プロローグ ~闇雲参上~
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一日の終わり、確認のためという口実で、趣味であるお金を数えるため、金庫を開いた男はその身に何が起きたのかわからず、正気に戻るまで若干の時間を要した。最も高額の白金貨が積まれていたはずの金庫の中には空っぽだったのだ。正確には紙が数枚入っていただけだった。
あなたの罪、確かに頂きました。
怪盗 Cloud / Dark
名刺サイズの紙に小さく一言、署名、そして漆黒の雲のイラストがシンプルに描かれていた。
「"闇雲"だ!怪盗"闇雲"が出たぞ!!捜せ!なんとしても奴を捜すのだ!!!衛兵?ダメだ、衛兵は呼んではならん。まだ奴は近くにいるはずだ!!」
"まだ近くにいる"根拠は何もなかったが、男はそう叫ぶしかなかった。何故ならば、金庫の中身は納税額をチョロまかしたものだったからだ。ことを公にするわけにはいかなかった。家中の人間を走り回らせた男は、ここに至り、ようやく名刺以外の紙束に目をやり、再び驚かされるのであった。それは正しい帳簿と細工をした帳簿であり、所々赤色のペンで修正され、合計額まで正されており、さらに一言、
追記:不足分をあなたのポケットマネーより頂戴しました。
と最後に記載されていた。男は普段金を持ち歩くことはなく、なんのことだかわからなかった。再度見直してみて、引っかかるものがあった。よく見れば追記の文字は丁寧に書かれていたがちょっと丸みを帯びており、名刺に書かれた文字とは書体が違う。そして、この文字はどこかで見た覚えがある。
「侍女のシェリーツァだ!シェリーツァはどこにいる!?」
部屋を出て、辺りを探し回っていた小間使いをつかまえて怒鳴るように尋問する。
「そういえば先ほどから姿を見ませんね。外に探しに行ったのでは?」
小間使いは自分で指図して何を言っているのか疑問を露わにして答える。
「旦那様、昼頃にシェリーツァさんがお金を拾ったと聞いたんですがご存じですか?」
突然何を言い出すのかと思ったが、思い浮かぶ節があった。昼日中にシェリーツァが、
「お掃除の途中で見つけたのですが、どなたの目に触れるかわかりませんのでお預かりください」
といって渡されたのだ。屋敷で働くものたちにとっては小さくない金額であり、問題ごとになるのも面倒だと思ったのだろう。男は預かっておいて、誰かが騒いだら、事情を聞いて返してやればいいと思い、ポケットに入れておいたのだった。
昼の男にとってははした金だったため、幾らだったかは覚えていない、が、ピンとくるものがあった。
「もしかして、銀貨6枚じゃないか?」
恐る恐る男が尋ねると、小間使いはホッとした様子で
「そうですそうです、ちゃんとあったんですね。おかしいんです、屋敷に戻ってから取り出したりしてないんですが・・・」
普段なら雑な取り扱いだと怒ったかかもしれない、いや間違いなく叱責していただろう。だが、今回に限ってはその気力も沸かなかった。間違いない、シェリーツァが、"闇雲"が盗ったのだろう。恐らく、金庫の中身を見て、不足分に気づいた"闇雲"は唯一銀貨を預かるこの小間使いからお金を掏摸取り、私に渡した後、改めて掏摸直したのだろう。盗ったのが自分であると宣言するために。思い出した、確かに預かって入れた右ポケットにはやはり何も入っていなかった。
仮想世界"エイセスセニス"では一人の怪盗が暗躍していた。
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