忍び寄る終幕
「待てっ。貴様は何の得があってこのようなことをしている」
「先生は何の得のために薬を作られたのですか?」
「馬鹿な!この未曽有の危機に際し、私には運よく出きることがあった。それだけだ」
「そうですね。だがあの貴族達を見れば分かるでしょう?あなたの言う「当たり前」は誰にとっても「当たり前」なわけじゃあない。そしてあなたは運が良かった、と言うが、それもまたこれまであなたが積んできた結果があってこそだ。それは誇ってもいい。むしろ謙遜は嫌味というものです。現に私にはこの病気に対し打てる手はない。故にそれが出来る人をサポートしようと思った、何かおかしいところはありますか?強いていうなら俺の住む町に優先して薬を運びたい、と言ったところですね。俺は自分の住んでいるところが気に入っています。無論先生の仕事の対価として他の町村にも届けることを約束しましょう。」
「ふん。よかろう、だが約束を違えた時は…覚悟しておけよ」
泥棒と医者ががっちりと手を組むという不思議な光景が見られたと言う。
「おい、これを飲むんだ!これは対抗薬だ。これを飲めば症状が安らぐ!1日2回朝晩飲んで1週間もすれば快復する。わかったな。」
これで何度目だろうか。村のまだ元気なやつらに面倒を見るようにいい、薬を渡していく。
となりの街から商人や本屋の主人が、近くの村に同じように言伝て薬を配って回っているらしい。
彼らはこの村の尊重である私に説明をして薬を渡すと、休む間もなく
次の村へと馬車を走らせていた。
とある街道にて。
「ファントム・ステップ!」
一人の青年が3人に分かれて3方向にそれぞれ走りだす。
このスキルは、幻を見せるだけでなく、実際に魔力を使って実態に近い存在を生み出す術だ。とは言え、ただマネキンのような人型であるので、幻術を使わなければ怪しまれるだけだ。
本来は追われている状態で、より精緻に相手を撹乱するためのスキルなのだが、今はしかたない。街道を走り、分かれ道に遭遇するたびにファントムステップを繰り返している。
青年は実は魔法が得意ではなかった。
盗賊の技術に特化している彼は、ステータスも器用さと素早さに偏っていたからだ。仕方なく、今回悪徳商売をしていた貴族の元から盗んだポーションなどを飲みながら走り続ける。
すでにお腹はチャプチャプ言っているが、まぁ太る心配はいらないだろう。
総勢13人の分身が各町や村に薬を届けている。
仕事を完了したやつから随時分身を完了させていく。
彼の持つ「無限のクローゼット」は衣服を無限に格納できる「裏スキル」だ。むしゃくしゃして取った、後悔はしていない。
普通なら選ばないであろうスキルだったが今回は役に立った。
このスキルは場所を選ばずどこでも出せる。
分身たちでも使えるのかはむずかしいところだったが、使用可能だった。
医者の元に残してある分身が大量のポケット付きの服に薬などを詰め込んではクローゼットに収納、移動先で分身たちがクローゼットから服ごと薬を受け取るという荒業で荷物を運ぶ手間がないからこそ実現可能だった。本来服しか入れられないスキルで、変装用として使われていたのを力尽くで運用した形だ。
かつて盗んだ国内の地図に載っている村町街を一通り巡った。
手遅れのところも少なくなかったが、やれる限りはやった。
材料がなくなるたびに悪徳貴族の屋敷に盗みに入ったのだ。
ある意味今回の事件で最も被害を受けたのは彼らかもしれない。
彼らの見張りを尽く突破されて自信を粉砕されたのだから。
とまれ、国内に蔓延した病は無事消火されたのであった。




