6.マリーの真の能力Ⅴ
「マリー! 優子は何処?」
私は駆け寄った。それもまた危険な行為かもしれない。でも、待つことは出来なかった。マリーの消滅が始まったから。
「おい。近付くな紗希」
「紗希」
ギルとリアちゃんの止める言葉が聞こえた。私はある程度の距離で止まることで応えた。
「教えて。優子は何処?」
「……!?」
うつ伏せで倒れていたマリーは、私の声に反応して顔を上げた。その表情は笑みを浮かべていた。
「は、あははは……。そういえば……、メリーが連れてきたって言ってたわね……。だから、あんなに部屋中を……」
「探してた。何処かにいるかもしれなかったから! でも見付からなかった! 何処にいるの!」
「そんなに大事……? 他人なのに……?」
「友達だもん!」
その言葉を強く口にした。私の大切な友達だ。私のせいで巻き込んでしまった。だったら、だからこそ、助けなきゃいけない筈だ。
「そう。……なら……教えてあげない」
「……!?」
「私だけ、こんなに苦しいなんて嫌……。その娘も、そして貴方も、苦しめばいい! 苦しんで苦しんで絶望すればいい。あは、あははははっあはははははは……!」
何で……。何でわざわざ……巻き込もうとするの?
優子は関係ない。何にも悪いことなんかしてないのに。
足の力が抜ける。私は膝を落として手をついた。
「……して、……せ……、返せ……優子を……返せぇ!」
「……あははははっあははははははは……!」
その時、何かが起こる。何かがそばを通った気がした。そしてマリーが完全に動かなくなった。消滅は速まり、完全に砂と化した。
「永久にさ迷え」
クランツが撃ったのだと分かった私は、膝を落としつつも食いかかるように問うた。
「何で……、何で撃ったの……!」
「……殺すためだ」
手をついたまま、背中を向けたままの私はクランツの表情は伺えない。でも、その怖くなるほど冷静な声質が、ますます気に触った。
「まだ助けなきゃいけない人がいたのに!」
「ここにいる人間なら、既に救出した」
ハッとして顔を上げる。クランツの言葉に耳を傾けた。
「機関の連中が確認済みだ。その優子という人間も、無事だと連絡が入っている」
涙が止まらない。無事だった。助かった。良かった。本当に良かった。
「……ぅ、うぁ……あ、あり……が……とう……」
感謝の言葉も、言葉にならないほど不安定な音となる。私は何回も繰り返した。
「それでも弱ってる者もいる。今は病院に運ばれているだろうが。そのうち、何処の病院かも分かるはずだ」
「うん、うん……」
リアちゃんは私のそばにやって来て、クランツを警戒している。いつ向かってもおかしくない。その辺はけっこうギルに似ている気がする。そのギルのほうは、力尽きたようで意識を失っていた。
つまりかなり無防備な状態だ。クランツが狙うのかと少し危惧したが、それは杞憂に終わる。
「こいつには借りができた。今見逃すことで返してやる。伝えてくれ。見逃すのは今回だけだ。いずれ必ず殺す……と」
ということだった。借りというのは、ギルが乱入したことでマリーを倒しやすくなったことだと思う。
不思議なことに、マリーの消滅と違い、メリーの消滅が今ようやく終わった。人形として作られた存在だったからか、それとも何か他の能力のせいかは分からない。
完全に砂と化した瞬間、周りはただの空き地となった。屋敷はなくなっていたのだ。空はまだまだ真っ暗だった。
クランツはすぐに飛び立つ。また魔界の住人を討つために駆けるのだろう。
「リアちゃんもお疲れ様。腕ホントに大丈夫?」
「……べ、別にこれくらいどうってこと……」
「ありがと」
「……う、うん」
赤くなって照れてるリアちゃんはやっぱり可愛かった。そして気付く。
「あ、そういえばどうやって帰ろう」
「歩くしかない」
来るときはギルに連れてきてもらったけど、今は意識がない。早く治療もしてあげたいのに道具もない。リアちゃんは腕を痛めてるし、二人分運ぶなんて出来ない。どうしようかと悩む。
「……グギュル」
「……!?」
聞いたことがある。ボコッと土が盛り上がり何かが出てくる。六つほど赤い目を持ち、鎌が二本腕のように振り回される。地下にいたやつだ。
「紗希。離れてて」
「……う、うん」
油断ならない。この奇妙な生物はまだ生き残っていたらしい。復讐するつもりなのかは分からないけど、危険な状況に変わらなかった。
「……グ……ギュ……」
「……!?」
襲いかかってくる生物は急に様子がおかしくなる。そして急にバラバラに分断された。
「リアちゃん……?」
「私じゃない」
てっきりリアちゃんかと思ったが違ったらしい。全くモーションがないように思えたが、間違いではなかったみたいだ。
なら誰が?
ギルでもない。まだ意識はないままだったのだから。
新手?
そんな不吉な予感が浮かび上がった。
「いやぁ、やっと終わったみたいデスね。あんな怖そうなお化け屋敷によく入って行ったもんデス」
バラバラと肉片が降り注ぐなか、何者かが現れる。
「イヤイヤ警戒しないでくだサイ。ワタシは味方デスよ。いやホントに」