盗乱符
紹介された耳目絵の製作所はその業界では大手らしく、大きめの工場で人があくせくと働いていた。
「ちょいとすまねぇ」
工場の入口にいた青年に話しかける。
「はいよ、ああいらっしゃい。悪いけど号外なら売り切れちまっててな。今慌てて印刷かけてるところなんだ。最近は事件の内容より絵のほうが楽しみらしくてな。「事件ならお前さんより詳しくしってらぁ。俺が欲しいのは絵の方だ」なんて臆面もなく言ってくる輩までいる始末さ。ありがたいっちゃぁありがたいんだが、どうも釈然としねぇわな。っとお客さん相手に愚痴っちまったすまねぇな。そんなわけだから刷り直したのは明日の朝には並ぶよ」
矢継ぎ早にかけられる言葉にタジタジである。耳目絵師ってのはみんなこんなんだってなら俺は耳目絵師に友人はできないかもしれない。
「いやいや、そうじゃないんだ。さっき門をくぐった先の広場の露店でなんだか面白い遊具が一部で流行り始めてるってんでここを紹介されたんだけど」
その言葉を聞いて目の前の男の表情が急に引き締まる。
「まだ公にはしてねぇ…。馴染みの連中に試して貰っただけなんだが…。広場の露店ねぇ…まぁあの人ならどこでどんな格好しててもおかしかぁねぇか」
ぶつぶつと一人呟く男。
何かに巻き込まれてしまったのかと急に不安になってしまう。
「まぁ、あの人が認めたってんなら大丈夫だろ」
露店の親父が一体何者だっていうんだよ
「ほら、これさ」
一旦奥へと引っ込んだ男が持ってきたのは小さな紙の束だった。紐で十字にとめられているのを、許可を得て外してみると一枚一枚に絵が描かれている。角に数字とマークがあり、中央に特徴をよく表しながらも簡略化された男などの絵である。
「まぁやってみないとわからねえよな。」
そう言って男がカードを絵があるほうを上にして並べはじめた。
「角にマークがあるだろ?これが4種類あって、それぞれのマーク毎に1から13までのカードの計52枚と数字とマークのない黒い雲が描かれた1枚のカードがある。」
言われて良く見てみれば、確かに言われた通りに分類することができる。
「この4つのマークは今よく聞く犯罪者組織のマークだな。“砂ねずみ“、“緋狒“、“真黒“に“黄猿“だ。」
よく見れば、全部を知っていた訳ではないが、確かにかつて捕まえた組織の者が身につけていた服なぞに共通してつけられていたマークであった。
「番号は大きいほどその組織での役割の立場が偉いことを意味する。中でも13は頭領、12は副頭領、11、10は幹部だな。」
言われたカードを見ると、10から13は縁取りがされ、数字が大きいいほど意匠が細かいようだ。
「俺達は衛兵となって組織の人間を捕まえるというのがゲームの主旨だが、まぁゲームだからな。多少矛盾もあるしルールもある。まず、4つの組織はすべて犯罪組織だが、犯罪者同士仲がいいってわけじゃない。ま、当然だな。獲物の取り合いをしているわけだから。そんなわけでどれか一つの組織だけを弱らせると、他の組織が活動的になってしまう。できるだけ同時に弱らせた方がいい。」
ふむふむ、なるほど。遊戯のはずなのにやけに真剣になって聞いてしまっていた。商人であることを忘れて夢中になってしまっていたのだ。
「そして流石相手は名うての盗賊団、捕まえられるのは5人だけだ。これらを踏まえて説明すると、だ。まず最初に5人ずつ組織の人間を捕まえたところからゲームは始まる」
男がカードの束を混ぜ合わせると、私に5枚、自分に5枚取り分ける。
「さっきも言ったように、各組織を同時に弱らせた方が効果的だから、同じランクのメンバーを捕らえると点数が高くなる。たとえば平の団員だが、黄猿と真黒の3を一枚ずつもってたら3の1セット。黄猿と緋狒の2と真黒と砂ねずみの6だったら2と6の2セットってわけだな。それ以外にもここに描いてあるようなセットがある」
幾つか絵柄でセットが描かれておりわかりやすい。
「捕まえた奴らを泳がせて、代わりのやつを捕まえることができる。始めに何回までかを決めておく必要があるぞ」
そう言うと男は手札を一カ所に5枚放り出し、新たに5枚を束の上からとる。
「ただし、さっきも言ったが捕まえられるのは5人までだからな。逃がした人数分しか捕まえられない。それから、捕まえたセットが同じだった場合は、捕まえたセットの一番大きい数字で決まる。重要度の高い団員を捕まえてた方が功績がでかいってことだ」
なるほど。シンプルだがなかなか面白そうである。手持ちのカードを交換してみる。あれ?
「そう言えばこのカードはなんです?まるで“闇
k…」
一差し指を唇に当ててその先を言うなと暗に伝えてくる目の前の男。
「このカードは何にでも化けられる。どの組織のどの役にでもな。但し、同じセットだった時はこのカードを使っていたほうが負けになる。例えば“砂ねずみ“の団長に化けていたとするだろ?
衛兵は“砂ねずみ“の団長を捕まえたつもりだが、本人は牢屋の外なわけだからな」
どこか声を低めにして伝えられた内容にゾクっとした。
「まぁ試しに何回かやってみるか。遊んでみるよりわかりやすいものはねぇからな」
そして5、6回遊んでみたのだった。
「いやー、あんた初めてなのに強ぇな。行商やめて衛兵になったほうがいんじゃないの?」
いやいや遊戯だから。
まぁ悪い気はしないけれど。
「これは面白いですね。実は私3日後に別の町にむけて出発するんですけど、できるだけの数を売ってもらえれませんかね?」
「おいおい、豪気じゃねぇか。まだ売れるかどうかわからんぜ?」
「いや、これはいいものですよ。いいものが売れるかどうかは商人の腕の見せ所ですよ」
「なるほどなぁ。あい分かった。そういうことなら頑張って精々200個ほど作れるかなってところだが」
どうする?と男の目が尋ねてくる。
「では200個で」
間髪入れずに応えて一斉に私たちは声をあげて笑う。あえて値段を言わなかった男と、聞かずに購入を即断した私。
売れると踏んだ以上、幾らだろうと利益は出してみせますよフフフ。
「……それでこれはなんて言うんです?」
「…ああ、そういや言ってなかったな。こいつは…」
こうして各地で流行ることになるこの遊戯。
どういうわけか、王都と近辺の村で同時に流行りだしたという。
売って回ったという行商人はこれで一財を成し後にこう呼ばれることになる
「盗乱歩王」
カードに描かれた、特徴をよく表しながらどこか愛嬌のある絵。あるとき子供がカードの顔と似た男が街を歩いているのに気づき衛兵に伝えた。
半信半疑ながらも様子を見に行ってみれば、どうどうと街に遊びに繰り出していた緋狒団の幹部達。それから集められた衛兵達に包囲され全員捕縛されたという。
カードに描かれてるのは本物だっというのでまた話題の種になったとか。どこぞの絵師が腱鞘炎になったという噂もある。
「ぬすっとの足(活動)を乱せし盗乱符。盗乱符と申します。」
悪逆非道の盗賊団“砂ねずみ“を壊滅させたことで表彰された衛兵達。
しかし、人々は皆知っている。
ーーー本当の功労者がだれかということを。
まぁ、トランプのポーカーです。
犯罪抑止のために売ろうとした泥棒さんと、
無欲な功労者をちゃんと知らしめようとした耳目絵の制作者の話です。
行商人「俺は?」




