本の守護神
おっちゃんー未だに名前すら知らないーが言うには、おっちゃんの店ははっきり言って道楽に近いらしい。
本来、高級な書物は鍵付きのケースにしまわれ、貴族が買いに来るもので
この店のように一般人でも気軽に入れる店のたたずまいと、立ち読みOKな雰囲気は言語道断だそうだ。
しかしおっちゃんは、"渡来人"、(つまりゲームで言うところのプレイヤーである俺達)の作ったレシピ本を近所の奥さん方が読んでいったり、"漫画"なんてものを子供達が読んでいくのが好きで、本当に図書館状態だったのだそうだ。
もちろん、俺みたいに注文した本なんかは店頭に並べず、直接渡してくれる。
---余談だが、俺の注文している"月刊スクロール"(月刊巻物ってなんだよ)は渡来人を中心に編み出されたスキルが紹介されている雑誌で、スキル厨の俺としては確認せずには要られない。
本当に重要なスキルは隠されていると知っていてもだ。
俺のところに編集者が来たこともあるが、当然ながら無難なものを紹介しただけだ。
かと言って内容が薄っぺらいものでなく、あのスキルは~と~ではないかと言った考察も載っていて非常に興味深いーーー
と、話がずれたが、そんな稼ぎが俺からのみ、と言ってもいい状態の運営だったが、最近になって万引きが増え、仕入れの金は元より、生活の方すら危うくなってきたとあれば、道楽に精を出すわけにもいかない、とまぁ要約すればこんなところだ。
別にさぁ3つ先の町で購入するのが苦ってわけじゃない。
でも俺の縄張りで好き勝手されちゃたまらない。
俺はこの町が気に入っている。
自分の大事なモンを人任せにしちゃぁ、ダメだよな。
「おっちゃん、この依頼引き受けたぜ」
「はぁ?」
「消えたと思われる書籍のリストは作れるかい?」
「あ、ああ。そのくらいなら問題ないが。依頼って高い報酬は払えねぇぞ?」
「自分の店の書物全部把握してるとか流石だね。やっぱ買うならこの店だぜ。なぁに、報酬は月刊スクロールの最新刊を入れてくれりゃ、それでかまわねえよ」
「余所で買ったほうが早いんじゃないかい?」
「そんなに待たせやしないよ。さぁ、さっさとリストを書いてくれよ」
「あ、ああ。」
翌日から書店"インクの海で溺れたい"に一人の女性客が居つくことになる。