見参!
ーーとある町にて。
一人の男が歩いていると、
「おう、あんちゃん!採れたてのトマト、持ってきな」
そう言って3つほど投げてくる。
「ちょっとあんた、最近見ないじゃないさ、なにやってんだか。これ、うちのが釣ってきたやつなんだけどよかったら持っていきな」
言葉とは裏腹にこちらの意見など聞かずに押しつけられる魚。
もしこれから出かけるところだったら周りの目が厳しくなるだろう。
同様のことが続いて商店通りを抜ける頃には両手で抱えるのも大変な状態になっていた。
律儀に頭を下げる度に山から何かしらが転げ落ちて、拾っては落としてを姿が見えなくなるまで繰り返していった。
「お父さん、あの人とどんな関係があったのか知らないけど、毎回あの人がくる度に商品をあげてたんじゃ商売あがったりだよ」
そういう娘は姿の見えない男を睨んでいた。
高級品でなかったら塩を撒いていたかもしれない。
「うちが本当に困ったときにあの人が助けてくれたんだ。今はもうこまってないから相手にするな、とおまえは思うのか?」
娘は困った顔をしていた。
娘は知らないのだから仕方がないのだ。
ただ、彼があのとき助けてくれなかったら娘は怒るどころか今ここいなかったかもしれないのだ。
斜向かいの魚屋の奥さんと目が合い、苦笑しつつ頭を下げる。
この商店街の人間は大抵なにかあの男に助けられている。
誰も普段何をしているかわからないのだが、みんなあの男が好きなのだ。
「今度はいったい何をしてんだろうねぇ・・・。」
ーー王都ルグリア、学院
「奴だ!”闇雲”が出た!」
一枚のカードのみを残し、盗みを働いていく怪盗。
このところ毎晩に渡り、”闇雲”が暗躍していた。
一切痕跡を残さず、朝になって気づいた者もあれば見つけて追いかけた先で3人の”闇雲”を見た者もある。
盗まれるのは帳簿や取引の書類である。
王都の学院は基本自治によって成り立っている。
よっぽどのことが起きなければ衛兵が踏み込むこともない。
代々王は学院に不可侵の姿勢を貫いていた。
学院による研究結果は王国のためになる。
権力によって縛るつけることをせず、自由な発想の元、新しい知恵・知識・技術を生み出してほしい、という願いからだ。
無論、研究資金まで自由に好きなだけ使えというわけではない。
申請して有効性が認められなければ資金を得られないので自然と内部で引き締められるのである。
しかし、いつからか、腐敗し始めた。
学院内においては、学問を志す者はに身分なしとの精神が根底にあるのだが、一部の貴族が、王による支配を受け付けないこの地に目を付けた。学院の外で圧力をかけ、学院内においても鷹揚に振る舞うものが増えていた。
金でよい成績を手に入れる程度ならかわいいもので、研究成果を無理矢理奪われる者、無理矢理身分の低い者を退学させるなど悪人にとっての
ユートピアが学院の実体となって久しい。
最近では国内で禁止されている物資のやりとりが学院経由で行われていたりする。
しかし、そのユートピアは今、闇に飲まれつつあった。




