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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
3章 病院に潜む影
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1:御見舞い御一行様Ⅱ

 今にも抱きついてきそうに近寄る狭山から離れる。


「つれないなぁ」


 疲れる。何で病院に来てまでこんなに疲労しているのか。当然全部狭山が悪い。皆はと言うと、この光景がさも定番だとばかりに面白気に眺めるだけだった。


「全く。相変わらず変わらないよね狭山っちは」

「まぁね。とりあえずこれが僕のスタイルだし」


 と、何を勘違いしているのか実に誇らしげだ。皮肉のはずだと思うんだけど、皮肉にはならなかったようだ。それこそが狭山のスタイルかもしれない。


「それで、退院はいつまでだっけ?」


 パイプ椅子の背持たれを前にして、寄りかかるように座る庵藤がふと尋ねる。


「え~と明後日くらいかな。結局様子見で二週間もいるんだから長かったよ」

「そう? 勉強しなくて良かったんだからわりと気に入ってたんじゃないの?」


 よほど退屈だったのだと思えるほどの優子に対し、加奈は面白おかしくおちょくる。


「そりゃまあ勉強はないけど、紗希と加奈には会えなかったし」


 あまりにも正直に言うもんだから、少し恥ずかしいような、くすぐったいような気持ちになった。加奈もそれはやはり同じみたいで、そ、そう……と返すだけで少し顔が赤くなっていた。それを知ってか知らずか、当の本人である優子はえへへと笑ってみせる。


「僕だって会えなくて寂しかったんだよ」

「何を言い出すんだいきなり」


 突然割り込んできた狭山に対して、庵藤が冷淡に反応する。優子はやんわりと返してあげる。


「そうだね。狭山っちにも会えないからね」

「そうだろ。そうだろ。いつも僕はいつの間にか、女の子の中で大きな存在となっているんだよ」

「いやいや、さすがにそこまでは有り得ないから」


 と、狭山は優子に迅速で否定される。あまりの早さに、狭山を除いた皆に笑いが溢れる。


「むぅ。まだまだ女の子に理解されるには程遠いのか」


 まだまだポジティブに考えられる狭山は精神的にタフだと言えた。


「そんなことは多分有り得ないと思うんだけど」


 加奈から再度言われても気にする様子もない。凄いことではあるが、少しはくじけて改めてくれた方がいい。そうすれば、サキリンなんて呼ばれることもないだろうと思う。


「あ、あとね。病院のご飯ってやっぱあんまり美味しくないんだ」

「そうなんだ?」


 入院なんてした覚えないから病院のご飯は食べたことがない。確かにあまり美味しくないとか聞いたことがあった。


「うんそう。何ていうのかな。味が薄いっていうか、あんまり食べた気がしないしね」

「そりゃ入院してる患者に濃い味付けなんて出せないからね」


 私と優子と狭山は、共にへ~と、加奈の指摘に感心するだけだ。


「でも私はもう大丈夫なんだけどなぁ。久々にお鍋とか食べたいし」

「それはちゃんと退院してから」


 何とかはしゃぐ優子をなだめていると、横から得意気な顔付きで狭山はある提案を思い付く。


「それなら皆で鍋をしようか」

「あ、いいねそれ」


 と、話に乗っかるのは当然ながら優子である。どうやら入院生活は、かなり押し込められていたようで、久々に騒ぎたい様子だ。


「そうね。最近食べてなかったし」

「事前に決めてくれれば予定は空けれるぞ」


 と、何だか加奈も、意外にも庵藤も乗り気だ。随分唐突な話ではある。


「紗希は? 予定ある?」

「んと……」


 はて何かあっただろうか。人指し指を顎にもってきて考える。お父さんが急遽、何処かへ連れて行きたがることもなさそうだし、大丈夫かな。


「あ、もしかしてデートとか?」

「へ……?」


 いけるよと言おうとした時だ。優子は返答を待たずして何やら凄く素っ頓狂なな発言をし出す。これには二の句が継げなくなってしまった。


「この前紗希って朝帰りしたんだって? 紗希もやるね~…今度私にもしょうか……むぐっ」


 終わりが見えない優子の口を塞ぐ。全く信憑性のカケラもない出まかせだけど、これ以上喋らせたらいけない気がしたからだ。けど塞いでから思う。こんなことしたほうが図星に見えるんじゃないか。


「神崎……そんなことやってたのか?」


 庵藤の口から放たれる言葉は当然の疑問かもしれない。しかし訊かないでほしい。つい口を開けている。そんな感じで、庵藤が驚いている顔を私は見たことがなかった。


「ちょっ、ちょっと待ったあ!」


 と、声を張り上げるのは、良い意味か悪い意味か、期待を裏切らない狭山だ。酷く動揺していて、汗が滝のように流れるという表現がぴったりである。

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