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ヘレン

「ば、馬鹿野郎!何やってやがる」


 一緒に門の見張りの役目を与えられたガデスが表情を歪めながら叫ぶ。


「何って合図ですよ、」


「やりようってもんがあるだろうが!あれじゃ目立って仕方が…」


           「狩りのね」


 被せるように言葉を続けると、ガデスの言葉は尻すぼみに小さくなっていき、顔には血管が浮いている。


「俺達を裏切りやがったのか」


 かろうじて理性を残したガデスはそれだけを口にする。

今にも襲い掛かりそうな様子だ。


「月並みだけどね、最初から貴方達の仲間になったつもりなんてないのよ」


 対するヘレンは余裕の笑みである。

借り受けた(剥ぎ取った)服が大きさが合わないのでなんともしまらなかったが。


「ヘレン、お前も俺達と一緒に活動をしていたはずだ。いやむしろ最近では計画の立案から実行をお前が手がけていた。貴様もただではすまないぞ」


 男の言うとおりである。

「砂ねずみ」の杜撰なやりかたを見たヘレンは


「私が1番うまく盗みをできるのに…」


 とぽつりと零した一言で一時殺伐とした空気になったことがあった。しかし、淡呵が気に入った団長が、


「ならやってみるがいい」


 と言ったことでどうにか場が収まった。

とは言えヘレンはもはややれないとは言えなくなっていたが。


 翌日、ヘレンが隠れ家に訪れた時、団員が侮蔑の視線を寄越してきた。町の中が静かであり、ヘレンは結局失敗したのだろうと思っていたからだ。


 しかし、盗品を集めておく場所には良種ゆかりの装飾品が確かにあったのである。

まさか良種をターゲットにするとは思ってもいなかった面々は2度驚くことになった。


なぜ町の中がこれだけ静かなのか?

無論犯行が未だにばれていないからに他ならなかった。


 それからも何度かテストのような犯行をさせられ、

徐々に団長に気にいられたヘレンは計画の実行から盗品の管理まで任されるようになっていた。

団員がこっそりと売ったりしていたため、管理が杜撰だったのが改善されたのである。

もちろんそんなヘレンのことを面白く思わない連中が


「ヘレンのやつがちょろまかしている」


 などと偽証することも多々あったが、その頃にはヘレンの信用の方が勝っていた。

さりとて完全に信用するわけにはいかないのは盗賊という彼らの性である。

監視としてつけられたのが腕が立つガデスであり、ヘレンと組まされることが多かった。


 新参でアリながら、幹部級の役割を果たしていたのがヘレンである。


「私が盗むのは“罪“そのものよ。もちろん自分自身の“罪“さえも盗みきってみせるわ。盗品の管理は私がしてたのよ?その一切を持ち主の手に帰すのなんて苦もないわ。すでに売られた

物についても取り返してあるしね。」


 事実、盗品を裏で扱っていた店で窃盗の被害が多数出ていた。

但し、被害届は出されていなかったが。


「裏切り者には死を!」


何を思ったかは分からないが、ガデスがそう言うと短刀を抜く。やり手のガデスだ、その短刀もそれなりの一品だ。


「貴方は一つ勘違いをしているわ」


 殺気漂う中でもヘレンは余裕で笑った。


「貴方に私は、殺せない」


口元にには蠱惑的な弧を描いた月。


「馬鹿に、するな!」


そう言って振り切った短刀が裂いたのはのは空気のみ。

夜空に溶けるように幻影が消えていく。


「私、戦うのって苦手なの。じゃあねー」


そんな声を残して去っていく背中をガデスは一瞬の遅れの後追いかけた。


「まちやがれっ」


 無論待てと言われて待つはずもない。

相手が刃物を持って襲い掛かってくるなら尚更のこと。


「た、助けて!」


そんな声が聞こえてくる。

いつもの余裕を含んだ声ではない。

絹が裂けるような悲鳴である。

しかし発生源は間違いなくヘレン…。

目を離しはしなかったはずだが、

いつのまにか服装が町に住むそこらの娘のようになっており、

その先には……


       衛兵がいた。


ガデスは嵌められたと思った。

ヘレンは戦うのが苦手だから逃げたのだと思った。

ヘレンは逃げたのではなく、戦うのを他に任せるつもりだったのだ。誘導させられていた。

普段なら人の気配を感じ取っていたはずだ。

盗賊にとっての必須技能である。

だが、ヘレンを追うことに集中してしまい他に気を回せなかったのだ。

そして、逃げた先は衛兵達の兵舎のある方向だった。


「君、大丈夫か!?」

 隊員の一人がそう声をかけている。


「はい、なんとか。町中でいきなり襲われたんです」


 良くみれば服には丁寧に切断された後とわずかに血が滲ませてある。演出が細かい。


 そしてガデスの前に現れたのは衛兵隊長。

彼は短刀を持つ男がそれなりに腕が立つのを見てとり、下手に自分の部下が怪我をしないように自らがかってでたのだ。


 もちろん隊長の技量は相手を上回っており、そう時間をかけずに相手を捕縛した。


「先ほどの娘はどうした?」


 姿が見えず、そう呟いた隊長の声で辺りを見回すも姿はない。


「隊長、これを!」


 そう言って隊員の一人が持ってきたのは


           無数のカード


 だった。






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