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王の一夜

 公務を終え、寝室へと向かう。

半ば自業自得とは言え、学院についての対応で一部の貴族からは不当逮捕だと訴えを起こされ、対立する派閥は時勢にのって調子にものっている。

証拠も何もかも揃っているのだ。はっきり言えばただの無駄な時間でしかない。

そのせいで今夜も真夜中近くまで忙しかったのだから、これくらいの愚痴は許されるだろう、と自室の扉に手をかけたところで何者かの気配を感じる。何者か、と誰何しようと口を開きかけた瞬間、

「お勤めご苦労」

そんな声がした。



 国王ユリウス・アルベルト・シュレディアには誰にも言えない秘密がある。

いや、国に秘密の一つや二つあるのはむしろ当然のことなのだが、

それでもやはり日々かけずり回っている衛兵たちには絶対に口にできない。

 「一杯いかがかな?」

 目の前の男はそう問いかけてくる。

それは一国王に対してあまりに不遜な態度である・・・目の前の男の格好がその格好でなければ。

「その姿は何だ?私への嫌みか?」

 両手を掲げて肩をすくめてみせ、対面のグラスにワインを注ぐ。

「こうでもしないと、気軽に名前も呼べやしないだろう?ユリウス」

「ふん、お前が私に敬意を払った試しなどないだろうが。クラッド」

 お気に入りのソファに腰掛けると注がれたグラスを荒々しくとってみせ口にする。

ふぅわりと漂う香りと宝石を溶かしたかのような美しい色にわざとしてみせた粗雑な態度を改める。

「うまいな」

 そう言って目の前の男に視線を向ければ、そこにいたのは見間違うことはない、自分の姿だ。

衣服はもちろん、顔の作りも長年鏡越しにみた姿だ。

ただ、少し冷静になって見てみれば若干若返っている。

体も今の自分より引き締まっているようだ。

仕草に至っては自分より気品を感じさせ、色めかしくもある。

やはり嫌みだろう。

「また私の酒蔵からくすねてきたんじゃないだろうな?」

 うまい酒を飲んで顔が曇ったのは、かつて目の前の男が持ち込んだ酒が私が秘蔵していたビンテージ物だったことを思い出したからだ。

「心配せずともこれは今回の仕事の駄賃代わりさ」

「ほう。全くけしからんやつらだな」

 そういって二人は口角をあげる。

同じ顔で笑うのだから些かならず気色悪い。


「今回の件は助かった。おかげで膿みを一気に晴らせた」

「何、こちらにとっても都合がよかったまで。」

「なんにせよ助かった、ありがとう。で、礼は本当にあれでいいのか?」

「ええ、国内の孤児院への手当の増額をお願いします」

「わかった。ところで、来年学院に入れたい、という娘とはどういう関係かね?入学の際の後見を頼んだり、今回の学院の手入れにしたってそのこのためなんだろう?君の頼みなら喜んで聞くがね。珍しいじゃないか、君がそこまでいれ込むなんて。」

 顔がニヤついているのも自覚している。面倒ごとを抱え込まされたのだ。少しの嫌がらせくらい許されるだろう。

 非常に嫌そうな自分の顔を見て少しだけ溜飲を下げる。

「単純に彼女の才能故ですよ。彼女なら恐らく自力で私の名前の由来にまでたどり着くでしょう」

 嫌そうな顔が少し面白そうな顔つきに変わる。

「ほう、それは興味深いな。」

「余計な手出しはやめてくだいよ?彼女は自分で考えてやっていける人材です。余計な支援はいっそ邪魔にしかなりえません。放っておいたほうが国のためになると思いますよ」

この男がそれほど目をかけるとは。意外感を覚えるとともに彼女については気を配っておこうと思った。


こうして、人には言えない友人との飲み会で心安らぐ時間を得たのだった。

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