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更なる闇へ

「昔、施術を受けに来た客から聞いた言葉があった。その内容はちんぷんかんぷんだったけど、確か“最大多数の最大幸福“。ひもじい思いをしている人の横でご馳走を一人で食べてもどこか気がねしてしまう。なら分け合って食べたら量は減るかもしれないけれど満足できるだろう、とそういうことじゃないかと僕は解釈したんだ」


 ノイスルゼには多分元々はそういう意味ではなかっただろうと思いながらもこの男にはそれでいいのだと感じた。


「……私も一緒にさせてください!」


 男の目が大きく見開かれる。


「……一応聞いておくが、何をかな」


「泥棒です」


 答は間髪入れずに返された。


「そう、泥棒だ。遊びとは違う。例え喜ぶ人がいたとしても兵に追いかけられる立場だ。君は学院でも優秀な成績を残している。そんなことをしなくても世の中のためになることができるはずだ」


 平民から成績優秀者として取り上げられることの意味は小さくない。これからの平民たちにとっての希望足り得るし、貴族たちが振り返るきっかけにもなりうる。


「今はいいです。でも貴方が捕まったら?現に今回私が助けなかったらそれなりにマズイ立場だったはずです。貴方は必要悪です。悪を浄化する悪、貴方がいなくなったらそれで終わりです」


「君がいればそれが防げる、と?」


「私の有用性は今回証明しました。ですが、私だけでは無理です。“闇雲“は個人ではダメなんです。組織にしましょう。裏から支援をする人を、現場で動く人を、というふうに。もう“闇ノ雲(アンノウン=不明)“は貴方だけじゃなくていいんです。」


 返す言葉を失った。

自分が居心地よく生きるためにしていた。

だから自分がいなくなった後のことまで考えていなかったのだ。

それを無責任というかはわからない。


「貴方だけじゃなく皆で居心地のいい場所を作りませんか?」


 そう言って彼女は手を差し出したのだ。







「最近は“闇雲“の話がトンと出ないな」


 町の中で男達が雑談をしていた。


「ああ、大きい声じゃ言えないが俺ぁ、楽しみにしてたんだ」


「俺も俺も」


 腕を組みながらウンウンと頷く男たち。

そこに一人の男がフラリと混ざり込んでくる。


「……それについて面白い話を聞いたぜ」


 一斉に視線が混ざり込んできた男に向けられる。


「最近事件が起こったり大騒ぎするようなことがなくなったと思わないか?」


 ウーン、と考え込むが確かに大きな事件が起こったという話は聞かない。


「なんでも、だ。“闇雲“のやつが将来の問題ごとまで人知れず盗んじまったってんで耳目絵の売手らが毎日困ってるって話さ」


「なんだそりゃ、ぐうける落ち話だな」


「おっと、そろそろ仕事をせにゃ、カカアのやつが鬼瓦ってな」


「ははは、なんだそりゃあ。っておい、おれたちもそろそろいかねぇとどやされるぞ」


「おう、じゃあまたな」



 人気がなくなったところで会話に混ざり込んだ男の表情がスルリと抜ける。


「うん、この町は問題なさそうだ。」


 より濃い闇が姿を隠すとも確かに雲はそこにある。人知れず今日も平和な生活を盗み得るのだ。

 




 ノイスルゼの協力を得て、前より緻密な計画がなされ一目につかなくなった秘密結社“闇雲“。街の中の色んな人たちがメンバーとなって協力しています。例えば有名な耳目絵師さんとか。もしかしたら街中の人がメンバーかもしれない。


 これにて閉幕です。

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