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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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6.マリーの真の能力Ⅱ

掌握キャプチャーされた人形ドール……。もう私には勝てないわよ」


 マリーの手の中には一つの人形が存在していた。うす汚れた人形は、青い髪で白い服を着ていることだけ把握出来る。


「さっきのはそれか」

「正解よ。さっきは指で弾いただけなんだけど、けっこう効いたんじゃないかしら?」


 新たにクランツの頭から血が垂れる。拭ってはみるものの、また後から垂れてきていた。


「気にするほどじゃない。それより、これからの貴様の命運でも心配してろ」


 立ち上がるクランツはなお闘志をその眼に宿す。と同時に一層憎悪を抱く。魔界の住人は例外なく殲滅せんと強く踏み切る。


「あははっ、それは貴方の方よ。今度はもう銃なんか撃てないように腕を折ってあげる」

「違うな。要は殺せばいい」


 マリーは人形を掲げる。悠々と遊ぶのだ。相手はもう眼中にもない。マリーの遊び相手はこの人形となったのだから。どれだけ速く攻め込もうとも、クランツのスピードよりマリーが人形を散らせるほうが速いに決まっている。

 だが、油断は死を招くことをマリーはまだ知らない。メリーに任せ、自分は見物。それは何十年の習慣だっただろう。キャリアは無に等しい。

 クランツが圧倒的スピードで距離を縮め、撃ち出したのは銀色の閃光シルバー・レイ。腕一本折られるとしても、マリーに勝ち目はない。


「マリーさまぁ!?」


 この場の誰よりも速く反応したのはメリーだった。衰えたその身体能力だが、反応だけは速く、誰よりも動きの先手を取った。それは主を守るためだけのもの。普段恍惚にものを考えていたはずのメリーが、初めて考えなしに動く。


「……!?」


 弾丸は光となりて、魔を打ち砕く。銀の光はマリーのもとへ。その前に、メリーが割り込んだ。その身を楯とし、欲した命を省みることなく。


「あ、あぁぁあああぁあ…!?」


 まともに受けたメリーは、原型がなかった。体はほぼ消滅し、欠けた顔と右腕と、上半身が少しだけだ。


「……は……ぁあ……ぅあ……」

「ぐぅ……ぁ……、ハァ……順番が変わったか……」


 痛みに耐えるクランツは、折れた右腕でなお対魔武器を手放さない。激痛が走り、持っているのもやっと。これ以上の戦闘は不可能だと言える。


「やはり、魔界の奴らなど信用出来ないな……」


 それはリリアに向けた言葉だった。各々倒すべき敵を振り分けたはずだが、メリーが割り込む形となる結果になったのだから。


「よく言う。敵に言いようにやられてるのに」


 リリアも言い返す。マリーの能力は太刀打ちしようもないほど強力である。強大すぎる能力には、それ相応のリスクか、発動させるのに条件を満たす必要がある。マリーの場合は、明らかに後者である。クランツはそれに当てはまったのだ。


「よく見なさい、仔猫ちゃん」

「……!?」


 マリーが掲げるものは二体の人形。一つはクランツのもの。もう一つは単純に黒い服と、長めの金色の髪。そして余計に黒い猫の耳が頭から伸びている。リリアを象っているのがすぐに分かった。


「……何で、いつの間に」


 驚愕するリリアを嘲笑うようにクス……と失笑するマリーは、人形の右腕を指で掴み、適当に曲げる。


「あぁ、あぁぁ!?」


 その瞬間、異質な音が響き、リリアは腕を抑えてへたり込む。


「リアちゃん!? どうしたの! ……それに……今の音……」

「腕が折れた……」


 紗希の疑問にクランツが答えた。状況は最悪と言える。戦える者はどちらも負傷。余裕があるのは紗希とマリーだけ。どちらに分があるのは言うまでもない。


「ふふ、無理はよくないわ」


 決して折れない敵意がクランツを動かす。膝を落としても、マリーに狙いをつける。だがその瞬間、手元の人形を動かして腕を曲げる。マリーを狙ったクランツの右腕は、強制的に向きを変えられ、自分自身に向けられた。


「……っ」

「そして貴方もね」

「……!?」


 クランツに注意が向いている隙を狙って、リリアも動く。だがそれすらマリーは見逃さない。攻撃が成立するより早く、マリーは手元の人形で遊ぶことが容易だった。


「もう打つ手はなしよ。助けてくれるのは誰もいない。さぁどうするの紗希?」

「……私は……」


 この追い詰められた状況で、紗希は試されるように問われる。まさか自分に振るとは思わなかった紗希は一瞬戸惑う。


「まだ……ギルが……」

「処刑人のこと? あれなら期待しても無駄よ。奇術師にやられたわ」

「……え?」


 紗希は信じられないという表情を作る。まさかそんな筈がない。とでも言いたげだとマリーは笑った。

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