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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
1章 闇に蠢く住人たち
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2:定まった標的

 朝日が硝子のない窓から射している。

 春先で良かったと思った。壊れた窓から、素で風が行き来しているのだから。もし冬だったらと思うだけで身震いする。


 窓硝子のことは、野球ボールが飛んできたと、左膝の怪我は転んだと適当な嘘で両親には誤魔化した。


 目覚まし時計で時間を確認しようとして気付く。

 あ、そういや壊れてたんだっけ。私は壊した覚えはないし、昨日のあいつが、一昨日の時にでも壊したのだろうか。


 代わりに携帯で確認する。今日こそは七時前。これに間違いはない。

 自分にしてはちゃんと起きれたと思う。

 けど気分は優れなかった。あまり眠ることは出来なかったのだ。


「やっぱり私、死ぬのかな……」


 昨日のあいつの言葉を思い出す。

 何で私なんだろう。気分は、昨日以上に憂鬱だった。

 しかしやることは変わらず、学校に行くしかない。慣れすぎた日常通りの動きを取っていた。

 

 リビングへと降りる。すると、ソファで誰かが横になっているのが分かった。


「なんだ、ギルか」

「遅かったな」


 私はそのまま通り過ぎようとして動きを止めた。


「ちょっ! なんで家にいるの!」


 さも当然の如く、私の家にギルが存在していた。

 昨夜、いや正確には一昨日の夜だ。いきなり、魔界とかいう異世界から来た化け物に襲われてしまった私は、同じく魔界から来たギルに助けられた。見た目人間と変わらない彼は、処刑人と呼ばれる存在らしい。

 何でも、こっちの世界に来ることは向こうでは禁止されていて、それを破って来た者を殺すのが、処刑人の役割であるらしかった。正直漫画みたいな話である。夢か何かだと思いたかったが、ギルが存在するからには、現実に違いない。

 だけど、今のギルの寝転がっている姿からは、そんな事情は本当なのかとやっぱり疑わしかったりする。


「あぁ? 昨夜からずっといたぜ?」

「は? どこに?」

「屋根の上」


 ギルは上を指して答える。


「……何で??」


 またも言動がよく分からない。


「奴らが来るかもしれないだろ。決まってんだろ? それをお前すやすやと寝やがって。危機感皆無だな。オイ」


 すやすやとは寝れてないけど。


「それって……。もしかして私、危なかった?」


 ギルが言う奴らとは、襲ってきた化け物、魔界の住人たちを指す。助かったと思った私だが、存在を隠す魔界の住人たちは、知ってしまった私を狙い始めるのだと言う。

 昨日まではただの偶然。だけどこれからは違う。処刑人であるギルは、私を狙ってきた魔界の住人たちを、逆に迎え撃つつもりだ。

 ただ問題なのは、ギルは処刑人としての役目を遂行するだけで、私を今後助けるつもりはないということだ。



「よく分かったな。これでお前は天才の仲間入りだ」


 皮肉たっぷりに言い返されてしまう。


「じゃ、じゃあ夜も明けたのに、何で家の中にいるのよ!」

「腹が減ったからだ」


……嫌な予感がした。


「ま、まさか……」

「?」


 ギル本人は分からないフリをしているのか、本当に分かってないのか。いや、たぶん後者だろうけど。

 急いで食卓へと向かった。頭に浮かんだ予測が外れるように祈りながら。


「あ~~~!」


 だが祈りも虚しいままに、嫌な予感は見事に的中していた。

 リビングへと後戻りしながら訴える。


「な、何で勝手に食べてるのよ! 私の朝御飯なのに!」


 それはもう綺麗に平らげられていた。


「あぁ、そのことか。まだ足りないがうまかったな」


 しれっと的外れな発言をしたギル。


「人の家に勝手に入り込んで人の御飯勝手に食べて、言うことはそれだけ?」

「また作ればいいだろ。それより、いつまでそんな格好なんだ?」

「……!?」


 言われて初めて気が付いた。まだ寝起きのせいもあるかもしれない。というより自分の家でこんな朝早い時間なんだから本当なら普通のはずである。

 パジャマ姿だったのだ。

 顔がみるみる熱くなった。鏡で顔を確認するまでもない程、自分でも分かった。今自分の顔はかなり赤くなっている。


「ば、馬鹿っ!」


 バンッ!!―

 三枚あるうち一番近いクッションを一枚ギルに投げつけ、勢いよくドアを閉めて即二階へと登った。


 く、一生の不覚だ……。


 今度は顔も洗い、少々長い髪も整え、制服に着替えている。いつ外に出ても大丈夫な格好で、再びリビングへと向かった。


「えらい変わりようだな」

「それって褒めてるのか、けなしてるのか、どっちなの?」

「……さぁな」


 ギルはさっきと変わらずソファで寝そべっている。かくいう私は自分の朝食を作る羽目に。朝食を諦めるっていう選択もあるが、まだ時間はあるし、私にとって朝食は欠かせないものだった。


「何やってんだ?」


 ギルが尋ねる。


「……あのね。あんたのせいで朝食作ってるんだけど」

「んなコトはすぐわかんだよ。何作ってるか訊いてんだ」


 ああ、そうですか。と心の中で思ってみる。


「卵焼きとかだけど」

「へぇ、そうか」


 何か意味深な感じがした。ということで一応念押しをしておく。


「言っとくけど、食べたら駄目だからね」

「あぁ」


 意外に素直?

 まぁ、そのほうがいいけどね。


 そして完成。

 久々に料理したのでちょっと張り切りすぎちゃったかな。な~んて。


「何ニヤニヤしてやがる。気持ち悪いな」


「……!?」


 ギルはまったくもって失礼なこと極まりない。もう少し言いようがあるはずだ。……そんなに顔に出てたかな。


「……なんかついてるぞ」


「ふぇ??」


 起き上がってギルが指摘してきた。当然顔のことだろう。料理中に付いてしまったんだろうか。言われるままに右手で頬に触れてみる。


「とれた?」

「いや。もっと右だ」

「んっ。どう?」

「鏡見てこい」


 うまく伝わらず、歯痒かったらしい。最も効率の良い最終手段に出る。私は洗面所へと向かった。

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