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“闇雲“の影

「私の元々いた世界には針灸師という職業があってね。針を使って人のからだのツボ…要所を刺激することで血流をよくしたり、凝り固まっている筋肉を弛緩させたり…要するに人の体を整えることを生業にしている。ちょっと説明が難しいんだがわかったかな?」


 一旦話を区切り、ノイスロゼへと確認する。


「はぁ、言っていることは理解しているつもりですが、俄には信じがたいですね。針ってあの針ですよね。貴方はその針灸師だったのですか?」


 やはりこの子は賢いと思いつつ、首を横に振る。


「世の中には表があれば裏もある。薬も大量に使えば人を死なせることもあるように、疲労をとるツボも数mm深く押し込むだけで死に至らしめる。暗針師と自分たちでは言っていたかな」


 自嘲の笑みが浮かぶ。


「この世界だと王様や宰相とかになるのかな?国を動かす存在や有名人が人に勧められて私たちの元へと訪れる。針を刺し、一時的に疲労をとりながら言うんだ。


 『お客様、肝臓の様子が良くないですね。一度医者に診てもらった方がいいと思います』


 全身が軽くなったお客さんは『いやぁ、なんだか若返ったようだよ。これからもひいきにさせてもらおうかな』


なんていいながら店を出ていく。僕らはまたのお越しをなんて言わない。二度と訪れることはないのを誰よりも知っていたからね」


 思い返して自然とうつむいてしまう。


「要人、有名人色んな人が紹介されてやってきて数日以内に訃報が訪れる。ああ、この業界が普通だったわけじゃないよ。うちが特別だっただけで。もちろんその家に生まれた子も普通に育てられることはない。6歳頃までは多分他の子と変わらないんじゃないかな?6歳からは一族の業について教えられる。そして10才になる頃、最も才があるとされた子の視力を先代の手で閉ざす。視力を閉ざすことで聴覚、触覚を敏感にするため、お客さんが誰であるかを知らないようにするためだね。」


「確かに生れつき目の見えない子が非常に聴覚が優れていたなんて話を聞いたことがありましたけど…故意に潰すなんて…」


 ノイスロゼが引いていた。無理もない。


「僕もね、何十人、下手をすると、百人以上殺めた。黙々と人を殺める機械にでもなったかのような日々に飽き飽きしていた。だけどそれより、もう一度色のついた世界を見たいと思っていた」


例えば、夕焼け。


 例えば、雪景色。


例えば、桜の吹雪。


 例えば、椛の絨毯。


 過去になって美化された世界は現実よりも綺麗だったかもしれない。


「そんなある日の夜、僕たちの施設に火が放たれた。偶然燃え移ったのか、手に掛けた人の親類の復讐だったのかはわからない。皮肉なことに真っ先に気づいたのは僕らだった。いつもより乾燥した空気に焦げる臭い。だが逃げ切れた者は多くはなかっただろう。私自身よく覚えていないが、必死に空気の流れを追って無様にはいつくばって逃げたように思う。ただ、もう針を使わなくていい、とホッとしたのを覚えている。行く当てもなくさ迷っていたが、慣れていた鳥かごの外は私を疲労させていたようで、知らず気を失って倒れていた。」




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