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2度目の世界

「大丈夫だ」


 そう言って立ち上がろうとする僕を支えようとする彼女の甘い香りが逆に動きをぎくしゃくとさせた。


「何が大丈夫なんですか!あなたは三日間も寝たきりだったんですよ?訳ありっぽそうだし、外傷はなかったから家で寝させて様子を見ていたけど、流石にそろそろ医者に見せないとまずいかなって思っていたんですからね」


 それは衝撃的な発言だった。

自分としては数時間くらい寝たのかな、くらいにしか思っていなかったから。妙に頭がスッキリしているなという気はしていたが、体の方は逆に鈍っていたのだ。



 結局それから3日間さらにお世話になることになる。


「本当に目が見えないんですか?あ、ごめんなさい。あまりにも動きが滑らかなものだからつい」


 表情は無論わからなかったが、声がわずかに震えていた。


「…他の人間がどうかはわからないが、僕は一度覚えたところなら問題はない」


「そういうものなんだ?」


「いや、あまり僕を基準にしてもらっても困る」


 それは事実だった。僕は外の世界を知らないのだ。


「…私、実は開発をやってるんだけど、一緒に働かない?」


 それは唐突な勧誘だった。


「いや、だから僕は目が…」


 普通に考えて働き手としては不適切だろうと思う。内心では助かると思っていたが。


「うん、それは分かってる。別に君じゃなきゃいけないわけじゃないんだけど、ちょうど目が見えない人の協力が欲しいんだ。これも何かの縁ってやつだね。それにしても名前はまだ思い出せないのかい?呼びづらいったらありゃしない」


 一度目を覚ました時はバタバタしていて、またすぐ寝入ってしまい、次に目を覚ました時に自己紹介をした。彼女の名前は上比奈六花と言うらしかった。僕には


       名前がなかった。


 ただの機械のようなものだったからだ。

何となく言いだしづらかったのを気遣かってくれたのだろう。記憶喪失だということで話を進めてくれていた。


「よし、君のことは安野やすの くもと言うことにしよう。なんかふわふわして落ち着きなさそうだしな!うん、それがいい」


 顎に手を当てて真剣な顔をしていた六花さんはそういった。どうしてそこに至ったのかさっぱりわからないし、さりげなく酷いことを言われている気がしたが、自分の名前というのは悪くなかった。


「なんだその顔は?気に食わなかったらさっさと思い出すんだな」




 そして数日後、彼女の仕事の手伝いをすることになった。開発品を頭に被せるというのだが、目が見えない以上何をさせられるのか流石に怖かった。


「大丈夫だ、多分なんともない」


 という開発者のお墨付きが1番恐ろしかった。


「多分、君の1番望む結果になるだろう。リリース、オンと覚悟が決まったら言ってくれ。それがスタートの合図だ」


 躊躇ったのはほんのわずか。助けてもらった恩もあれば、数日間とは言え一緒にいたのだ。悪いことにはならないだろう。何よりかつての自分より悪い状況は想像できなかった。


「リリース、オン!」






 目の前にはどこまでも続く平原が広がっていた。

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