表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
102/271

6.マリーの真の能力Ⅲ

 ギルがやられたと聞いて驚いたのは私だけじゃない。リアちゃんも、そして殺すと宣告していたクランツでさえ戸惑う。


「正確には負けてはいないわ。ただ退かせたあと、傷が深くて意識を失った。まぁどうせこのままなら死ぬことに変わりない。バマシャフに行かせて正解だった……ってことね」


 負けたわけじゃない。それを聞いたとき、私の中で何処か安心めいた感情が少しばかり浮上した。だがギルも危険な状態であること、ギルの助けは期待出来ないことに絶望を覚える。


「もう終わりよ」


 打つ手はない。確かにそうかもしれない。私も納得はする。でも私の人形は作られていなかった。マリーは直接自分が戦うことには長けていないと思う。クランツとの僅かばかりの交錯により私にも分かった。何とかあの人形さえ私が奪ってしまえば。私の人形がない今なら。まだ動ける今なら。


 そこまで考えて違和感を覚える。何故、私だけリアちゃんやクランツのように人形を作ろうとしなかったのか。ただ単に、何も出来ない私ならそんなことをする必要がなかったとも考えられる。でも、それは釈然としない。私のことも殺すと、マリーは宣告したのに。


「どうしたの。黙りこんで。諦めたの。でも大丈夫。それは仕方のないこと」

「わ、私が……相手になる……」

「……!?」


 この場にいる誰もが驚く。まさかそんなことを言うとは考えなかったはずだ。


「紗希! 駄目!」


 リアちゃんが叫ぶ。どれだけ無謀なことをしようとしているのか、自分でも震えるほどおかしいと思う。でも私がやらなきゃ。私ならいけるかもしれない。皆を助けたいから私は。


「ふ、ふふ……、あはははっははははあははは……。ただの人間が、私を相手にすると言うの?」

「……そうだよ」


 抑えられていたであろう殺気が、洗練された棘のように私に突き刺さる。


「甘く見ないで。そんな悪い冗談。吐き気がするわ」

「なら、私を殺す? リアちゃんみたいに人形を作って」

「……」


 マリーは押し黙る。それは私には使えないことを示しているのではないか。そんな疑問が私の中で強まった。


「必要ないわ。使うまでもない」

「……使え……ないんでしょ?」


 いつマリーが向かって来てもおかしくない。何とか言葉を紡ぐことで時間を稼いだ。


「私には使わないんじゃなくて、使えないんじゃないの?」

「何の根拠があってそんなことを言うのか分からないけど、はっきりしたことがある。貴方は気に入らない。殺すわ」

「……!?」


 気が触れてしまったらしい。マリーは真っ直ぐに疾走する。それは私にも視認出来るが、対処できるレベルじゃないのは明らかだった。


「紗希に近付くな!」


 機能を失った腕一本を無視して、リアちゃんが残りの腕を振るい、風を巻き起こす。


「邪魔だ! 下がれ!」


 私の言葉がよほど気に触ったのか。リアちゃんの不意打ちに焦ったのか。上品に振る舞っていた言葉使いも、マリーは気にしなくなった。冷静さはもう何処にもない。


「……っ!」


 カマイタチを撃ち出したあと、リアちゃんは弾け飛ぶ。腹部に衝撃があったのか、背中から飛んだ。


「リアちゃん!」

「いつまでも他人の心配してる場合じゃないでしょ」


 問答無用で向かってきた。狙いをつけたカマイタチも、マリーの妨害により遥か斜め上へと飛んでしまう。マリーを塞き止めるものは何もない。私がどうにかしなきゃ。そう思うのに、足は震え動くことさえ無理になる。


「調子に乗るな」


 一筋の光が走った。クランツの銃口から撃ち出されたそれは、銀の色で輝き、真っ直ぐにマリーを狙いとしていた。戦う意思が折れない限り、どれだけ体に損傷があろうと戦うことを止めない執行者の姿だった。


「……っ。メリーっ!?」


 意識がないのか、もう声を出すこともなくなる。渇きを潤したいと望むように右手を上げたまま、硬直したメリーを呼んだ。機能は失ったはずだ。なのに、メリーはこれまでにないスピードで主の楯となる。上半身だけとなって。

 魔を打ち砕く聖なる光は、メリーに割り込まれ、マリーには届かない。激しい光に包まれ、もう苦しみを訴えることもないメリーは、ドッと地に墜ちる。


「邪魔を……」

「ふふ、上出来よメリー。やはり貴方は最高と言っていいほどの傑作だった」


 ゆっくりとその身を崩してゆくメリーを見下ろしてマリーは誉める。最後まで忠誠を貫き通した部下に、志極満足気味だ。何故、そんな風に振る舞えるのか。

 許せないと思っていた筈だ。優子を攫ったメリーのことを。でも、それでも私は、それ以上にマリーを許せないと思ってしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ