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隣国の王

 「狸めが隠居しおったか」


 執務室としては格段に広く、派手派手しくはないが品のよい調度品で飾られた部屋に40過ぎとは見えない精悍な男が、革張りのお気に入りの椅子に座っていた。


 「ひとつあの若造に王道というものを教えてやろうか」

 呟きと共に獰猛な笑みを表情に浮かべる。


 隣国シュレディアの国王が世代交代をした。

前王ゼイラムは評価は高くなかった。

だが、俺はあの男ほど優れた国王はいないと思っている。

自らを無能と思わせて国内の貴族どもを油断させ、

優秀な味方貴族を裏で奔走させている。


 在位の間、とり立てて際立った功績はない。

だが、まったくと言っていいほど問題もなかった。


 一度前王と話す機会があった。

確か父の頃から続く国交記念での会食だった。

平凡な王だと思って俺は舐めていたと思う。

俺はもっと優れた王になってみせる、と。


 ゼイラム王に王座とはどのようなものだとお考えですか?と尋ねた。


「経験からいえば、王座とは割りに合わん雑用者の椅子に過ぎぬ」


 何をいってるのか分からなかった。

「何をいってるのか分からないといった顔ですな。民とはそれほど弱くはないのです。大抵の者は何もしなくても自らの糧を得る術を持っております。国がしなくとも…むしろ税を納めずともよい分暮らしはよいでしょう」

 俺は驚愕していた。一国の国王のいうことだとは思えなかった。

「国や自然災害といった一個人ではどうしようもないものに対して対処するために民から権力を預かっておるのです。治安や災害対策などのために雑務を行うのが国であり王座だと思っております」

「割りに合わないと言うのはどういうことですか?」

「そればかりは人に寄りますが…、護衛をつけずに好き勝手歩くわけにもいかず、年がら年中公務公務と自由に出来る時間など夜寝る前にあればいい。恐らく王という存在に私は向いていないのでしょうな。町民のように労働の跡に居酒屋で一杯などという生活がときどき羨ましく思えます。王子の方が私よりよほどよい王になられるでしょうな」

 そういって笑うゼイラム王はそのことに全く恥じることはなさそうなよい笑顔だった。


 会食の後、父はいっていた。

「何をいわれたか知らんが、やつのいうことを真に受けてはならぬぞ」

 父の顔はこれまでに見たことがないほど真剣であった。

「あの男が噂程度の男ならワシがとっくにかの国を平らげておるわ。ワシが国交を結んでおること、それが全てよ」

 父はそういって寝室へと戻っていった。



 なぜ、ゼイラム前王は王座を退かれたのか。

まだ早過ぎるだろう。


 今日の仕事を終えて寝室に戻ると、いつもと違和感があり、足をとめた。

 


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