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脚長泥棒

 王都ルグリアの片隅。

ギリギリでスラムよりは町寄りであろうか。


「私が院長のクラッド=デュオルクです。あなたが例の人の紹介のノイスルゼさんでよろしいですか?」

 ちょっと小太りの、優しさと厳しさの相混じったアイスブルーの瞳の女性がそう言う。

「はい、そうです。あの、失礼ですが例の人、あの人は何者なんですか?」

 私の声は震えている。

「"例の人"なんて呼ぶのには理由があると言うことです。まず第一に彼が何者なのか私自身わかっていない。」

「ちょ、ちょっと待ってください!そんな理由わかんない人の勧めで今話が進んでいるってことですか?」

「昔、ルグリアに極悪非道の泥棒がいました。いえ、あれは強盗、と言うほうが正しいでしょう。貴賓を問わずに絶対公平、通った後には財貨なし。人殺しだけはなかったようですが。」

 そこで院長さんは一息つくと、お茶で口を湿らせると続きを話し出す。

「ただ、間接的に死んだ人がいました。うちの孤児院の後見になってくださっていた貴族が被害にあい、うちから手を引かれたのです。結果から言えば体の弱かった子が何人か新しい春を迎えられませんでした」

 思い出してしまったのだろう。クラッドさんはうつむいてしまい、声がくぐもる。

「それからしばらくして、うちにも彼はやってきました。しかし盗むものなどあるはずもありません。ただ、病人のような子供達が居ただけです。事情を聞いた彼は酷く打ちのめされていました。彼のことを勝手に話すわけにはいきませんので彼の独白については語りませんが、彼自身ひどい目に会い自棄になっていた、と言うのが近いでしょう。それから暫く経ってうちの孤児院に後見がつきました。どこぞの貴族ではありませんでした。間違いなく偽名でしょう。ときどき何人か子供を預かってくれ、と言われます。それ相応以上のお金とともに。預かった子供らは皆何がしかの犯罪などに巻き込まれていたのでしょう。生活の様子を見ていれば容易にわかるものでした。」

 またお茶を飲み一息。すっかりお茶は冷めていました。

「彼にとっての贖罪なのでしょう。」

「また、どこかからか職の当てを見つけてきて斡旋もしてくれています。そのためにこの子には~をあの子には~を教えたほうがいいと言っていろいろと学習用に本を届けてくださったりね。そんなわけだから、例の人が誰か連れてくるときにはそれなりの理由があると思っているわ。」

 視線を鋭くして私を見る。

「それで、本題に入るのですが、本当にあなたは孤児としてうちに入られる、ということでいいの?孤児、というのは身分の証明がしっかりとしておらず、まともな扱いを受けることは稀です。例の人が言ったのでなければ冗談かと思ったことでしょう。」

 そう、例の泥棒さんは私に提案した。

家族との縁を切り、この孤児となってこの孤児院にはいり、院の運営を手伝うなら学院へ入るために必要なものは全部用意してやる、と。

学院は身元を徹底的に調べる。

貴族の跡継ぎを受け持ったりするからだ。

親もその対象になるため、あの男が"親"であるうちは入学はとても無理だと。

だが、孤児であってはもっと無理ではないか。

身元引受人には院長になってもらう。普通孤児には入学に必要な費用が払えない。入学においてそれ以上の問題はない。

あとは君が努力して入学試験をパスできるかどうかだーーと。

「入学できたとしても、それ以降も周囲の目は厳しいでしょう。それでも行きますか?」

 きっと私は"孤児である"ということを知っていてもわかってはいないだろう。それでも私はためらわずに、はい、と言った。

「私は学院に行きます」

「まずはうちの運営を手伝ってもらってからですよ。あの人からはその労働の対価として学費諸々を支払うといわれているのですから。」

 そうして孤児院での細々とした約束事を話し合ったのだった。



 王都ルグリアの学院において優秀な研究者が誕生する。

彼女は多くの有用な技術や埋もれた歴史に日の光を当てていった。

彼女の出した本は子供から研究者まで様々な人に読まれることになる。

そんな彼女は学院初の孤児であったという。

学院生活中は孤児であるとして様々な嫌がらせなどを受けるが、学院で最も優秀な成績をたたき出す。

そんな彼女だが、孤児院の院長が優秀な彼女を是非にと言って学院に通わせた、と言われているが、学院の費用は孤児院が支払い続けられるような額ではない。彼女の謎の出資者についても世間では大いに盛り上がることになるのだが、それはまだまだ先のことである。

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