ノイスルゼの事情 前半
ポケモン、全国図鑑埋まりました・・・。
私の名前はノイスルゼ。
長年父親に暴力を振るわれていた私は半ば人生を諦めていた。
しかし、残りの半分が私をとどめていた、とも言える。
それはこの世界への興味・関心だった。
突如現れた渡来人と、彼らが振るう謎のスキル、という現象。
私達原住人とは何がどう違うのか、私は知りたくて仕方なかった。
父は私を働かせて、その稼ぎを全て奪っていたが、それ以外には無 頓着な人だったから私は近所の本屋さんで、働いている時間以外は立 ち読みをしていた。
後に王都に行ったときに本屋と言うものの概念の違いに驚かされたも の だ。
あの町の本屋は名前から有様まで何もかもおかしい。
近所のおばさん方や、子供にいたるまで店に入っては何かしら読んで いく。
王都の本屋では貴族、それも中級以上の貴族の家の使いが入れるかど うかといった所も少なくない。
ましてや本はそれ自体が高い鍵付きの棚にしまわれ、購入に至りよう やく日の目を見るのが一般的なようであった。
そんなわけだから、立ち読みしていても文句を言われないどころ か、お茶まで出されてしまったあの店が何を考えてるのか分からな い。
そんなある日、父は私の稼ぎに不満を漏らし、何か盗んででも金を もってこい、と私のお腹を蹴った。
顔を殴って一度職場をクビになったことで、目立たないところを殴る ようになった。
いつものように仕事の前に寄った"インクの海で溺れたい"。
どう考えても売る気のない本屋ぶりに、店長は稼ぐ必要がないくらい に余裕があるのなら1冊くらい・・・なんて思っては頭を振ってその思 考を振り払う、なんてことを幾度か繰り返した。
本を1冊盗んでしまった!
持っていた布製の鞄に滑り込ませるだけだった。
私の読む本は一般的でなく、人が周りに要ることは少ない。
簡単だった。
酒量が増え、一層荒れるようになった父を前に擦り切れていった私は ついに手を出してしまったのだった。
そして一度やってしまった後は窃盗の敷居が下がった。
幾らも日が経たないうちに数冊の本が積み重なる。
それは私の罪悪感の象徴だった。
できるだけ視界の当たらないくらい場所に隠すようにしまってあった が、それはなんの慰めにもならなかった。
そんなある日、もはや癖のように窃盗をした私に声をかけた女性が 居た。バレたと思いビクついていた私に彼女は
「あの、ハンカチが落ちていたんですがあなたのですよね?」
と言った。ホッとした反面、残念に思ったのは何故だったのか。
一言二言呟き、逃げるように去った私は、帰宅して驚きに包まれた。
あるはずの1冊の本とあるはずのない1枚のカード。
ソレから数日後、私は運命の日を迎えることになる。