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とある画家の原初追憶 終

「一体どうなってやがる…?あんた、何者だ!?」


 俺が思わず聞いてしまったのは仕方が無いと思う。


「君の仕事が現実を虚構へと落とし込むことだとするなら、私の特技(し


ごと)は現実に虚構を表現することさ。彼らにはおとなしく気を失ってい


る君の姿が見えている。とは言えあまり大声を出したりすれば違和感か


ら気づかれてしまうから静かにね」


 そういうと彼は針金のようなものを取り出し牢につけられた鍵を開け


ようとし始める。


腐っても貴族の、しかも牢屋の鍵だ。


そんなもので開けられるはずがない、と頭で考えているのに心のほうは


この人ならやってしまうに違いない、と根拠のない確信があり、数秒と


経たずに開いてしまう。


「針仕事は得意でね」


 そう言って口角をあげるのだった。


「さて、行こうか。どうも地下ここは風情がなくていけない」


 彼の後をついていくと、


「おっと、忘れ物をするところだった」


 そう言って殆ど真っ白な紙を落としていった。


置いていかれては困るのでゆっくり見ている時間はなかったが、


画家という生き方を志す俺には”一瞬”を脳裏に留めておくことは容易


である。


     あなたの罪、確かに頂きました。

                怪盗 Cloud / Dark



 その後のことは現実だったのか未だに分からない。


特に急ぐこともなく彼の後をついて歩くだけだった。


道中見回りの兵や門番とすれ違う時に


「お疲れ様であります」

 と声をかける青年の格好はいつの間にか私兵たちと同じになっている。


「こんなものはただの散歩だよ。気楽にゆこう今日はいい夜だ」


 道中私は一つのうわさを思い出していた。


"闇雲"という泥棒の話だ。聞いたときは荒唐無稽だと鼻で笑ったもの


だったが、自分が獲物ターゲットになって実物を見てしまった以上


認めざるを得ない。


ただ、俺なら"白昼夢"と名づけるが。



 彼の案内に従って一軒の家についたところで気が緩んだのか意識を


失った(らしい)。


次に眼が覚めた時には全身治療済みで、俺が眼を覚ましたのに気づいた


侍女?が世話をしてくれた。


彼女に話を聞くに、この家の管理を行っているらしい。


滅多に使われることはない、というか今回初めてこの家で人を見たとい


う。割りに給金は高めで申し訳なく思っていたそうで、


今回俺の怪我が回復するまで面倒をみてくれと言われて安心したと言っ


ていた。


 泥棒という仕事が儲かるのか、資産家でありながら泥棒をしているの


かあの男のことはさっぱりわからない。


離れにはアトリエも用意してある、と至れり尽くせりだったが、ある程


度怪我が治ったところで屋敷を後にした。


金を稼げるようになって調子にのっていたことに気づいた俺には過ぎた


ものだったし、もういちど好きに自由に絵を描きたいという思いが湧い


てきたからだ。




 それから数ヵ月後、あの屋敷宛に一枚の絵とちょっとした意趣返しの


品を送りつけた。


絵は夜のポール・ルーの湖を描いた自信作。


そして漆黒の雲をデフォルメして描いた名刺サイズのカードだ。


あの時落とした犯行の後書きの紙のセンスは無いと思ったのだ。


あの青年がそれを見てどう思ったのかはわからないが、


"闇雲"の話題が頻繁に飛び交うようになるころ、犯行を示したカードが


置かれるようになったと聞くから、どうやら気に入ってもらえたらし


い。




 この後何年か経って耳目絵という商品に手を貸してほしいといわれ、


一つ返事で承諾した。貴族の絵描きよりよほど魅力的だったし、何より


楽しかった。


「月下の君」と呼ばれるようになった名作を生むことになるとは思いも


していなかったが。


 いつか"闇雲"の本当の姿を耳目絵で描きたいというのが俺の夢であ


る。これは恩を徒で返すことになるだろうか---。




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