罠
はぁ、はぁ、はぁ。
暗く狭い路地裏で、壁に手を当てて息を荒げる。
「さすがに渡来人4人がかりは、反、則、だろ」
その呟きを聞く者はおらず、応える者も無論いない。ヨロヨロと身体の向きを変え、壁に背を預けて空を見上げる。
町の中で話を聞くと、どうやら木材の値段が上がっているのは間違いないらしい。ある貴族と手を組んだ商人がその資本と権力を背景に買い集めているようなのだ。
商人の稼ぎ方をどうこう言うつもりはないが、木材は冬場の暖をとるためには必須なものだ。時として人命にも関わるとあらば、放ってもおけまいと噂の商人の店舗へと忍び込んだ。
ーーーその瞬間に強烈な光が闇をかき消した。
思い返してみれば光魔法の“ライト“をアレンジしたものだと思われる。
「これが“闇雲“?なんか弱っちそ~」
明るい少女の声が響く。
「“闇雲“って色男って話よねぇ」
続く声は艶を帯びた声だ。
「おいおい、こういう姿をどうこうするやつってのはたいていコンプレックスを抱えたブ男だっての」
男の 声が混じり、
「そういや、あんたもキャラをいろいろ弄ってそうよねぇ」
とからかうような低めの女の声。
驚いたのはどういうわけか、自分の探知スキルにひっかからなかったからだ。
暗視スキルを使っていたことで光魔法の影響をもろに受けた目はしばらく使い物にならなかった。声を頼りにするなら4人の、恐らくは手垂れに包囲されていた。
「何が楽しいかわかんないけどさ、あんたの火遊びに怒った人がいてさー。生死問わずで構わないから捕まえろって依頼が来たのよねぇ。おかげさまでいい稼ぎになりそうだわぁ」
艶声が弾んだようにそう言う。
「まぁ、そういうわけだからさ、おとなしく捕まれってわけ。あんまり手間かけさせないでくれよ」
好き勝手なことを言う奴らだが、おそらく腕は相当立つと思われた。
「お喋りはそこまでだ。目が見えていないうちにやるよっ」
低い声の女性が纏め役なのか、そう言うと一斉に自分へと向けられる圧力が増すのを感じた。
ーーーこの何もない世界は久しぶりだ。
ーーーだが、お断りだ。
見えているかのようにそれぞれに向かって針を打つ。攻撃力はまるでないが、その正確性にこちらが見えていると判断し警戒する4人。動きが固まる瞬間を見計らうと、窓ガラスを割って外へと飛び出した。
五感リンクは外的要因により感覚のいずれかに妨害を受けると使用不可能になるのだ。
聴覚だけを頼りに歩くのは久しぶりだったが、かつて長い時間を過ごした経験が足を進ませた。
今回の話は完全に罠だった。
本腰を入れて自分を殺しに来ていた。
道が別れる度に幻術で血痕を残し、わざとらしく拭き取った痕を残す。
高所からの落下は予想以上に負担がでかかったが、
怪我は一切ない。
当然出血など一切ない。
やってきたことを考えれば人に恨まれたとしてもおかしくはない。自嘲気味に笑みを浮かべ夜道を歩く。
追いかけて来る気配が感じられなかったので、すこしだけ足を止めて休憩をとる。
息を整えた頃、嫌な予感が脳裏を走った。
あの4人は自分を見失った後、ある程度の範囲を囲んで少しずつ範囲を狭めながら捜索していたのだ。不意をつけたさっきとは違い、次囲まれたら逃げられるかわからない…。
冷や汗が背筋を伝う
「こっち!」
背後からそんな声が聞こえる。
これも罠である可能性は否めなかった。
「早く!!奴らがくるっ」
覚悟を決めて声の元へと飛び込んだ。




