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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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6.マリーの真の能力Ⅳ

「茉莉!?」

「茉莉じゃないわ。いちいち呼ばないで。それよりも……自分の心配をなさい」


 そう言って振り向いたと同時に何かを投げる。ナイフだ。いつまでも震えている場合じゃない。


「……くっ」


 マリーの投擲はさほど速くない。運動能力の高いメリーならいざ知らず、私でも避わせる。


「馬鹿ね」

「……!?」


 違う。本命はこれじゃない。あえて避けやすく投げたのかは分からない。でも、私が避けることを予測して、今目の前にマリーが迫る。間に合わない。私はもう反射的に目を瞑るだけだった。


 赤い血が飛ぶ。


 深く深く、ナイフが突き刺さった。




 そう思った。でも痛くない。



「…え? ……ギ、ル?」

「他に誰だと思うんだよ」


 刺さったのは私じゃない。私の前に出て、手で防いだのは満身創痍と言えるギルだった。多分口に出したら手が飛んでくるんだろうけど。


「何泣いてんだ紗希」

「べ、別に泣いてないし」


 一応は無事だったから嬉しいと思う。けど、泣くわけない。ぐしぐしと目を擦った。泣くわけなかったけど、一応念のために拭っておいた。


「それより、何てザマだ」

「ちっ……黙れ。先に殺してやってもいいんだぞ」


 いがみあうのは相変わらずだ。でも、互いにボロボロの状態では、さすがに戦うことはないようで安心した。

 ギルが言ったのは、クランツだけじゃない。ゆっくりと立ち上がるリアちゃんにも向けられていた。


「うるさい。そんなのお互い様」


 と、リアちゃんも抗議する。


「何故、貴方が……」


 後退しつつ、マリーの口から溢れる。さっきの私達以上に信じられないといった風だ。


「つーか、誰だお前」


 対してギルはすっとんきょうな質問をする。あ、そうか。ギルは初めて会うんだっけ。


「メリーの主人だ」

「へぇ?」


 クランツの解答に納得出来たのか、すっかり敵意を向けているようだった。


「じゃあお前か。さっきわざわざ操られた人間を寄越したのは。けど舐めるなよ。たかが人間で殺れると思ったか?」


 ビリビリと空気がさらに張り詰めるのを感じる。私は息を呑む。痛手を負っても、ギルに退く意思は全くなかった。


「そう。なら貴方から殺すだけよ」


 苦渋に満ちた顔を浮かべたあと、マリーはすぐにまた冷静になる。リアちゃんに似せた人形が変化して、ギルに似せたものとなった。


「私には、誰も勝てない」

「あぁ? 試してみるか?」


 マリーの挑発に易々と乗るギルを私は止める。


「ギル駄目。あの人形には勝てない」


 でも、私の言うことを聞かないギルは掴む腕を離させようと躍起になる。


「俺が勝つに、決まってんだろ」


 それは万全の状態ならそうかもしれない。いつもと同じく強気に振る舞っているけど、今は私をふりほどくのも難しそうだった。傷が深いのが分かる。血がたくさん滲んでいるのも分かった。そしてそれは、マリーにも察知される。


「駆けたつけたわりには苦しそうね。喜んでいいわよ。すぐに楽にしてあげる」

「油断大敵……」

 

 その時、リアちゃんが宙に飛び上がる。損傷しているのは腕で足じゃない。動き自体にはまだキレが残っていた。


「その人形は二体までしか作れないみたいね」

「……っ!?」


 マリーの表情が図星だと語る。ギルとクランツを対象にしている今、リアちゃんは自由に動くことが出来る。


「ならまた貴方を作ればいい!」

「失敗したな。人形にされるのが誰になるかは分からないが、全員が攻撃体勢だ」



 クランツも銃口を向けた。間に合わない。どれだけ優れた人形師だろうが、限界は超えられない。


「……やめっ! ……メリーっ!? メリーっ!?」


 叫ぶ。それは信頼を置いたであろう者の名。でも返事は返らない。届きもしない。メリーはもう上半身の半分しか原形が残っていない。反応が全くないのは、きっともう……。



 マリーを討ったのは光の粒子とも言える銀だった。クランツが撃ったものがマリーに命中したのだ。マリーは最後の、とっさの判断を誤ったともいえる。本当は、ギルは攻撃体勢じゃなかった。ただ立っているだけ。感じた威圧感もハッタリに等しい。私が腕を離してももう、余力は残っていなかったようだった。

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