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ノイスルゼの事情 後編

 父が暴れた際にその声を聞いて助けに入ってくれた人が居た。

その悪行で近所はもちろん、町中から嫌煙されているので関わろうとする人はいない。

結果として彼には怪我をさせ、金銭を奪うという申し訳ないことをしてしまった。

怪我は応急手当以上のことは出来ず、お金についてもいずれなんとかお返ししますと謝罪することしかできなかった。

それに対し彼は勝手にしたことだから自業自得さ、といって名前も住所も言わずに去ってしまった。


 久しぶりに人の温情に背中を押されたのもあって、盗本を返しに行こうと決意した翌日の夜、私の罪の象徴は消え去り、一枚の見覚えのあるカードが置いてあった。

本の少し安堵してしまった自らが悔しくて、部屋に唐突に出現した"闇"にわめき散らした。


       「学園に通いたいのか?」


思いがけず返ってきた声は穏やかでしっとりしていた。

かつて夢見て、風化した望みだった。

諦めてしまったはずのソレは

盗本という形で現われた未練だったのではないか。

ーーどうしても必要だったわけじゃない。

  どうしても欲しかったわけじゃない。ーー

果たして本当にそうだろうか。

声を失う私を前に彼は続けた。

「エイセスセニスの謎に迫る スキルとは 渡来人と原住人 魔法大全 あんたが立ち読みしてた本だ。濫読するにはちょっと選書が独特すぎる。泥棒の仕事は盗む前に仕事が始まってるんだ。」

頭が働き始める。

彼が言うように極めて珍しい本で、周りに人が居た記憶はない。

いや、何度か共通した女性がいたかもしれない。

「俺に出来るのはこのままだと続く、あんたの真っ暗な未来を盗むことだけだ。そのあとどうするかはあんたが決めるしかない」

「どういうこと?」

「学院の情報がほしくてね。あんたが望むなら学費と後見を用意しよう。ちょうど王都の知人が、経営する孤児院の労働力を募集している。そこの手伝いをしてくれるなら住居についても労働量として提供する心積もりがある」

 破格の条件だった。どう考えても普通は孤児院のお手伝いでまかなえる額ではないのだから。

「それだけ?他に対価がいるんじゃないの?」

「学院に入るに当たり、親のというか身元の保証が要る。残念だがあの父親では見込みはないだろう。あんたの人生のこれまでを捨てて孤児として孤児院で過ごしていたことにしてもらう。それが対価といえば対価だな。」

 おそらくこれは覚悟を試しているのだろう。

「私、泥棒の手伝いなんてしないわよ」

「ははは、そうか了解した。必要なものは準備しよう。だが先に言ったとおり、あんたの未来をどうするかはあんたしだいだ。入学試験の合格は手伝えないぜ。」


 その日のうちに、というかその夜のうちに着の身着のままーーどうせろくなものを持ってなかったけどーー馬車に乗せられて王都へと運ばれていった。なんと御者も彼がつとめ、まともに対面することがない!

馬車の壁越しにこの男の情報を引き出そうと道中色々と話しかけた。

正直に言えば、今後の展望に不安があって話しかけずにはいられなかったのかも知れない。

 

 件の孤児院について、院長と言う中年の、厳しそうだけど品のある女性と話し、孤児院で住み込みで働くことにした以外は男と話したとおりだった。

 驚いたことに、孤児院には図書室があった。

入学試験の勉強に必要な本も不ぞろいではあるがあって、なんでも孤児院を出るに当たって就職に必要な知識・技能の取得のために寄付されてくるそうだ。月刊スクロールというシリーズについては今月号以外きれいに揃っている始末である。ああ、好みが反映されているなと思った。

私は入学試験のほかに一つのテーマについて調べていた。

サンタクロースという言葉から、渡来人についての書物を読み漁ったのだ。渡来人に関する書物が割かしあって助かった。

そして入学の面接のときに彼に言ったのだ。

「"闇雲"の呼び名って自分で広めたんでしょ?解いた結果があの答えってちょっと不満ものですよ?」

 してやったり、と言う表情でそういって見上げると、多分変装している、初めて見た男の表情は驚きに満ちて、そして大したものだといって頭をクシャっとなでられた。

そんなキャラじゃないでしょ!と思いつつも微かに合った緊張感もそれで吹き飛んで、支障なく入学することになるのだが、それはもうちょっと先の話だ。




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