表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
106/271

エピローグⅡ

 薬の匂いが立ち込める。真っ白い空間のような病室。私はベッドで横になる友達を眺めた。

 クランツの言った通り、命に別状はないようだが、衰弱していたため数日の入院を要した。直接クランツから連絡をもらった私は、すぐに教えてもらった此処にに来ていた。他にも助け出された人々は、この病院や他の病院に運ばれたらしい。


 静かに時が流れる。この病室には優子しか入院していない。まるで異世界のようにゆっくりと時が流れる。まだ目を覚まさない優子は、何も知らない子供のように眠っていた。


「紗希」

「加奈」


 顔を上げると、加奈が病室の入り口に立っていた。加奈も心配していたので連絡しておいたから、来てくれたんだ。


「目、覚ました?」

「うぅん……。まだ覚ましてないって」

「そう」


 加奈はそれだけ言って、私の隣に椅子を持ってきて同じように座った。


「紗希はちゃんと無事だったのに。何処で何してたかやっぱ言えない?」


 行く前にアリバイ工作を頼んだ加奈には、無事に戻ってきたことは最初に連絡したが、何処で何してたかまでは、やはり言えなかった。


「ごめんね。それは聞かないでほしい」

「……分かったわ。無事だったならそれでいい」


 しばらく考えたあと、しぶしぶであるが了承してくれたらしい。聡い加奈は、何か感付いているような気もした。


「ありがと……って言いたいんだけど」


 少し睨むようにして凄んでみた。


「何?」


 にこやかだ。実に微笑ましく、来るまでに何か良いことでもあったのか。そんな風にも思えるけど、たぶん違う。加奈は分かっている。私がこれから何を言うのか恐らく分かっているのだ。


「家に帰ったらさ、何か凄い勘違いされてたんだけど」

「ふ~ん、どんな?」

「知ってるでしょ。男の子のところに泊まりとかそんな風に言ったの加奈って聞いた」

「へぇ、紗希も中々……」


 と、何を考えてるのかニンマリと笑っている。


「ち~が~う~。アリバイ頼んだのに加奈が言ったんでしょ。無断で朝方近くまで家に帰らなかったってだけでも怒られるのに。おかげでそれが倍くらいになったんだよ」


 げんなりとして話すと、加奈はあははと軽く笑った。そして言葉を紡ぐ。


「仕返しみたいなもんかな」


 言葉の意味は分からない。訊き返してみたところ、加奈は私から視線を逸らす。優子に移したようだ。


「何にも言ってくれないから。言ってもらえないとけっこう考えるの。信用されてないからかも。嫌われたのかも。本当に戻ってくるのか。優子のことも重なって、不安が不安を呼んでた」


 あ……そうか。

 思ってたよりずっと不安にさせてしまったらしい。

 ごめん。

 とまた、心の中で謝った。言葉にしたら、余計なことまで言ってしまいそうだったから。

 やっぱり言えない。絶対、巻き込むわけにはいかないから。


「でも、私が言ったわけじゃないわよ。おじさん鋭くてすぐにアリバイだってバレちゃって、あとは勝手に勘違いされちゃって……まぁこれはこれでいいかな……と」

「いやいや全然良くないから。説教されたし、危うくさらに厳しい門限定まりかけたし」


「……紗希?」


 ふと誰かが呼んだ。加奈じゃない。他に人はいないのだ。ベッドで寝ていた寝ぼすけを除いて。


「目、覚ました……?」

「優子……。私が分かる?」


 うっすらと目を開けて、眠そうに目を擦る。


「あれ? 私……。此処何処? 私どうしたんだっけ」

「何かね。貧血で倒れたみたい」


 理由は適当だ。何でもいい。優子はゆっくりと上半身だけ起こした。


「えぇ、全然覚えてない。此処病院? って何で二人とも泣いてんの?」

「心配したから……。それだけ……。それだけだから。何でもないから」

「加奈まで大袈裟だよ。たいして何ともないって。あ!」

「え?な、何?」


 突然優子が何かを思い出したようで、大声をあげた。私と加奈は 何事かと気になる。


「紗希お願い。まだ宿題やってないから見せて」


 と、手を合わせてお願いする。


「ぷっ……。あははは……」

「な、何で笑ってるの?」


 訳が分からない優子は戸惑っている。私たちは吹き出してしまった。いつも通りの優子のらしさを見れて嬉しかったんだと思う。


「何かおかしいこと言った?」

「優子は気にしないでいいよ。ちゃんと見せてあげるから」

「提出期限はもう過ぎちゃってるけど」

「あ、そうだね」


 今はもう昼過ぎだ。今頃提出する時限はもう終わって昼食ぐらいかな。


「何か食べる?」

「あ、じゃあね……」


 学校のことなんか忘れた。昨日の魔界の住人のことなんか忘れた。

 此処が病院であることも忘れ、気分のままに笑った。

長い夜が終わって、私はまた此処にいる。この前まで当たり前にいることが出来る場所に。


 そんなことが、今は何よりも嬉しい。


 誰かが注意しに来るまで、私たちはそんな小さなことで喜び合うのだ。


 いつまでも。


 いつまでも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ