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ことの始まり

 近年、異世界転生や、異世界トリップ、VRMMOをテーマとした小説が流行っている。繰り返される毎日の中で"非日常"や"変化"を人は求め、ままならぬ現実に、小説などにそれを求めたのかもしれない。とは言え、それは創作物の話で現実においてはまだまだ夢物語である、としか言えなかった。そんなわけだから、有名どころの掲示板[兄ちゃん寝る](創世期に、兄ちゃんは寝るといったらこの掲示板を閲覧する、という隠語だったらしい)で"仮想現実体感型ゲーム"の開発なんて記事を見つけた俺が無意識にクリックしてしまったのは仕方のないことだったろう。例えそれが"釣り"だと思っていたとしても。

 


 掲示板の内容は簡単に纏めれば

  "こんなCGに引っかかる奴乙"

  "お前も引っかかってるだろうがw”

  ”スクショの美人さんはCGにしてはリアル、リアルにしては非現   実的”

  "↑の言ってること意味わかんなかったけど、見たら納得した"

 だいたいこんなところが繰り返されているようだ。

驚いたのはソースとしてHPのアドレスが載っていたことだ。

まじかよと心の内でつっこんで、飛んでみれば、"~のアドレスに移動してもよろしいですか?"と表示されるのも煩わしい。自動で飛ぶのも待たずにマウスに指を叩きつけた。


 画面に現れたのは手作り感溢れる小じんまりとしたものだった。

HPのタイトルは"Crafter’s Rebellion"

職人たちの反抗?コンテンツは"トップページ"、"概要"、"スタッフのコメント"、"ギャラリー"、"寄付のお願い"の5つだ。"説明書を読まない派の俺は早速ギャラリーを覗き込んだわけだ。

結果から言えば、掲示板の書き込みと俺の思いが一致した。

なんだこれは?

6枚の風景の画像がある。どれもとても綺麗である。

この1枚を撮りたくなるのが誰にでもわかるだろう。

だが、それがどうした?確かに綺麗でどこにでもあるような場所とは思えないが、探して撮ってきたのだろう、で済ませられるレベルだ。

つまり、問題は最後の1枚である。恐らく"兄ちゃん寝る"で活性化し始めたのもこれが原因だろう。"New!"と表記された文字の上の画像。

それにはほかと違い、人物が写っていた。

銀の髪に紫水晶を思わせる瞳、肌はコーカソイドだっけ?明らかに日本人とは異なる、一歩間違えば病的にもとられかねない白さ。

いや、肌だけではなく、顔のパーツの一つ一つが、少しズレただけでこの神秘性は失われてしまうだろう。そんな美人が現実の女性の訳がない!と思うのだが、これがゲームのキャラクターであったなら、背景も人物もリアル過ぎるし、実際の人物だとしたら俺のほうがゲームのキャラクターなんじゃねーの、なんて頭がおかしくなってしまう。最も俺の右手は冷静に画像を保存していたようだが。


 結局操作がわからず説明書を見る羽目になるようにーーー恐らく掲示板の書き込みをしたやつらの中にも同じ動きを見せたものがいるはずだ---他のコンテンツも順に見ていった。


 "概要"によると、

 ゲームとは"箱庭"である。現実とは異なる仮想の世界を開発者は提供するわけだが、自由すぎればプレイヤーは逆に戸惑ってしまい、不自由になってしまう。そこで、プレイヤーにどれだけ裁量を与えるかを考慮しつつ環境を整える必要がある。例えるならば、バットやボール、グローブを与えて好きに遊びなさい、とするか、野球の道具、場所、ルールを揃え、野球をしなさいとするかの違いである。前者であるならば、道具を使って多様な遊び方が生まれる可能性がある一方で、ある程度整った形式で遊べるようになるかどうかは、プレイヤー次第だろう。一方で後者であったならば、遊び方は制限されるが、誰もがある程度順応して遊べるだろう。どちらが良いとは限らない。

開発者は、環境と自由度のバランスを考えることを要求されるが、予算や工数によってある程度見切りをつけることにを余儀なくされる。

それは時に歴史に名を残せたであろう良作を駄作へと至らしめた。

 "Crafter’s Rebellion"はそんな現況に対し、

名前の通り反抗を試み、プレイヤーの自由度を優先し、もう一つの世界とも言える環境を、妥協を一切含むことなく作り上げたと自負している。


 言いたいことはわからないでもない。

次の行き先をカーソルで示すようなRPGにストーリーの面で自由度を求めることは難しいだろうが、安心してプレイできるととる人も少なくないだろう。

 それに利益重視の効率化が、本当にいいものを作ろうとするには大きな枷になりうることも分からないではない。ただ、社会の現状に則していないとは思うけど。それは金銭的に不自由のないものの道楽だろ、とああ、だから"職人"の反抗なのか。


 "スタッフのコメント”には一番驚かされたかもしれない。

まず、スタッフのスナップ写真が"ギャラリー"の美人さんその人だったからだ。実際の人物なのか?とCGを使った悪ふざけだととった人が半々なのだろう、掲示板の書き込み具合を思い出せば。

まぁ、画像を保存しているのは右手の勝手によるものである。


 そして、"特別参加顧問"の名前である。"どこかで聞いたような"、ではない"ある程度の年になれば誰でも知っている"国宝指定の職人や、テレビでも見るような格闘家、逆に名前を聞いたことのない人もいる。

正直だまされているようにしか思えない、むしろだまされていると思いたい。勝手に名前を使ってるのでは?と思い、著名人の名前で検索してみると、どうもこの企画に参加してるのは本当らしい。それどころか絶賛している人も少なくない。中には、報酬なんていらないから、完成品が欲しいなんて人もいるのだ。


"寄付のお願い"には開発に当たっての寄付のお願い、として書かれている。正直、詐欺としか思えなかったろう。が、寄付に辺り試遊体験を行うと書かれており、各地域でのスケジュールというリンクがある。

詐欺だ、詐欺に違いない、と心では念じながら、右手は自分の家から最も近い施設を探している。いつから俺の右手はスタンドアローンになったのか?場所は二駅先の駅の前にある、小ぎれいな建物の2階の会議室を貸し切るようだ。日程は・・・来週の土曜日だ、なぜ今週じゃない!


俺は1週間と数日を悶々として過ごした。

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