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チートなおじさんが仲間とケーキを食べに行きました。

おじさん、カサネに合わせます。遅くなってしまいすいません!

地獄の瞬間に巻き込まれて数秒後。さっきまで近かった青い蒼い空が突然遠くなって、地面に足がついた。何か新鮮な気持ちだ。

「はー、はぁ」

「んーケンジ君?君はよっぽど怖がりなのだな!まるで驚いた人間の様な表情をしているぞ!」

「驚いているからね、当たり前だよ!」

キョトンとする天然ボケなカサネに勢い良くツッコんで、辺りを見回す。広大な事に変わりは無いのだが、目の前に辺りの大自然とは正反対の高すぎる頑丈そうな塀…のような無色透明の王国の様子が透けて見えるバリア?に囲まれた大都市が広がっているのが唯一の違いであり最大の違いだろう。その都市というのがSFの、しかも高クオリティの映画でしか見たことがない高層ビルの立ち並ぶ国だったのだ。ファンタジーに縁がある「王国」という古めかしい言葉は全く似合わない。断言できる。似合わない。ツッコミも追い付かず呆然としたまま王国の入口であろうこれまたどこかのSF映画のようなシルバーの機械ちっくな閉まった門の目の前に立つ。

カサネは自分の体を一度揺すって背中の翼をしまうと、菖蒲色の髪をばさりとなびかせた。こんなお伽噺の中でしか見られないような様子さえ既に慣れてしまった自分を殴りたい。

「では我が城に案内しよう。まぁ、その前に、と言ってはなんだが、腹は減っていないか?」

「いや、僕は減っていないよ。大丈夫だ」

「…………そーか!!ならば、早速行こぅ…」

『ぐぎゅるるるる』

段々小さくなっていくカサネの声と反して、カサネの腹の音が盛大に惜しげもなく鳴り響く。王国の門に入る一歩手前であったため人が少なく僕しか聞いていないのが不幸中の幸いだろう。

「…イヤー、僕もお腹すいてるかな…」

この一言で恥ずかしかったのか顔を真っ赤にして俯いていたカサネは『バッ』という効果音がつきそうな勢いで顔を上げた。

「ふっふっふ~っ!しょうがないなぁ!まず腹ごしらえをしてから本来の目的場所に行くとするか!はっは~!」

心底嬉しいだろうがあえて喜ぶ顔を見せない__いや、バレバレだが__カサネが可笑しくて笑みがこぼれる。

「ああそうだね。だったら辛いものでも……」

隣の菖蒲色の髪がぶわっと逆立った。猫のようだ。

「かかかかから…いいなぁ!でもほら、甘いものの方が疲れを取るのには最適なのだぞ?」

冷や汗をかきながら必死に叫ぶカサネを見て『辛いものは無理なんだな』、と心中で考えて気づかれないように溜め息を吐く。

「甘いものかぁ…まぁ僕も甘いもの好きだしねぇ…」

パァッと顔が明るくなる。究極に分かりやすい子だ。

「では食べよう!その前に門を開けねばな!」

「あはは、そうだねー」

コホン、と一つ咳をして、カサネは巨大な門に手を当て、何故か扉から出た銀のイヤホンをそれぞれ耳につける。

「第一王国騎士団団長カサネだ。カサネ・ブレイクボールドウィン。合言葉の花はアヤメ。門を開け」

早口で呟くと、門はひとりでに開いた。カサネは躊躇せずまだ開いている途中の門の真ん中を突っ切って進んでいった。

「うわっ、カサネちゃっ」

こちらの手を引きながら。

「迂闊に離れて歩いて迷ってしまったら困るだろう?常に体の一部を触れあわせておけば迷う心配も無いからな」

バカっぽいが男らしい台詞を真顔で言われ反応に困る。

数分後何を言っても無駄だと悟り、カサネの身長に合わせて少しだけ猫背になる。辺りの人物をついでに観察していると、やはり格好が違い、スーツ姿の人物などおらず軍服や鎧、とにかく変な服を着た人間しかいない。自分のスーツ姿の方が目立つ。それに目の色も合わさって相当異質だろう。

「ついたぞ」

「えっ…」

考え事をしているとカサネから声がかかり我に返ってそちらを見る。不思議そうな表情をしたカサネの顔が何故か目の前にあり、変な声が出る。

「うはっ…?近いよ、カサネちゃん…」

「近くて問題があるのか?君は加齢臭も皆無だし汗の臭いも不快になる容姿もしていない。それに私はこの王国で1、2を争うまでもなく1の美女と呼ばれている。鼻が触れあうような距離でも嫌がられる様な事はまずあり得ないと思うのだが」

「加齢臭が無いってのは嬉しいけれど、女の子に対しては僕あんまり得意じゃないし…」

「…君はまさか」

「いや、何言おうとしているか大体分かるけど、それはないから!」

慌てて言うとカサネはあからさまに疑っている目なのでもう弁解は諦める。何か屈辱的だ。

やれやれと肩を竦めながら目の前をカサネに促され見ると、メルヘンチックなピンクで飾られハートの盛り付けられた男が入るにはハードルの高いケーキ屋の看板。可愛らしい丸文字は『ケーキの森』と書いてある。周りの青で統一された風景とは明らかに雰囲気が違い、顔が何故かひきつる。

「わーお…」

「ここのショートケーキは絶品なんだ」

「へえ…」

「ほら、入るぞ!」

またまた手を引かれ店内に入ると、看板と相違ない可愛さの、ケーキをイメージしたであろうピンクとチョコ色、白と粒々のついた赤のテーブルやイスは、一種の毒々しさを放っており、不思議の国のアリスの童話の挿絵に出てきそうな、或いはヘンゼルとグレーテルの魔女の家にそっくりだ。

人はそれほど多くはなく、空席が目立つが多分いつもはもっと人がいるのだろう。

そう考えているうちにいつの間にか店員の一人が出入口に突っ立っている此方に気づいたらしい、慌てて駆け寄ってきた。

「いらっしゃいませ」

駆け寄ってきた店員は店のイメージと合わせたであろう苺のエプロンを俗に言うゴスロリのレースのついたドレスの上に着た、無愛想そうな少女だった。

「やあ、ヴィーゲンリート」

「カサネ様、お久しゅう。つい三時間ぶりですね。今度はお連れ様がいらっしゃるようで…」

「あーはい…ケンジ、です」

「ヴィーゲンリート・シュトラーフェです。以後、お見知りおきを」

少女は黒髪のおさげを揺らして、礼をしてきた。無愛想と言うより、無表情だ。

「お席は此方でよろしいですか?」

一番端の外が良く見える席に案内され、カサネと向かい合う様に座る。カサネはルンルン気分で早速『苺とさくらんぼの甘酸っぱケーキ』と『チョコとココアの大人ケーキ』をこちらにメニューを見せびらかしながら選び、少し悩んで飲み物を『獄甘カフェオレ』に決めたあと、こちらにメニューを渡してきた。

「あ、ありがとう。じゃあ…コーヒー。ブラックで」

「………猛者だな」

カサネが何か呟いたように聞こえたが内容は分からなかったのでそのまま受け流して店員のヴィーゲンリートを呼び注文をする。その直ぐ後に水が運ばれ、それを口に含みながらカサネをちらりと見る。カサネはそれに気づいたようで、挑戦的な目付きで見つめ返してくる。

「何か、気になる事でも?」

最初に言葉を発したのはカサネだった。

「…少し。まぁ質問はあるよ」

「ふぅん、例えば?」

話を促され、少し間を置いてまた喋り出す。

「言語…かな」

「言語?」

「ちょっと不思議なんだ。異世界から来た僕の言葉が通じているのも、漢字が存在している事も」

「……なるほどな。だがその疑問は簡単に解ける。私達第一王国の民が話しているのは異世界語。第一王国を創立した君と同じような異世界からの訪問者がつくった言葉だからだ。第一王国だけではない。他の国すべてが、その訪問者によって創られた。それに訪問者は、自分の言葉を『極東語』、そして『ニホン語』と言っていたらしい。まぁこれは今からずっとずっと前の話らしいが。そしてカンジだがこれは私にも分からん。…だが多分君が言っているのはこれだろう?」

カサネは自分の手帳を取り出して手帳とセットになっているペンでサラサラと『一二三』と簡単な漢字を書いた。

「いちにぃさん…漢字だね」

「やはりな。これはこの世界では当たり前のように使われていて、名を『第一異文字』と言う。他にも…『第二異文字』」

カサネは今度は手帳に『アイウエオ』とカタカナで書いた。これが第二異文字らしい。

そして第三異文字。これは元の世界のひらがなにそっくりだ。その異世界からの訪問者はきっと…いや絶対日本人だろう。

「…まぁ言語についてはこんな感じだ。他にはあるか?」

「今のトコロはないよ。ありがとう」

「どういたしまして、ケンジ」

会話が途切れた直ぐ後に、ヴィーゲンリートが注文した甘そうなケーキを大切そうに運んできた。

「ヴィーゲンリート、ありがとう」

「いいえカサネ様、仕事ですので」

そう言い残して立ち去るヴィーゲンリートの背中を見つめながら、カサネは銀のフォークの先に白いケーキを乗せて、それを口に含んだ。

「あまーっい!おいしぃい!」

「ハハハ…」

自然と笑みがこぼれながらも、カサネの必死にケーキをつっつく姿が可愛らしいので、しばらくそれを眺めていた。


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