王と泥棒
あの男と出会ってからそれなりに長い月日が経ったような気もするが、よくよく考え直してみれば数年、5年も経っていない。
そんな気がするのはあの男の突拍子のなさや、人を驚かせたりするのが好きな困った癖などのせいで妙に印象に残るせいではないか、と一人になった寝室でユリウスは考えていた。
目の前の空になったグラスがなければ今夜ここに本当に人がいたとは信じられない。
玉座に置かれたカード、今日の日中に城に乗り込んできた”闇雲”の格好をした浮浪者。
こんな事件が起きて城の中の警備は最近厳しさを増している。
俺の周辺ならばなおさらだ。
夢でも見ていたのではないか、そう思えてならず思わず声を立てて笑ってしまった。
扉を叩いてノックの音が聞こえた後、
「陛下、何かございましたか?」
という不審気な声が聞こえた。
ーーーああ、楽しい出会いが会ったとも。
無論そんなことは言えるはずもない。
「いや、ちょっと思いだし笑いをしてしまっただけだ。忠勤ご苦労。余計な手間をとらせて悪かったな」
「いえ水をさしてしまったようで、申し訳ありません」
無難に答えておく。
迂闊に口に出すわけにもいかない、困った友人である。
だが、国王という立場を背負って以来数少ない対等にものを言える相手だ。いや、これまでのことを思えばこちらが相手を立てるのが筋というものか。
そう思うと妙におかしくて、かといって声を出して笑うのは控えている兵士を思えば慎むべきだろう。
ベッドの上に身を投げて腹を抱えて口が開くのをこらえるという怪奇な図になっていた。
俺が初めて奴とあったのは父から王座を譲られて日がそれほど経っていなかった頃だった。俺には兄がいたから、王位につくわけでもなく放蕩三昧だった。
俺を次期国王とする、という父の発言に最も驚いたのは他ならぬ俺だったに違いない。
後から文句を言いに行けば「王命である」の一言で放り出された。
兄が王位につくと思っていた派閥は当然ながら多く、横からさらっていった俺を疎ましく思っていたし、俺の元には能力のある部下が少なかった。毎日がてんやわんやの状態で休む間もない日々が続きながらもなんとかやっていた。少しずつ俺の評価も上がり、俺の元に来てくれる部下が増えはじめ、順調に回り始めたと思っていた。
そんな俺の唯一の楽しみは城を抜け出しての酒場での一時だった。
そこは元馬鹿王子、抜け道も兵士の巡回路も熟知していたのだから忙しい日々のわずかな憩いの時間を楽しんでいた。
庶民の俺への評価はまだ辛口だったが、それも含めて貴重な情報収集の場でもあったのだ。
これより少し前から存在を確認されていた高度な能力を持つ人種が見られるようになり”渡来人”と呼ばれ出していた。
へぇ、そんなおもしろいもんならもうちょっと早く来てくれてたらなぁ
そんな暢気なことを考えていたところに
「ちょっとお兄さん。相席いいかしら?」
そんな声が響いた。
顔を向ければ、闇夜を切り抜いたような艶やかな黒髪になめらかな白い肌、整った顔立ちに朱の唇。衣服はこの辺じゃ見かけないが良い仕立ての真紅のドレス。どこぞの王女様のようで、つまりは居酒屋じゃ場違いにもほどがある。事実、
「そんな坊やと話してないでこっちきて飲もうぜ」
なんて赤ら顔の男と連れと思われる3人の男。
腕を捕まれて引き寄せられた女は
「悪いけどこちらの方に夢中なの」
そういって俺にウインクをしてみせる。
ーーー余計なもめ事はごめんなんだが。
そうは思っても放って置くわけにもいかない。この女こそめんどうごとの可能性はあるが。
仕方なく立ち上がろうとしたところで、腕をつかんでいた男がその場に崩れ落ちる。
「きゃあ、素敵」
ーーー俺はなにもしていないんだが。
「てめぇ兄貴に何しやがった」
そう言ってこちらを睨んでくる男3人。
女は笑みを浮かべて・・・笑み?男たちの後ろに回る。
いや、なんでそっちに回る?俺が悪人みたいじゃないか!
と思っていたら3人も先の男同様崩れ落ちたのだった。
「お強いのね、行きましょう」
そう言って腕を絡めてくる女性に引っ張って行かれる。
「おい、勘定!」
慌てて引き留めようとするが、
「もう支払っておいたわ。助けてもらったお礼よ」
一体何がどうなってるんだ?




