王と暗者
本日2話目。1話に纏めればよかったのだけれど。
「何者だっ!」
部屋の中の暗がりが薄れていき、一人の男が姿を現した。
「意外と鋭いんですね。人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るもんだと言いたいところですが、王様じゃ仕方がないし、名前も存じ上げていますしね。高貴なお方に名乗るほどの者じゃありませんが、人は"闇雲"と呼びます」
「…コソ泥が何のようだ」
「隣国の盗人のことまでご存知とは恐れ入ります。コソ泥の用といえばもちろん泥棒ですよ。陛下、「戦争の火種」盗ませて戴きに参りました」
---ゴクリ。
唾を飲む音が異常に大きく響いた気がする。
「何の…ことだ?」
「最近国境沿いを盗賊に扮した斥候が走っていますね。国内にも、商人に扮した内応者を入れてますしね。プロの私からすれば変装も演技も下手糞で、何の冗談かと思いましたよ。こっそりと兵力も集めていらっしゃるみたいですし」
目の前の男は苦笑いをしながら答える。
「うちの国王様は代替わりしたばかりでですね、まぁそのへんは陛下もよくご存知でしょうが、あんまり邪魔されると困るんですよ。別に特別何かをしろっていってるわけじゃないんですよ。むしろ何もしないでくれっていうだけで。平民は自分達で生きられます。お偉いさんが働くほうが迷惑なんです。戦争がしたいなら王様達で指相撲でもしててください」
こいつもゼイラムと同じことをいうのか、と驚いた。
指相撲というのはよくわからんがー。
「もともと俺は罪専門の泥棒で、まだ起きてないことに対してどうこうする気はなかったんですけどね、まぁ衛兵なら何か事が起きなきゃ行動に移れないんでしょうがね、生憎私はコソ泥。火種の内に盗んでもいいかなって。」
「お前が自分で動いたのか?」
「この国の様子に違和感を感じて、知人に相談したところ、今回の盗みの依頼を受けました。」
「ほう」
「気が向いたら代わりにこちらを犯行予告代わりに置いて来いと。」
ーーーヴィ・ゴール。
それは数が少なく、希少な酒だ。しかも出来が良かったという歳のスパーヴィンテージ。
ゼイラム国との会食の日、まだ幼かった俺が飲ませてもらえなかった酒。恨めしげに見ていた。
それを知る者---。
「毒見をせよ」
寝室には寝酒用のグラスなどが置いてある。
二つグラスを置くと"闇雲"側のグラスに酒を注ぐ。
無論、暗者であれば毒への耐性を持つべく鍛えていのは普通だ。
毒見相手として適当なわけではない。
気分は良かった。一人で飲むのがつまらなかっただけだ。
「両国の国交と今日の出会いに」
「「乾杯」」
"闇雲"も拒むことはなかった
「俺の元で働かないか?」
「俺は盗人ですよ。うまい話に食いついて引きどころを見誤ればおしまいです」
「つまりうまい話だとは思ってくれるのか?」
「それなりに」
「ならば友人になってくれないか。王というのはなかなか不自由でな。一つくらい自由になるものが増えてもよかろう?」
「頻繁に催促されても困りますよ」
「気が向いたときでいいさ」
見知らぬ暗者と愉快な夜を過ごした。
"闇雲"の話は面白く、聞きだすのに苦労はしたがどれもそれだけの価値があった。
「ところで---」
「---指相撲ってなんだ?」
一瞬きょとんとした"闇雲"は笑って俺に教えてくれた。
「あ、こら!人差し指はズルいそ!」




