行商人と露店の親父
自分の販路を回りまわって、久しぶりに王都へと帰ってきた行商人がいた。
長い検問にウンザリしながら中に入るとどうも騒がしい。そばにいた屋台の男に話しかけた。
「なぁなぁ、なんだかすごい賑やかだが、なにかいいことでもあったのかい?」
屋台の男は手をとめず黙々と作業をしながら答えた。なんだかいい匂いがする。
「それ、一つ貰おうか」
「へい、毎度」
応える声がわずかに明るくなったような気がする。
「お客さんは、遠くからきなさったのかい?」
熱っ、熱っ、でも旨っ。
ちょっとソースが濃いめだがうまく麺と絡んでいる。
「ああ、行商であちこち回ってたからな。ついさっき王都に入ったばっかりさ」
「あちこち回ってるってんなら、“砂ねずみ“って聞いたことありますよね?」
ズズっ、ズズズっ。
“砂ねずみ“って言えば、今恐れられている犯罪組織の大物の一つだ。行商の旅に出てれば出くわさないようにって祈り続けているくらいだ。
「それがさ、壊滅したんだと」
「ふーん、壊滅ね。下っ端辺りが捕まったのかいって、え!?壊滅?」
屋台の親父がカッカッカと笑う。
「そうさ、衛兵5隊が揃って町中駆けずり回ったって話さぁ。なぁ、疑わしいだろ?そもそもこれまでうまくやってきたねずみがこうも先手先手と立ち回られて捕まるものかね?俺ぁ、裏があると思ってるのさ」
「裏?」
いつの間にかこの男の語りに呑まれている行商人であった。
「こいつはまだ売りだし始めた新作だ、一本どうだい?」
そう言って串に刺した肉の焼いたのをこちらに向けてくるので、
「2本貰おうか」
「へい毎度ぉ」
実際香りは空腹に堪えたのだ。
どこかこう変わった調味料を使っているようだ。
「なんでもねぇ、“砂ねずみ“に一人で入り込んで情報を探ってた奴がいるんだってさ」
ゴホッゴホッ。思わず咳込む。
串肉についてたのが粉状の調味料だったので尚更だった。味は旨い。
「“砂ねずみ“に入り込んで諜報活動ってのはさすがに無理でしょ、親父さん」
「いやいや、考えてごらんなさいよ。壊滅っていうけどさ、それで全員ってどうやって分かるのさ?」
言われてみればそうである。
「壊滅」といえば少なくとも幹部連中ぐらいは全滅してないとおかしい。しかし今まで“砂ねずみ“の情報が明らかになったなどとはとんと聞いたことが無いのだ。
「なんでもさ、団員の顔とかが描かれたカードが衛兵隊に配られててさ、それを元に町中を追っかけ回してたっていうのさ」
なんとも信用ならない話だった。
「なんかさ、それを真似て作られた遊具が裏で流行り出してるらしいんだよ。あんた行商人なら売り物になるかもしれないぜ」
新しい遊具か。まだできたばかりなら売り物になるかもしれねぇな。
「親父ィ、それはどこに行ったら見れるんだい?」
「何だったっけかなぁ、あちらこちらで真似して作られはじめてるらしいがね、最近人気の耳目絵師が最初に始めて、出来もいいって話だな。この通りをまっすぐ行って三つ目の交差路を左に行きゃあ耳目絵の看板があらぁな」
あんなところにそんな店があったかね?とかつての記憶を引っ張り出すもまるで見当がつかない。ひとまず行ってみることにした。
「親父ぃ、ありがとよ。ところで大層旨かったがこいつは何の肉だ?」
「そりゃあ“砂ねずみ“さ」
ゴホッゴホッ。
「冗談さ。そこは秘密さ、飯の種なんでね。幾ら買ってくれてもそれだけは売れねぇ」
こうして最期の最期に不安な気持ちになりながら聞いた店へと向かうのであった。




