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黒を司る処刑人   作者: 神谷佑都
2章 闇からの招待状
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6.マリーの真の能力

 キンッ、キンッと打ち合う音は、メリーの剣とリリアの風の太刀エアブレイドであった。


「そろそろ本気出したら?」


 リリアがそう提案する。それは妙に思えたからだ。執行者が血を流しているということは、少なからず敵の力量が高いことを予測させる。執行者はマリーの能力は知らないと言った。それはメリーとは戦い、マリーとはまだ戦っていないということだ。執行者はメリーと戦い、傷を負ったのだろう。それはつまり、メリーの能力の高さを物語る。だが、今のメリーは実に貧弱に思えてならなかった。


「……ふふ、貴方は私が本気を出す必要がない相手よ」

「そう。じゃあ出させてあげる」


 リリアは言葉通りスピードを上げて翻弄する。何とかメリーもついてくるものの、それが限界に思えた。両者の斬り合いが弾けた瞬間、真空の刃がメリーを襲う。


「……ぅあぁっ!」


 メリーは避わしきれずに左腕が飛ぶ。だが、本来なら大量の血が出るところが人形のメリーにはそれがない。

腕一本を獲ったリリアだが、優勢であることに安心したりはしない。リリアが持っていた懸念がますます強まるばかりだ。何故、こうもあっさりしているのか。


「マ、マリー様ぁ!」


 痛みを有するのか。左腕を抑えながらうずくまるメリーが叫ぶ。クランツと相対するマリーの意識を向けさせた。


「このままでは……今の私では抑えられません! 命を……命をください!」


 その言葉には、紗希も含めこの場全員が驚く。一体どういう意味なのか。またマリーも一瞬だけ驚いた顔を見せた。だがすぐに冷静になったマリーは紡ぐ。


「何を勘違いしているのメリー。貴方は別に倒す必要はないわ。ただ少し時間を稼いでくれればいいの」

「……解せないな。まるで時間を稼いでくれさえすれば、俺らを倒せるとでも言いたげな口ぶりだ」


 割って入るクランツもまた、釈然としない。マリーの物言いもそうだが、メリーの極端な弱体化やマリーの意外なほどの余裕と立ち回り。何かが奇妙だとクランツの経験が告げていた。


「あら。私はそう言ったつもりなのだけれど?」


 臆することなく笑うマリーは異常なほど冷静だった。


「で、でも……これでは私が……」


 時間を稼ぐといっても、今のメリーには能力がない。固有の能力はあるものの、それを用いて対応するスピード、反射神経、パワー、どれもが欠けていた。リリアがその気になれば、メリーが殺される未来は近いだろう。


「あはははっ、大丈夫よ。貴方は今までよくやってくれたもの。壊れてもまた創って、メリーという名前をあげるから」

「そんな! どれだけ精巧でも全く同じは有り得ません。新しく創っても、今の私は……」

「……そうね。消失するわね」


 そこから先は続かない。しかし、マリーの剥がれた冷たい瞳が物語る。マリーは言ってるのだ。メリーに死ねと。


「茉莉!」


 郷を煮やし、割り込んだのは紗希だった。我慢出来なかった。許せなかった。どうしてそんなことが言えるのか分からなかったのだ。


「どうしたの? 大きな声を出しちゃって。おともだちを拐われて、この娘が憎かったんじゃないの?」

「そ、それは……」

「不安じゃないの? まだおともだちが無事かどうかも分からない。なのに、目の前の仔猫やメリーを心配するなんて……どうかしてるんじゃない?」


 どす黒い視線が紗希一点に集中する。殺気はない。しかし、吐かれた言葉に紗希は押し潰されそうになっていた。


「皆心配。皆助かればいい。そんな考えだから、私達に狙われる羽目になるのよ」

「……」


 何も言えなくなってしまう。あの夜、ギルを助けようと走った。また別の夜、リリアを助けようと駆け出した。それはいけないことだろうか。


「そんなことはどうでもいい」


 考えの相違など、あって当たり前。元から合わせようともクランツは思っていない。


「随分と舌が回るようだが、ついでに答えてもらおうか。命とはなんだ?」

「人形に吹き込む心臓。と言ったらいいかしら」

「十分だ。俺に対抗するため、メリーから返してもらったとすれば、筋が通る」


 マリーといえど、執行者には対抗しきれない。メリーに与えた命を奪うことによって、クランツの銃弾を見切るようになった。当然奪われたメリーは弱体化したということになる。リリアもすぐに理解した。


「だがその選択は失敗だ。たかがその程度、影響はない」


 一発撃つ。それは囮であると、マリーも認識出来る。避わしたマリーの行き着く位置にクランツが回り込む。


「片腕がないと、つらいわね」

「貴様には関係のないことだ」


 囮だと分かるなら、追撃があるのも当然予測が出来る。だが、クランツの動きは予測してどうにか出来る程、マリーにはまだいささか力が足りない。


「メリーに全てを込めたほうが良かっただろうな」


 メリーの動きは中々のものだった。さらに力を送られれば、マリー側からすればマシな展開になったはずだ。 クランツはマリーの間違いを指摘する。それは最後になる者への手向けに近い。


「どうかしらね?」

「……!?」


 ドッ―とクランツが突然体勢を崩す。いやそれにとどまらず吹き飛んだ。 すぐに臨戦体勢に直すが、何の衝撃だったのか分からない。横たわるメリーによるものでもないだろう。挙動は見られなかったが、やはりマリーが何かしたのだろうか。


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