泥棒 meets girl again
本を取り戻す依頼を受けたとき、万引き犯については俺に任せてもらうということで話はついている。
多くのものは関わったことで少なくない損害を出した。
しかも自らの行為を表ざたに出来ないため、訴えたりはできない。
自らの犯した罪を否応なく実感させられるのだ。
そして今夜また一人分の罪を盗みに行くーーー
やっぱり返そう・・・。
鞄の中から出てきた名刺サイズのカードのメッセージ。
それを見た私は返さなければいけないと思った。
私が盗ったことがバレていると分かり、恐れた・・・のではないと思う。
メッセージには"私の罪の一部"と書かれていた。
つまりそれ以外の盗品についても知っている。
ならば、それらについても持ち去ってしまうのだろう。
見るたびに罪悪感を感じてしまったそれらを奪い去ってくれるならそれでいいではないか。そう思わなかったわけじゃない。
でもきっとそれでは私は罪悪感を引きずったまま生きていかなければならないだろう。
彼の店の店長は儲ける気があるとは思えない。
立ち読みをする私に
「勉強熱心だねぇ」
なんてお茶を振舞ってくれたりしたのだから。
自ら返しに行こう、そう決意していつもは目を逸らす"罪科"に目をやればそこには1枚のカード。
あなたの残りの罪、確かに頂きました。
怪盗 Cloud / Dark
手遅れだった。
カードから視線を上げると不意に窓からの月明かりが遮られた。
今日は雲もない綺麗な月の夜だったはずだけど・・・
月の光は間違いなく私の部屋に入ってきていて
私の前で遮られていた。
「返して!本を返して!!明日自分で返しに行きますから!」
私は確かめることもなく叫んでいた。
「残念ながら俺は泥棒だ。サンタクロースじゃない、と意味わかんねーか。ここには盗みに来ただけだ。」
そう言った"影"は私の手を掴んだ。
「いやっ」
私は振り払おうともがくが掴んだ手は一向に緩む気配はない。
「学園に通いたいのか?」
それは唐突な一言。
私の動きを縛る枷。
「何で・・・」
無意識に言葉が洩れる。
「エイセスセニスの謎に迫る スキルとは 渡来人と原住人 魔法大全 あんたが立ち読みしてた本だ。濫読するにはちょっと選書が独特すぎる。泥棒の仕事は盗む前に仕事が始まってるんだ。」
そこで一旦会話が途切れ、辺りは静寂に包まれる。
「俺に出来るのはこのままだと続く、あんたの真っ暗な未来を盗むことだけだ。そのあとどうするかはあんたが決めるしかない」