007 ハーレム貴族はぶっつぶせ
その日、1人の青年はなんの気無しに散歩していた。
「へっへっへ、これで大金が手に入ってくる。」
「公爵様、本当に良かったのですか?」
「何を言う。
借金に首が回らなくなったのはお主も同じではないか。」
「ですが・・・」
「そもそもお主が『本当に金の○ンゼルって入ってるんですかねぇ?』と言うから、領の運営費を使い込んでしまう羽目になってしまったのだ!!」
「そうなんですよねぇ・・・
銀のエンゼ○は10枚も見つかったのに・・・」
「貴方達・・・大人しく聞いていれば・・・どれだけ運が悪いんですか・・・」
「人質は黙ってろっ!!」
パシィ
「キャッ」
「公爵様!!金が手に入るまでは無傷でないと・・・」
「それもそうだ・・・
金さえ手に入れば・・・金のエ○ゼルどころかプラチナのエン○ルが出るまで買い占める事ができる。
それまであんたには大人しくしていたもらわねぇとな。へへへ。」
などと言う会話が聞こえてきた。
青年は「プラチナのエ○ゼルなんてあるのか?」と思ったが、面倒は御免と無視して立ち去ろうとした。
・・・が、その後に聞こえてきた言葉に足を止めた。
「公爵様、もちろん中身のチョコは・・・」
「誰も見てない間に、空き地に捨てるに決まっておるわ。」
「食べ物を粗末にするなぁ!!」
声のした方に突っ込みを入れる。
「なっ・・・何奴っ!!」
「曲者っ・・・曲者じゃ~、出会え出会え~。」
途端、縦横無尽に茂みから飛び出す無数の礫。
影の数は50近くだろうか、青年に向かって放たれる。
キキキキィン
だが、全ては青年の目前で止まる。
影の正体は棒型手裏剣だった。
「誰だかしらねぇが、もったいないお化けの代わりだ。」
青年が手を振ると、止まっていた棒型手裏剣が逆再生するように飛んできた方向へ飛んで行く。
「ぐぇっ!?」
「ぐぁっ!?」
「ぐぉっ!?」
そこかしこから悲鳴が聞こえ、黒装束の人間が落ちてくる。
「これだけか?」
「くっ・・・ならば・・・先生っ!!
お願いしますっ!!」
「公爵様っ!!まだ奥の手があったんで?」
「ばっか、こう言えば凄い奴が来ると思って相手がビビるから、その内に逃げるんだよ!!」
「そうでしたか。ならばっ!!」
「いや・・・丸聞こえだから・・・」
青年はもう一度手を振ると光の輪が二つ浮かぶ。
「いけ。」
光の輪は茂みの奥へ飛んでいく。
「ぎゃぁ、なっ・・・なんじゃこれは!?
くっ・・・逃げられん。」
「公爵様っ!!
私もですっ!!お助けくださいっ!!」
声のするほうへ歩いていくと、そこには光の輪に捕まって身動きの取れなくなった男2人と、縄で縛られ気を失った年配の女性が居た。
「やれやれ、巻き込まれたのもなんかの縁か・・・仕方ねぇな。」
青年は頭をぽりぽりと掻き、手を振ると3人とも宙に浮きあがる。
「送ってやるか。」
-それから数年後-
「・・・でな・・・」
「ええ・・・」
「ほうほう・・・」
ぼそぼそと聞こえてくる会話を聞かないよう気をつけつつ、クアティ王は扉をノックする。
コンコンコン
「あら、この叩き方はエルティね。
どうぞお入りなさいな。」
内側から返ってくる言葉にあわせ、扉が開く。
もちろん自動ドアではなく、内側のメイドが開けただけだ。
「やぁ、お邪魔しているよ。」
青年がクアティ王エルティへ気軽に声をかける。
「会議お疲れさまでした。
如何でしたか?」
対面に座っていた年配の女性が、ゆったりと座っていたソファを座りなおし、エルティへ座るよう促す。
「母上、申し訳ございません。」
エルティがその横へ座ると、青年は立ち上がる。
「国政の話か・・・俺は席を外す。
楽しい時間だったよ。」
一礼し、立ち去ろうとするがエルティがそれを留める。
「すまないが、貴殿にもかかわりのある話なのだ。
聞いてもらえないだろうか?」
青年は何か考えるそぶりをするが、王母と目が合う。
「・・・まぁいいか。」
青年は座りなおす。
一国の国王にこのような口を利けば不敬罪に当たりそうなものだが・・・誰も気にした様子は無い。
「ありがとう。」
王母が礼を言う。
「いや、話の途中だったしな。」
エルティはその言葉を聞き、気がついたように言う。
「母上、貴族達の陳情について相談していたのですか?」
「ええ、その通りよ。」
女性はニッコリと微笑む。
「そうでしたか。
ならば話は早いですね。
今回の議題は魔王についてでした。
結論として、各国より勇者を選出し、奴を倒すという事になりました。
我が国も・・・
貴族の陳情を無視する訳にもいきません。
なので名を連ねる事となりました・・・が、それで良いのか?と。」
「そうでしたの?
でしたらちょうど良いタイミングね。
今なら賢者様がおりますからね相談できます。」
「ええ。
この若さで豊富な知識。
常識に捕われない発想。
彼に相談すれば間違いありませんからね。」
エルティも微笑み、青年へと向く。
「いや、そんな事は無い。
俺はアドバイスをするだけだ。
しっかりと考え、実行するのはお前たちだ。」
青年は否定する。
「まったく、わが賢者様は謙遜が過ぎるようだ。」
「そうですね。」
2人は微笑み合い、青年は気まずそうに頬を書いた。
「して、母上。
賢者様と話されて、よい方法はありましたか?」
「それが世界情勢をお聞きしていたら、話が長くなってしまいまして。
まだ詳しく話ができていなかったのですよ。」
コロコロと王母が笑う。
「そうでしたか。
では、私もご一緒してよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない。」
エルティが青年へ問いかけると、すぐに肯定が返る。
「では、賢者殿。
すでに状況は聞いて居ると思います。
率直に貴族についてどう思う?」
「爆発しろ。」
「え?」
エルティは耳を疑う。
「はい?」
王母は首をかしげる。
青年は鷹揚に手を振り、
「すまん、率直過ぎた・・・
先に、お前達の意見を聞きたい。」
2人の意見を促す。
「それは貴族についてでよろしいでしょうか?
もしくは、魔王についてでしょうか?」
エルティの問いに、またもや青年は手を振る。
「一夫多妻についてだ。」
その言葉にエルティは黙ってしまう。
代わりという訳ではないが、王母が口を開く。
「女性としての立場・・・いえ、私の意見で言わせていただきましょう。
正直、気分はよくありません。
例え同じように愛情が注げると言っても、どうしても優劣は起きるでしょう。
誰か1人が子を授かった時・・・
男性はどう思うでしょうか?
女性達の中では、その1人だけが"特別になった"と思わずにはいられません。
"どうして私は子が出来ない・・・"そう思う女性だっているかもしれません。
異母兄弟では後継争いも醜くなります。
・・・自分の子達が憎しみ合うなど考えたくありませんわ。」
きっぱりと言い切るが、視線をエルティに向けると少し口ごもる。
「ですが、王族の責務である"次代の王"が残せないのであれば、身を引かなければなりません。
潔く身を引くことができれば問題ないのですが、せめて妾としてでも側に居たい・・・
そう思う女心も否定は出来ません。
それは私だけでなく、どの女性も同じかもしれません・・・」
エルティに慈愛の目を向けつつ
「まぁ・・・貴方のもたらしてくれた、身ごもりやすい周期や体に良い食べ物。
助産師ですら知らなかった、妊婦への知識がありますから、今の世代では、そう言う心配がないですけどね。」
コロコロと笑った。
「気にするな。
代替案も無しに一夫一妻を提示するほど俺も馬鹿じゃないだけだ。」
青年は王母に笑いかける。
「・・・・・・そうだな。」
じっと黙っていたエルティが口を開く。
「残念ながら私は妻を娶っていない。
一夫一妻も一夫多妻も何が良いのか、実は良く判っていないかも知れない。
だが・・・賢者殿との出会い・・・
母上が拉致された時、目の前が真っ暗になっていた・・・
その時ですら、気が狂いそうになっていた。
それが心から愛する妻であったならば・・・あまり考えたくはないな。
貴殿おかげで、私は父の後を継ぎ、賢王と呼ばれているが・・・・
母上が亡くなっていたら狂王と呼ばれていたかも知れん。
・・・うむ。
幼い頃から父に言われていた。
チョココロネは頭から食べても良い。お尻から食べても良い。
人それぞれの考え方がある。
それを容認できる広い男となれ・・・と。
だからこそ、一夫一妻も一夫多妻も人それぞれでいいんじゃないかと思っていた・・・
いや、思い込もうとしていたんだ!!」
「「一緒にしちゃ駄目でしょ!?」」
こぶしを振り上げ立ち上がるエルティに、青年と王母の突込みが入るが止まらない。
「だが!!
母上の言葉を聞いて目が覚めた!!
君の言う通りだ!!
女性の考えを尊重しなければならない。
一夫多妻だけじゃなく、多夫一妻も容認しなければならない!!」
「違います!!」
スパァン
王母の平手打ちがエルティの後頭部に決まる。
「母上っ!?
何か間違っていたでしょうか?」
「何故そうなるのですか・・・」
王母は額に手を当てて考え込んでしまう。
「え?ですから、異母兄弟だと憎しみ合うだろうから・・・母は同じであればと?」
スパァン
更に決まる。
「何を聞いていたのですか・・・
片親でも違えば、何かの間違いが起こりやすいと言っているのです!!」
「おぉ・・・そうでしたか。
勘違い、申し訳ございません母上。」
「判ればいいのです・・・」
「つまり、条件付で一夫一妻制にするのが一番と言う事ですね?」
したり顔で答えるエルティに王母がハテナ顔になる。
「条件・・・ですか?」
「ええ、賢者様のもたらした知恵を用いても、次代の子を残す事が出来ない人だけ、後妻を1人認めると言う形にすれば問題ないかと。」
「なるほど。」
「賢者様はどう思いますか?」
「まぁ、家の問題もある。
2人目までだったら許しても・・・ぐぬぬ・・・いやしかし・・・むぅ・・・2人はハーレムに・・・
なるか・・・ならないか・・・なるか・・・ならないか・・・ぐむむむむぅ・・・
よし、結婚10年で子供が生まれないなら後妻を1人だけ・・・なら。」
青年はかなりの時間悩んだ後、そう結論を出した。
が、エルティは別の意味で悩んでいたと思い、感動していた。
ぼっち魔王に2人目がハーレムじゃない!!と説得しようとしているかと思ったのだ。
「賢者殿っ!!
やはり貴殿は素晴らしい!!
私がずっと悩んでいた事案をこんな簡単に解いてしまうとは・・・
貴殿こそ、この国の・・・いや、人類の・・・いや、世界の宝だ!!」
エルティは青年に熱い抱擁を交わす。
・・・回した腕が頚動脈かどこかに引っかかっていたのか、青年の顔はどんどん青くなっていく。
青年は顔にHELPと浮かべ、王母を見るが、
「あらあら。」
にこにこと見ているだけだった。
-5分後-
「殺す気かっ!!!!!」
感極まったのか、エルティは青年を抱いたまま離そうとしなかった。
青年の顔が青から紫、紫から白、白から土気色になった時点で王母はやっと止めてくれた。
「どこまで行けるのか気になってしまってつい。」
「すまんすまん、あまりに絞め心地が良くて。」
「つい、で人を殺そうとするなっ!!」
「「はーい」」
似た者親子だ。
「・・・こいつら・・・本気で悪気が無いんだから嫌になる・・・」
青年はげっそりとため息を漏らし、ソファにぐでっと倒れこむ。
「それで、反対している有力貴族はどうするんだ?」
青年の問いにエルティは眉根を押さえる。
「それが問題なのだよ・・・
下手に彼等の機嫌を損ねれば、反乱を起こすだろう。
それにストライキされるだけでも国に痛手が起こる。」
「そうね・・・あの人が残した国ですから、しっかりと守りたいわ。」
2人は思案に暮れる。
「ふむ・・・つまり、そいつ等はハーレムを作りたい。
だが、魔王が怖くて作れない。
・・・結局の所、そう言う事だろう?」
ぶっちゃけた。
「うむ、そうだろう。
でなくばハーレムの復活など願う必要も無いだろう。
貴方の知識のお陰で、不妊に悩んでいた貴族達はこぞって子を成した。
世継ぎの為に、妾が欲しい貴族は殆ど居ない。
となれば・・・理由は考えるまでも無い。」
青年の眼光が怪しく光る。
「その貴族って・・・誰か教える事はできないか?
なに、悪いようにはしない。」
「・・・そうですね、エルティ。
リストをお渡ししなさい。」
答えは王母から直ぐに出た。
「母上?」
「彼は信頼に値する方と思っております。
そのぐらいは良いのではないですか?」
「ですが、母上。」
「エルティ、良いですね?」
「はっ・・・はいっ!!」
エルティは背筋をピンと伸ばすと、すぐに外へ駆けて行く。
「2週間待ってな。
きっと一夫一妻のよさに気付いてくれるはずだ。」
「ええ、お頼みいたしますね。
賢者様。」
女性は年齢に似合わず、小悪魔的な笑みでエルティの向かった方を見る。
わ~れっらむってき~の~そ~ろぐ~んだ~ん♪
は~れっむや~ろう~をぶっとばせ~(おー)♪
さ~いき~んへって~はき~た~け~れど~♪
ぎゃくっにふ~えて~く(ハーレム予備軍)♪
い~まま~でおおめにみってきったけ~れど~♪
そっろそっろやっろう~か(予備軍殲滅)♪
もてっなく~ても こっころ~はにしき~♪
がま~んし~ますよ~か~つま~では~♪
こ~のよ~にハ~レムあ~るか~ぎり~♪
はってな~くつっづく~よたったか~いは~♪
わ~れっらむってき~の~そ~ろぐ~んだ~ん♪
ハ~レッムやっろう~をぶっとばせ~(お~)♪
3日3晩クアティ王国のいたるところから音楽が流れ続け・・・
「ハーレム怖い・・・ハーレム怖い・・・」
とか
「ハーレム?何それ美味しいの?」
とか
「ガチ・・・ムチ・・・いぃぃぃぃやあ゛ぁぁぁぁぁぁぁ」
とか
「ハニー、愛してるよハニー。」
「ちょっ!?アナタっ一体何があったの!?・・・今までほったらかしにしていたくせにっ!!」
「忘れてたんだっ!!あの頃の気持ちをっ!!・・・愛してるんだっ!!はぁぁぁにぃぃぃぃ!!」
「あなた・・・いえ・・・のぶおさぁぁぁぁぁん!!」
とか
「女コワイ女コワイ女KOWAI」
とか
「ハーレムなど最早古い!!次代は今カツレツだぁぁぁ!!」
等など意味不明な方向に突っ走る貴族達が増えたのだった。




