とある町での事件
「借りたものは返す、これって当たり前のことですよねぇ?」
この場で唯一身なりのよい男がねちっこい響きを纏わせて親子に話しかける。
「借りた分は必ず返す!だがあんたのいう利子は異常だ!これでは幾ら払っても利子と相殺が精々だ」
男が妻子をかばうように立って叫ぶ。
「契約書にサインしたのはあなたでしょう?」
「あんたが口頭で言った条件と違い過ぎじゃないか!」
そう、問題は貸し出しの際の言い分と契約書の内容の差であった。
「あなたがそう言っているだけでしょう?こちらには確かな物証があるのですよ?さて、返せないと言うなら娘さんと奥さんは借金の代わりに頂いていかないといけませんね。申し訳ありませんがこちらも商売なのでね。」
ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべており、ワンパン入れたいと思うものは当事者のみに限るまい。
「妻と娘に手を出すなっ」
そう言って男は立ちはだかるが男は連れを引き回して妻子の下へ近づいていく。
しかし、取立ての男が優位に進んでいたのはここまでだった。
「ちょっと待ちなよ。物証があると言うが、あなたがそう言っているだけでしょう?実際の物は誰も見てないわ」
野次馬の一人、赤い髪を緩く巻いた女性が声をかける。
「ふん、なら見せてあげますよ。確たる証拠をね!おい、お前、ひとっ走りして証文をとってこい!」
「へい」
いかにも小物らしい男が走っていく。
取立ての男は余裕たっぷりに腕を組んでいた。
しかし、いつまで経っても小物が戻ってくる様子は無く、
取立ての男は苛立ちを隠せなくなり、足で地面を蹴りつけている。
「大変です、旦那!金庫の中は空っぽで代わりにコレが!」
あなたの罪、確かに頂きました。
怪盗 Cloud / Dark
「くそ!なんだこれは」
「証文はどうしたんだい?あんた自身の言う物証がないんならそりゃ単なる言いがかりさ。衛兵を呼ばれたくなかったらさっさと失せな!」
「くっ、覚えておきなさいよ」
そう負け台詞を吐いて引き下がる男達。
「助かりました、ありがとうございました」
赤髪の女に感謝の言葉をいう男であったが、
「まだ早いかもしれないわ。貴方たち、しばらくうちの知り合いの宿舎に泊まるといいわ」
「え?」
---その日の夜。
「くそ、舐めやがって。二度と私に逆らわないように見せしめになってもらおうじゃないか。ぉぃ、女は怪我をさせるなよ」
答える声はないが、幾つかの影が音もなく動き出したのであった。
「誰もいない!?なんだこれは!?ぐわぁ」
「なんだ、何があった?ひぃい。」
「罠だ!罠がしかけられているぞ!」
「あ~あ、やっぱりきちゃったわね。さっきのでチャラにしておくなら、あれで赦してあげるつもりだったんだけど。私の忠告を無視したんだから破滅するわ!あなた破滅るわよ」
そう言って扇状に広げたものに取り立ての男は当然見覚えがあった。
「ふふふ、うまく騙しているつもりだったのかしら?二重帳簿に横領、詐欺に禁止されている奴隷の売買。余罪は十分ね。」
非情に、いい顔で笑う赤髪の女…”闇雲”であった。
「あいつを、だれかアイツを捕まえろ!」
なんとか無事であった6人ほどが”闇雲”を取り囲む。
それを見て少し余裕を取り戻した男は下卑た笑いを浮かべた瞬間、
めのまえがまっくらになった。
「フフフ、私、戦闘は苦手だけど、罠を仕掛けるのは得意なのよね」
針が月明かりに照らされながら”闇雲”はそう言った。
取り囲まれた”闇雲”は幻影であり、男達は一網打尽に身動きを封じられていた。
しばらくして慌てて駆け込んできた女性の言葉にしたがって、衛兵達が町の一角に赴いたところ、そこには無数の男達が縄で縛られており、幾つかの書類があからさまに放置されていたのである。
通報した女性はいつの間にか姿を消していた。
これによって最近頻発していた町人の誘拐・奴隷売買はなりを潜めることになる。




