王と次王と泥棒
投稿ミスがありました、スミマセン。
腕を捕られたまま連れていかれたのは廃墟のような建物。
一瞬動きを止めた俺にかまわずに中へと連れ込む。
ひょっとして誘われているのかなんて全く考えなかったかと言えば嘘になる。
中に入ってふぅ、という息をつく音がして明かりがつくと、外見とは裏腹に中はこじゃれた、整った?シンプルで落ち着いた空間がそこにあった。比べれば先ほどの酒場など雑多なだけのように思われる。
「渡来人のことはご存じでいらっしゃいますか?」
声も出せずに頭だけで頷くと
「渡来人の元の世界の酒場を模して作らせました。どうぞこちらへ」
言われるままにカウンター側へと行き、ギョッとした。
打って変わって落ち着いた色合いの服で、こちらでは女性が着るような服ではないが、髪を一つにまとめて垂らしていた彼女にはまるで女性騎士のような格好良さがにじみ出ていた。
「生憎、向こうの世界からの持ち込みは出来ませんのでご存じのもので恐縮ですが」
そういって置かれた、透明度の高い、宝石にも匹敵しそうな容器に馴染みのビンから液体が注がれる。
見慣れたはずのそれは完全にベツモノにしか見えなかったのは内装や容器のせいだろうか。
目の前の女性は自分用にも同じように注ぐと、打ち合わせてきれいな音が響いた。
彼女は一口含むとどうぞ、と手で示してきた。
一応毒見のつもりもあったのだろう。
もっとも彼女ならこっそり自分の分を別のビンとすり替えることもできるような気がしたが、躊躇いもせずに口に運んだ。
ーーーうまい。
冷えているのは分かるがそれだけでこれほど違うのか。
気づいたら手元にあったのは容器だけだ。
さっきまではこの容器だけでも美しいと思ったが空にしてしまえばどこか物足りない。
これは酒を注いでこその容器なのだと知れる。
「名は何という?呼び方もわからんのでは不都合でかなわん」
思わず口からこぼれたのはそんな台詞だった。
「人に名を尋ねるときはまず、自分から名乗るものよ。とは言ってもあなたの場合は滅多に口にしないほうがいいわね。私はそうね、ルージュって言うの。今後あなたに会うときは私でってことになるからよろしくね」
明らかな偽名を名乗り、ウインクしてくる。
再び酒を注ぎながら
「あなたのお父様から後継者選びのための素行調査を頼まれた者ってところかしら。今はあなたのボディーガードね」
と物騒なことを口にする。
「あなたは後継者として育てられなかったとはいえ、不用心すぎるわ。見ててこんなに冷や冷やしたのは久しぶりよ」
口調とは裏腹に妙に嬉しそうなのは気のせいか?
「戦力としてはあまり期待に応えられないからお断りしたんだけどね、どうしてもって頭まで下げられちゃあねぇ」
背筋にゾクっとしたものが走る。俺の父親と言えば当然元国王である。その言葉を断り、かつ頭まで下げさせるというのはモチロン尋常のことではない。
「おまえは、何者だ!?」
「私はルージュ、本業は泥棒。お父上とは仕事中にお会いして息統合しちゃってね?たまに一緒にこうしてお酒を飲み交わす仲ってところかしら。光栄に思いなさいよ?本当はここ、ゼイラムのために用意してたんだから」
一国の元国王を呼び捨て。
俺の顔が自分でもわかるほど真っ青だったのは酒が冷たかったからではないだろう。




