛む。赤くなってなきゃいいけど。


「私から近付いたわけじゃないし。迷ってたら偶然会っちゃって……」


 痛むほっぺを擦りながら話す。どうやらようやく終わったみたいだから、私は足を崩した。ギルもあぐらをかいて聞き入ろうと少し前のめりだ。腕二本で支えている。面白くなさそうな顔をしているのは気のせいかな?


「ふぅん。で? 何かされたのか?」

「えっ? いや、特に何も……」

「何も? まぁ……そうか。接触しといて紗希が此処にいるってのも奇跡だしな」


 え…? それはやはり、かなり危なかったのだろうか。生きて帰って来れなかったところだったのかもしれない。あの医者が、忙しいからと言っていたことを思い出す。何か率先してやることがあったんだろう。もしそうでなかったらと思うと、ゾッとした。


「何か言ってたか?」

「あ、今は忙しいとか……何とか」

「忙しい……ね」


 ギルは組む足に肘をつく。視線を逸らして何か考えてるようだが、私が先に尋ねた。


「忙しいって言ってたってことは、何かする気ってこと?」

「まぁ……十中八九そうだろな」

「友達がその病院に入院してるの。どうしたらいい?」


 ギルは何も言わずに立ち上がる。少し待ってみたが、そのまま窓を開けたので止めに入った。


「え、ギル?」

「その心配の必要はねぇ。あいつがいきなり人間を襲うことはない。が、何かはあるだろうから一応見てくる」


 そして、消えるように窓からいなくなる。風が入ってきて、ギルが読みかけだった雑誌がパラパラとめくられていく。

 心配しなくていい。それは、そのまま受け取っていいのだろうか。ギルの考えを疑うわけじゃないが、誤魔化したようにも思える。わざわざ視察しに行ったのだから。今までのギルだったら、確実に何か起こってから動いたんじゃないだろうか。

 本当に私は…何もしなくていいのか。その日、ギルが帰ってくることはなく、リアちゃんが来ることもなかった。


 そして、次の日の朝にもギルは姿を見せなかった。


「……何かあったのかな」


 いつも突然家にやって来る。それはそれで困りものだったが、いざ来ないとなると心配になる。リアちゃんも、昨日から姿を見せなくて、いつもより少し部屋の中が広すぎるようにも思える。


 久々に一人の朝だ。ギルとリアちゃんが訪問してきていつもなら騒がしい。それに比べれば、今日はかなり静かだった。起きてみれば勝手になくなる私の朝食も、今日は健在だ。自分で作らなくていいとなると、バタバタと慌ただしくなることもなさそうだ。時間にもかなり余裕が出来る。

 それだけ下りてきて確認する。着替えは後でいいか。食卓に並べて先に朝食を食べようと考えた。あまりの静粛が面白くない私は、気晴らしにテレビの電源を入れる。


「……っ!?」


 チャンネルを回してニュースになった時だ。私は手にしていたリモコンを落としてしまう。


「……嘘……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ