事情聴取
「どうして我々に相談してくれなかったんです?」
事件から三日後ロンバルド商店の応接間にて店主と、王都の治安維持を預かる衛兵隊隊長の会談があった。
正確には事情聴取である。恐るべきことに事件の翌日こそ休みだったものの、2日目には営業再開という行動の早さには目を見張るものがあった。
一応被害者の立場であるから、出頭させるのではなく、衛兵側が先触れを出して赴いたのだが、店の前に並ぶ人だかりを見て驚いたのも無理はなかろうな話だった。
「いやはや、もう営業再開とは驚きましたな」
今回の事件を重視した隊長は自ら足を運んでいた。挨拶代わりにそんなことを言ってみれば、
「いやいや、逆ですわ。あんなことがあったからこそ人が集まるんです。本当なら昨日から再開したかったんですけどね、流石に何かあって来ていただいたお客さんに何か不手際があっちゃならないんでねいろいろと確認したり、店の整理したりで1日潰れてしまいました」
苦笑しつつそう言う店主を前に、隊長の方が苦笑したかった。商人というやつはこれだから…と口に出さないよう必死でこらえる。
「それにしても今回は被害が少ないですね。我々も出動しましたが、それにしても、です。暴れた加害者によって庭が一部損壊、見張りについていた者も殴られて意識を失っていたわりに、その日の晩には目を覚ましてケロッとしていたと聞いています」
そう、今回の事件は荒っぽいことも平気でする“砂ねずみ“にしては被害が少ないと言ってよかったのだ。
「そらそうでしょうな。事前にこの日ああなることを聞かされておったのですから。流石に不審に思われないよう、見張りの者を外すわけにはいかなかったのですが、彼らにも無闇に抗戦せずに大人しく倒れた振りをしておくように言っていましたから。まぁ怪我がなかったのは幸いでした」
「どういうことです?」
隊長がそう聞いたのは無理もなかった。
実はこの商店もグルになって罠にかけられた可能性まで考えていた。
袂に手を入れた店主が出したのは一枚のカードだった。
「これは…!?」
“闇雲“が寄越すという犯行証明証とも言うべきカード。しかし今回書かれていた内容は、
大罪を頂くため貴方の屋敷を借り受けたい。
了承頂ける場合は王都一の耳目絵広告欄にて返事を頂きたい。
それを読んだところで冒頭にいきつく。
「いやはや、私はこれでも誠実な仕事をしてきたという自負があります。このカードを見習いが青い顔をして持ってきたときは表情を取り繕うのに苦労しましたぞ。何故相談しなかったのか、といえばまず一つはまだ何も盗まれていなかったからですな。そして二つ目、純粋な興味です。」
目の前の男が何を言っているのかわからなかった。
「“闇雲“は犯罪者です。国民として情報を供与して下さってもよかったと思いますが」
少し皮肉気味になってしまったのは止むを得ないところだろう。
「すぐに衛兵に渡りをつければその場で見切りをつけられて終わりだったでしょう。ひとまず話を聞いて、それがだれかの災いだったならすぐに申し上げるつもりでした。ですが、内容は隊長殿も知っての通り、砂ねずみ捕縛の手伝いというわけです。そういえば衛兵隊もそのことでお褒めの言葉を戴いたと伺っております。おめでとうございます」
皮肉に対するこの返し方、やはり商人というやつは好かない。
「それで、“闇雲“に会ったんですか!?」
今回のことで最も気になることはこの一言だった。
「隊長さんが最もよく分かっていらっしゃると思いますが、彼が本物であるかどうかを調べる術はありません。ただ、貴族の方だと言われても疑えないほど、堂々と、優雅な男振りでした。歩き方もどこか華があって妻といくつかの商品を除けば、数少ない目が引き寄せられた存在でしたな」
そう言う一流の商人はどこか照れ臭そうにそう言った。
「そっちの気がない私ですらそんな塩梅でして、同席したいと言ったミーハーな妻には何か言えもせず困りましたわ。とまれ、最初に言ってみたんですわ。貴方が連絡をくれた“闇雲“であるか我々には確かめようがない、人にモノを頼むならちゃんとした姿を見せるのが筋ではないか、とね。正体を知りたいと思ってつい言ってしまったんですがよう無茶したもんですわ」
そんなことはどうでもよかった。
「それで、どうなったんです?」
せっつく隊長に苦笑いで店長が答えた。
「それがな、いかにも困ったちゅう表情で、『確かにおっしゃる通りです。ただ、自分にもどれが“本物“と言ったらいいのかわからないんですよ。なんなら頬を抓ってみてもらっても構いません』なんて言われてな。私は流石に貴族然とした方の頬を抓るなんてのは躊躇われたんですがね、妻の方が『えいっ』なんてやってしまうもんだからびっくりしましたよ」
触れそうになるほどまで近づいた隊長を押し止めるようにそう言った。
「その後の会話も驚き過ぎて何も言えませんでしたよ『あら、男の方にしては滑らかな肌ね。うらやましいわ。どういったケアをなさっているのかしら』なんて聞くんですから。女の神経ってのはさっぱりですよ」
最も更に驚かされたのは“闇雲“の発言のほうだったが、声を小さくしてつぶやく。
「もちろん、貴店でも取り扱っておられるあの…“日一日と自分を見るのが楽しくなる“っていう、ネーミングセンスはどうかと思いますが、効果は確かに高いやつです。香が強すぎないのがお気に入りでして…」
そんなことを言ったのだが、あれは苦労して生産者に渡りをつけた商品で生産数が少なく効果も高いこともあってほとんど顔なじみの貴族の奥方に限って販売している。
「他の人に言ったら、皆欲しがって、逆に貴方の分がなくなってしまいますよ」
と、商売人からすれば言いたくないことを言わなければならないくらいである。私の顔なじみの方々はできた人が多く、私や生産者をなんとも思っていない貴族連中から守ってくださるーーーもとい自分たちが囲っておこうとしているだけかもしれないがーーーのでどうにかなっているが。それを手に入れられるというのは一体どういう存在なのだろうか、と店主は毎夜妻の顔を見ながら思うのだ。
ーーーまさか、生産者じゃないだろうな。




