配達じゃなくて、泥棒です。
ちょっと考え違いをしていた。
"向こう"でなら、万引きは必要なものを盗るっていうより、ストレスなどからの逃避行為として行われることが意外に多い。
それが頭にあったので、というかその思考に囚われてしまったのだ。
だがしかし、この世界は"向こう"と違い、文明が行き着くところまで行き着いたわけではない。日々余裕のない生活をおくっている人が多い、とあれば、高級品を売りさばいている、と考えるほうが自然のはずなのだ。
念のため、情報屋にここ2月ばかりの本の売買記録を探らせていたため、助かった。盗品を売買しているような店に慈悲はなし。
買い取るのにそれなりの対価を払ったのだろうが、そんなことは知らん!
こっそり忍び込んで全て取り返した。
危なかった。中級貴族に中古価格で売り飛ばされていたら困難、とは言うまいが、地方に飛び回らなければならなかった可能性もある。
買い取り控えも押収し、万引きを行い、売り込んだ輩からは売った金額、もう使い込んでいた場合にはソレ相応の品を頂いてきた。
あなたの罪、確かに頂きました。
怪盗 Cloud / Dark
無論、犯行証明書は盛大にばらまいた。
窃盗は犯罪だ。だがこの"仕事"に遠慮は要らない。
情報屋を頼るのは恥でも何でもないが、自分の方針が大筋で見誤って言う他のいたのは痛恨の極みである。反省をしつつも立ち読みをしていたところ、一人の少女が書架の陰で行動したのを確認した。
俺、おっと私は、横目でそれを確認すると彼女が店を後にするのを待って後をつける。
「あの、ハンカチが落ちていたんですがあなたのですよね?」
少し離れたところで彼女に追いつくと、膝に手をついて息を整えると両手で支えるようにしたハンカチを彼女の前へと持ち上げる。
不意に声をかけられて一瞬ビクっとした彼女は振り向いてハンカチに目を留めると、
「えっと、慌てて追いかけてきてくださったようで申し訳ないんですけど、このハンカチ、私のじゃないです。」
「ええっ!?」
そう言って苦笑した彼女は私に背を向けて再び歩き出した。
それをしばらく見守ってから一息つくと、私はスカートのなかに隠していた本を取り出した。
「どうやら私の想定も全く無駄だったわけじゃなさそうね。」
私は"エイセスセニスの謎に迫る"を片手に先ほどの彼女を追いかけるのだった。