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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
3章 病院に潜む影
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1:御見舞い御一行様Ⅲ

「浮気か!」

「誰が浮気よ!」

「いやいや僕がいるのに」


 ふざけてるのか、本気なのか分からないが、真剣な様子だ。頭が痛くなってきそうだ。とりあえず放っておこう。


「私に彼氏なんていないから」

「え? そうなの?」


 優子にそう念を押しておく。全く何処からそんなことを聞いたのか。って、一人しかいないか。チラッと一瞥してみると案の定加奈が笑っていた。後で問い詰めようと心に決めて笑って返しておく。

 優子は少し驚いたものの、すぐに安心した表情を見せた。


「でも良かったよ~。私の紗希が取られたかと思っちゃった」


 優子が抱きついてくる。私の……ってとこが少し気になるけど、可愛いものだ。後ろでまだ何か言ってる狭山と比べれば天と地の差だと思う。


「まぁよく考えれば、出来るわけないよな」

「……むぐっ」


 確認しなくても分かる。声でも認識は可能だが、こんなことを言うのはやはり一人しかいない。


「それってどういう意味?」

「いや、そのまんまの意味だろう」


 庵藤は笑って答える。悪ぶれない。清々しいくらいに申し訳ないという気持ちが欠片もない。

「むぅ」

「紗希、紗希。またそんなもの振り上げてるって」

「……あ」


 いつの間にかスイカをふりかぶっていた。加奈がまた止めてくれていなかったら、危うくこの部屋を真っ赤にするところだった。


「此処を殺人現場にする気か?」


 庵藤と同じような感想を持ってしまったのは何だか不本意だった。余裕釈釈な様子が崩れない庵藤に向かって私は言う。


「うるさいな。庵藤には絶対いつか、ギャフンと言わせてやる」


 誰もが押し黙る。突然に静寂が訪れた。えっと、な、何だろうこの空気は。突き出した指が中々下ろせない。


「……くく、あぁ、楽しみにしてる」

「あははは。ほんと可愛いねぇ。紗希は」

「そんな台詞、久々に聞いた。というか、普通言わないよ」


 と、皆笑うだけだ。そ、そんなに変だったのかなと、すっごく恥ずかしくなった。加奈に頭を撫でられてしまっているけど、素直におとなしくしてることしか出来なかった。優子も入院患者とは思えないほど笑い転げていた。庵藤も冷静さは何処に言ったか、笑いをかなり耐えているのが丸分かりだ。狭山は……。


「あぁ。これが萌え死にという奴か」


 と、涙ながらに心臓あたりを押さえて悶えていた。




「そんなに笑うことないのに」


 優子や加奈も酷いんじゃないかと思う。そんなにおかしいからってあそこまで笑わなくても。

 私は一人、トイレに逃げた。ひとしきり笑い終わると、別の話題に当然進行する。なのに、先ほどの一連を何かと引っ張る。もちろん庵藤が主に。言わせてやるって言った次の瞬間にもう言ってるし。ネタにされ続ける度、顔が自然と熱くなる。うまいことジュースを買ってくると言ってここまで逃げてきたところだ。


「はぁ……。よし、もう大丈夫」


 少し気持ちを落ち着かせる。もうおちょくられても動揺しないよう、心構えはバッチリだ。

 トイレから廊下に出て再び戻ろうとした時、ふと考える。ジュースを買ってくると言って出てきたんだから、ジュースを買ってないとおかしいかな。私は自動販売機が何処かにないかと、探しに出た。


 しかし中々見付からない。もしかしてないのだろうか。いや、多分待合室にでも行けばあると思う。でも見付からない。なんせ迷っていて、待合室が分からないのだから。正直言うと、優子の部屋まで戻れなくなった。考えてみれば、優子の部屋まで直通で通っていたから、この大きい病院の内部は知らない。看護婦さんに聞こうにも、忙しそうで躊躇わられた。なら、患者さんかなと思い付いた頃には、周りには誰もいなくなっている。


「……むむむ」


 これは困った。このままではまた加奈に子供扱いされてしまうかもしれない。庵藤にもまたおちょくられるだろう。せめて自力で戻らないと。


「あれ?」


 人気のない廊下を歩いていると、ふわりと白衣が舞ったのが一瞬角際で見えた気がした。お医者さんかなと思う。とりあえず聞いてみようと近付いていく。


「あの…」

「ン? 何デスか?」


 その甲高い声とともに、白衣をバサッと翻して振り向く。


「……ぁっ!」


 私は一瞬呼吸が止まるほどに驚いて進める歩を止めた。知ってる。メリーやマリとの戦いのあと、ギルを治した医者。髑髏面をつけた魔界の住人だ。何で……こんなところに……?

「おやァ? アナタは……」

「ぁ……」


 近付いてくる。伸ばされる手に恐れをなして、私は後ろに下がった。あのあとギルに訊いてみた。どういう関係なのか。敵なのか、味方なのか。

 ギルの返答は、あいつには絶対に近付くなだった。

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