王と暗者 2
「ふむ、やはり惜しいな。俺の元で諜報機関の長として働かんか?」
自分の寝室に唐突に訪れる闖入者。
部屋に入っても気づかず、一服して落ち着こうとした時に火を
「どうぞ」
と渡されて初めて気づいた時もある。
今にして思えば初めて出会ったとき俺が"闇雲"の存在に気づけたのはコイツが意図的に気配を読ませたのだろう。
"闇雲"が来るときは大抵俺が根を詰めているときだ。
偶然だろう、と鼻で笑うことは可能だし、コイツ自身、
「偶々ですよ」
なんていいそうな気がする。
「何度言われてもお断りすることしかできません。」
そう、コイツの返答はいつも”ノー”だ。
もうこのやりとりは一種の会話の繋ぎのようなものだった。
「泥棒っていう職業をやっていると手錠よろしく首輪をつけられるのも嫌いなんです。それに…」
「それに、なんだ?」
「俺が役職に就いたら、形だけ取り繕うとしても「王と臣下」の関係になっちゃいますよ。こんな風に遠慮なく言い合ったり出来なくなりますがそれをお望みで?」
そうだった。俺が王座についたことで得られたものもある、が失ったものもあるのだ。王となってしまった今、友人という対等な者は得られないはずであった。臣下は幾らでもいるが友人足りえるのはコイツだけか。
「王としては国益のために、なんとか首輪をつけるのがただしいのだろうが。まぁ俺の数すくない我侭だ、勘弁してもらおう」
「何、友人のために、困った時は手を貸すのはやぶさかじゃあない」
俺とコイツは再びグラスを合わせて一飲みする。
談笑はしばらく続いた。
「前から不思議に思っておったのだが、俺達が騒いでいるのにも関わらず近衛がやってきたことはないな。」
「あー、すみません。無粋なことがないように音が別の部屋から聞こえるように細工をしております」
「ほう、そんなことが出来るのか。それも盗みの技の一つか?」
"闇雲"と言えば隣国では名高い名泥棒だ。
その手業と言われれば興味も湧く。
そういうのは隠すべきものだと思って聞いたことはなかったが、見られるとなれば気になる、というのが本音だ。
「陛下、それじゃ簡単なのを見せてみましょう」
そう言って立つと俺の前を姿勢良く、どこか優雅に歩く。
まるで泥棒には見えない。むしろ服がふさわしいものだったなら貴族、いや王族といわれても即座に否定できなかっただろう。
が、気にするのはそこではない。
目の前で歩いているコイツの足音が俺の背後からしているような気がするのだ。俺の背後を左手側から右手側へ…カツカツカツと。
「一つだけ。俺は歩く時に足音なんて立てずに歩けます。足音が聞こえる時は俺が敢えて聞かせているだけだと思ってもらっていいですよ」
といたずらが成功したようにそういった。




