忍び寄る死神
とある冬のこと、例年を増す寒さに多くの者が凍え、冬越えの準備が足りなかったものから死んでいった。
ビュウビュウと吹く風の音は死神の振るう鎌の音にも似てーーー。
その被害は農民に留まらず町民にも及ぶのであった。
だが、それとてまだ見ぬ災いの前触れでしかなかったのを苦境に面していた者達に知る由はなかった。
王国内を病が蔓延りだした。
風邪だと思っていた人々が突然高熱を発するようになり、倒れ、死ぬ。
各地の村で散見された出来事は、数週間後見られぬ土地が無くなっていた。
王族、貴族にも容赦なく襲い掛かる病魔に亡国の危機が現実となるのは最早目の前、というところで一人の医者が名をあげた。
特効薬ができたわけではない。
だが、治療のための薬を開発した。
症状を軽くするだけのものではあったが、1週間も耐えられれば病は終息し、一度かかれば二度罹ることはない、と言うことが出来た。
そもそもこの病気が発病すれば3日目には死んでいたのだ。
それを7日耐えられるようにしたからこそ分かった事実であったのだ。
この医者は未曽有の危機に際し、無料で薬の作り方を教え、献身的に介抱のために走り回った。身分に関わり無く助けまわった医者であったが、そこはやはり、上から圧力がかかり、王族が優先され、貴族が継いで平民となったのだ。薬の材料は特別希少なものではなかったが、同国内では数が揃わず、隣国から取り寄せる必要があった。
王族や上級貴族が優先され、病気になっていない者たちの分も数を集めようとしたため、平民たちの分まで材料が足りず、死者は平民たちから大量に出たのである。
「お願いします、娘が流行り病にかかりもう2日目になるのです。春になったら頑張ってお金を稼いでなんとかお支払いします。ですからどうかお薬を分けてください!」
「我が家の中にもまだ病にかかっておらんものがおるのだ。貴様ら平民のために大事な薬を渡せるものか!」
こういったやりとりは各町中で見られ、ひどいところでは薬の転売で一儲けしようとする商人が現れたりと地獄絵図の様相を呈していた。
王国のとある田舎町でも当然のごとく病魔が蔓延っていた。
しかし、この町では貴族の横暴も死の商人の存在もなかった。
が、それはこの町の被害が少なかったからではない。
村、に近いこの町にまで薬の存在が届いていなかったのだ。
遅れに遅れて、支援を求めたところで、薬は無く、町は滅びつつあった。