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雲の過ごす日々

 私は驚きでその場で崩れ落ちてしまった。

あるはずのものがない恐怖と

ありえないものがある恐怖。


 あなたの罪の一部、確かに頂きました。

                怪盗 Cloud / Dark


 名刺サイズの紙に小さく一言、署名、そして漆黒の雲のイラストがシンプルに描かれていた。

一部、というからには私の悪行が今回だけではないことも見抜かれているのだろう。背筋に薄ら寒いものが走る、

だが一方で、私は心のどこかで安堵しているのも感じていた。

どうしても必要だったわけじゃない。

どうしても欲しかったわけじゃない。




「よう、おっちゃん、月刊スクロールの最新刊入ってんだろ。」

エイセスセニスのそれほど大きくない町の唯一の書店。

軽そうな少年、いやもう青年に近いだろうか、が話しかけてくる。

"渡来人"により紙が量産されだしたとは言え、未だ高級品であり、当然本なんかはお貴族様しか買えないようなものである。

私としてもそうポンポン売れるものじゃないと分かっているのだから

半分は道楽であった。

それを、目の前の青年は毎月発売日に買いに来る。

それどころかやれあの本を入れてくれ、この本を入れてくれと注文してくる。こんな田舎の町じゃ、最新の本を仕入れるのも難しいのだが、そんな無茶振りもいつの間にか楽しくなっていた。

ある意味私は彼のために本屋をやっている、というより、彼の私設図書館とでも言ったほうが正しそうである。

こんな馬鹿高いものを毎月何冊も買っていくこの青年に興味もあったが、それももうお仕舞いである。

「悪ぃな、坊主、月刊スクロールはまだ入ってないんだ。」

 言いたくはなかったが、仕方あるまい。

「おっちゃんが発売日に仕入れミスるたぁ珍しいな。輸送のミスでもあったのかい?」

「そうじゃねえんだ。もうこの店畳むしかなくってな。おめえさんが顔出すのを待ってたんだ。なんせウチ唯一の常連さんだからなぁ。」

 思わずうつむいてしまうのは止むをえまい。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!いったいどうしたってんだよ?おっちゃんの店がしまっちまたら俺は三つ先の町まで行かなきゃならないんだぜ?しかも発売日から1週間ほどまたされちまう。おっちゃんの仕入れがどうなってるのかさっぱりだが、居なくなられちゃ困る。買う人間が少ないったって俺が買ってる分だけでも相当コレが落ちてるはずでしょ?」

親指と人差し指で丸を作る青年。

「おれも坊主の支払い能力にゃさっぱりだが、そこはあれだ。近頃売れてもねぇ本が姿を消すことが多くってな・・・」

「万引きかい?なるほどね、原価の高い本じゃ万引きは死活問題だからね。こちとら他人事じゃねぇ、おっちゃん、ちょっと話してみなよ。」

 青年が言うとおり、本が盗られりゃ数冊で首をくくるしかねぇ。

常連さんへの恩義で敬意を説明することにした‐‐‐。




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