004 変態兄貴はぶっつぶせ
所変わってここはアルティシア国。
会議を終え、帰ってきた王は、直ぐに執務室へ向かうと宰相を呼び出す。
「お呼びでしょうか?」
呼び出されてきたのは、会議では王の後ろに鎮座し、クアル女王と楽しそうに談笑していた女性だ。
「ああ、会議での発言について真意を聞きたくてな。」
「真意と申しますと?」
「とぼけるでない!!」
アルティシア国王は、頭まで真っ赤にして怒鳴る。
「あぁ、生ハゲですね?」
「そちらではない!!
・・・いや、まぁ、そのこともあるが・・・
噂って本当なのか?」
「嫌ですわ、会議の場を盛り上げるジョークではありませんか。」
「ジョークで私を陥れたのか!!」
生ハゲ王は更に激昂する。
「生ハゲは悪い子を脅す噂で、本来はタコ親父と呼ばれておりますもの。」
「尚悪いわ!!」
「良いではないですか。
私は好きですよ?
国民も親しみを持って呼んでおりますから。」
「ぬ!?そうなのか?」
「ええ、国民は王のことを親しみと愛情を持って呼んでおります。」
「うむぅ・・・呼び名一つで国民の信を得ることが・・・でもタコ親父・・・むぅぅ」
宰相の言葉は嘘ではない。
国民の間では、王の事を生ハゲともタコ親父とも呼んで親しんでいる。
女性には、夜遊びすると生ハゲがさらいに来るぞと。
子供には、悪い子は生ハゲに食われるぞ~と話の種にされ。
頑固で融通が利かなく、そのくせ女に弱い男性にはタコ親父という俗称が付けられるほど、浸透している。
「王よ、国民の為に敢えてプライドを捨てるのも国王の誇りではないかと思われます!!」
「お・・・おぉ・・・」
王は宰相の言葉に感銘を受ける。
「私の愛する国王は、国民の為プライドという愚かな感情を捨て、己が職務を全うする素晴らしき人だと思っております。」
宰相は涙を流しながら訴える。
「愛する・・・素晴らしい・・・」
その美しい涙と心地よい言葉にうっとりとするタコ親父王。
「王よ!!
国民の為を思うのであれば、私財を投げ売ってでも国民の為に尽くし、馬車馬のように働くべきではないでしょうか!!」
「うむ!!そうだな!!
よし、宰相よ、後の事は任す。
私は政務室で今日の仕事を行ってくる!!」
「はい!!」
タコ親父王は意気揚々と執務室を出て行く。
パタン
タコ親父王の足音が聞こえなくなると、宰相は目薬をポケットにしまう。
コンパクトを出して化粧直しをしながら、考えをめぐらせる。
(まったく、相変わらず扱いやすい王ですこと。
ついでに私財を公共事業に回す言質も取ったし・・・
そうね、私財の分は難民の受け入れ施設にでも回そうかしら。
きちんと国王の私財を投げたとうたっておけば、人気も上がるだろうし。
それと・・・問題は勇者の選出ね。
まったく、うちのタコ親父も馬鹿な事を言い出したモノだわ。
クアル女王との情報交換も中途半端なところで終らされたし・・・
とりあえず、うちの国で勇者認定を受けているのは・・・
あの子と・・・あの子、それとあの子。
3人しか居ないわね。
あの子は確か、魔王の洗礼を受けて魔王の虜になってしまったのよね。
あの子は女の子だから、ハーレムの為なんてくだらない理由には力を貸してくれないか・・・
最後はあの子・・・
少々問題は有るけど、勇者として代表にできるのは、あの子しか居ないわね。
よし!!)
「パールティ!!
パールティは居ますか!!
至急彼に連絡を付けたいのです。」
宰相は扉に向かって叫ぶと、1人の女性が天井から音も無く降り立った。
「はっ!!ここに。」
降り立った人間は灰色のボブカットに灰色の瞳。
服装は黒1色と地味な姿をしている。
この世界で諜報を携わるものに最も多いといわれる"シノビ"
それが彼女の職業だった。
「全て聞こえておりましたね?
各国勇者会談は彼に任せようと思っております。
連絡を取ってください。」
「畏まりました。
ですが・・・あの方は何所に居るか・・・・」
シノビであるパールティをもってしても、宰相の選んだ彼という人物は探し当てるのが困難のようだ。
「大丈夫です。
幸い勇者会談までの日は長い。
慌てなくとも大丈夫です。
例えどのような事があっても、2ヶ月に1回は必ず戻るのですよね?」
「はい、残念ながら・・・」
「それで良いです。
必ず伝えてくださいね。」
「・・・・・・ははっ。」
パールティは宰相へ頭を下げると、来た時とは逆に一瞬で天井に跳ね上がると、いずことも無く消え去った。
場所は変わってココルリア村。
「は~い、お嬢さん今日も良いケツしてるね。」
さわっ
「何しとんじゃいこんぼけがぁっ!!」
ゲシィ
1人の少年が、通りすがりの女性にセクハラをしては返り討ちにあっている。
「はぁい、良い形の胸だ。触ってもいいかな。」
モミモミ
「言い訳ないでしょっ!!
このスケベッ!!」
ドガッ
「これは慰謝料に貰っていくわよ!!」
さらに別の女性にセクハラをしては殴られた後、財布をとられている。
「はぁい、黒装束のお嬢さん、ステキな太ももだね、まさぐっていいかな。」
さわさわさわ
「はぁ、これだから。」
パールティは撫で回される太ももを持ち上げ、みぞおちを蹴り上げる。
「がっ!?」
「この方にはっ!!」
体がくの字に曲がったところで、後頭部に肘うちを決める。
「ぎっ!?」
「会いたくっ!!」
地面に落ちた頭のこめかみ部分にトゥキックを決める。
「ぐっ!?」
「無かったんっ!!」
動かなくなった頭を地面にめり込むほどの勢いで踏みつける。
「げっ!?」
「です・・・よっ!!」
両手両足をきつく縛った後、弓なりになるよう、両方の縄をきつく縛る。
「ごぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「っと。」
縛った縄の一端を持つと、セクハラ男を背おう。
「ふぅ、後は宰相様の元へ送り届ければ終了ですね。」
パールティはため息をつくと王城のある方へ振り向く。
「お嬢さん、ステキな髪ですね。
少し嗅がせて貰ってよろしいでしょうか?」
すんすんすんすんすんすぅ~~~~~~はぁぁぁぁぁぁぁぁ
「いいいいいやぁぁぁぁぁ!!へんっっったいっ!!」
バカァン
目の前では縛ったはずのセクハラ男が、女性の髪の匂いを会ではバックで吹き飛ばされていた。
パールティはため息をつきつつ、ロープを引っ張ると、顔にバックの後をしっかりとつけたセクハラ男が吊るされていた。
「頼むから常識の範囲内で生きてください・・・」
「ぼかぁ常識の中の常識、ザ常識の名を持つ男だよ。
変な言いがかりはつけないで欲しいなぁ。」
しれっと言うセクハラ男にパールティはこめかみを押さえる。
「人界1の変態が何を言いますか・・・
こんな奴が人界の中でも5指に入る実力者とは・・・何かが間違っています・・・
ところで、尻を揉むのをやめて頂けないですか?
切り落としますよ?」
「どうぞどうぞ、直ぐに戻りますから。」
実際この男、手足や胴体までならすぐに生えてくる特殊スキルを所持している。
「くっ・・・単細胞だけにゴキブリ並の生命力・・・」
「本末転倒ですが・・・
呼ぶとしますか。」
その言葉に今までへらへらしていたセクハラ男の顔が凍る。
「ちょっ!?
おまっ・・・まっ・・・」
「お嫌でしたら、大人しく王城まで「判ったっ!!判ったから頼むっ!!」良いご判断です。」
セクハラ男は観念したように大人しくパールティの横に並ぶ。
だが、世界はそんなに甘くない。
目の前を通り過ぎるのは、いかにも隙だらけ的な薄い服装に身を包んだ絶世の美女。
セクハラ男がそれを見ておとなしく出来る訳があろうか?いやない。
「おっじょぉ~さ~ん、そのすけすけな服をめくってもいいかな?」
めくりっ
「ほえ?
あら・・・まぁ?
え~っと・・・死んじゃえ。
爆☆散♪」
美女が魅惑的なウィンクをすると、セクハラ男は内側から破裂し、あたり一面に飛び散った。
ただし、何故か血が吹き飛んだり臓物が吹き飛ぶと言う事は無い。
それどころか、吹き飛んだ破片がぴくぴく動くともぞもぞと集まってくる。
「ひぃっ!?」
これには爆散させた美女も腰を抜かし、地面にへたり込む。
「お、ラッキー、黒か。
良く似合ってますよ。げへへへへ。」
頭だけになり、転がったセクハラ男はちょうど目の前にへたり込んだ美女の前で笑う。
「ひっ・・・ひぃぃ・・・なまっ・・・なまっ・・・しゃ・・・しゃべっ・・・」
美女は可愛そうにも口をパクパクと開き、泡を吹いて失神する。
「仕方ありませんね。」
黙ってその光景を見つめていたパールティは、懐から笛を取り出すと息を大きく吸う。
ピィィーーーーーーー
そして笛を鳴らした。
「え?
ちょ・・・うそっ・・・まじっ!?
ちょっまっ・・・再生まで時間掛かるっ・・・
いやっ・・・いやっ・・・らめぇぇぇぇぇぇ~」
そして何所からとも無く聞こえてくる歌
わ~れっらむってき~の~そ~ろぐ~んだ~ん♪
へ~んた~いあっにっき~をぶっとばせ~(おー)♪
ど~んなあっほで~もいっちげっきひっさ~つ♪
なっかま~にな~んか~た~よら~ない~♪
すって~いたっすっは ちっから~にごっくぶっり♪
かいふ~くや~くはひっつじゅっひ~ん♪
ひっどい~きょ~だ~い~み~ぬふ~りす~るけ~ど♪
へ~んったいあ~にき~はめっさ~つだ~(いぇ~い)♪
その歌に村の家という家の窓が開く。
そして窓から半身をだした村民は叫ぶ。
「こっ・・・この歌はっ!?」
「奴だっ・・・奴が来るぞ~。」
「でも何か歌がちがくない!?」
「変態兄貴とか言ってるぞ!!」
「ぼっち魔王の家族って事!?」
「誰だ誰だ?」
「あの変態がそうよっ!!」
「確かに変態そうだ。」
「あっ、さっきあの変態、私の胸揉んだのよ。」
「私も髪の匂いをかがれたっ。」
「私なんてお尻を撫でられたのよ!!」
「殺せ殺せ~!!」
「ぼっち魔王頑張って!!」
「そうだ、俺たちはぼっち魔王を応援するぞっ!!」
「がんばれぼっち魔王!!」
「負けるなぼっち魔王!!」
「変態なんか滅殺だぁ!!」
その声とは裏腹に、セクハラ男は顔色がすでに真っ白で血の気など通っていない蝋人形のようだ。
「直れ!!早く早く早く早く早く早く!!
奴が来る・・・奴が来る・・・早く・・・早く・・・早くっ!!」
セクハラ男の気合が届いたのか、爆散した破片はぐんにょりぐんにょりと、気持ち悪い動きをして集まってくる。
「よっしゃぁ!!逃げるぜっ!!」
普段の5倍の速さで自分の体を再生したセクハラ男は、全力で駆け出そうとするが、コンクリ詰めにされたように動く事ができない。
「ひっ、これはっ・・・」
セクハラ男は唯一動く頭をパールティの方へ向ける。
そこには、困った顔のパールティと苦い顔をしたぼっち魔王が立っている。
「なぁ、パールティ・・・またやったのか?」
「ええ・・・何度いっても懲りずに・・・ね。」
「そうかぁ・・・」
「何とかしてよ、あの馬鹿。」
「俺も何とかしたいんだがなぁ・・・
記憶洗浄も脳を1度潰してみても駄目だったし、洗脳や催眠も3日も立てば忘れちまう。
条件発動型の魔術をかけて矯正しようとしても、魔力が切れても全く懲りない。
殺しても死なないしなぁ・・・」
「いっそ、頭までコンクリ漬にしてハリボナ海にでも沈める?」
「いや、それだとハリボナ海の生態系を壊すぞ?
以前海に沈めた事があったが、水が汚染されて向こう100年は魚が近づけない海域になってる。」
「え?もしかして、何隻もの船が座礁したり、奇形の魚がいくつも発見されているあのドラップ海域?」
「そうだ。」
「どこまで最悪なのよ・・・」
「所で口調が素に戻ってるがいいのか?」
「いいわよ、どうせ貴方とコイツしか聞いてないだろうし。」
「そうか。」
等と気安い話をしていた。
「パールティ・・・俺を売ったな?」
切羽詰った声で叫ぶセクハラ男。
「私は言ったはずですよ。
呼ぶって。
・・・悪いけど、お願いできる?」
パールティはぼっち魔王の手を握ると、斜め下45度の角度から見上げるように懇願する。
「お前・・・相変わらず俺の弱点を突いて来るな・・・
まぁ良い。
俺もこの変態を野放しには出来ないからな・・・
1ヶ月矯正コースを試してまた放ってみるわ・・・」
ぼっち魔王はセクハラ男の襟首を掴むと、無造作に持ち上げる。
「ありがとう。
だから好きよ。」
「はいはい。
じゃ、またな。」
「うん、またね。」
2人は手を振ると、ぼっち魔王は消えていく。
セクハラ男を連れて。
わ~れっらむってき~の~そ~ろぐ~んだ~ん♪
へ~んた~いあっにっき~をぶっとばせ~(おー)♪
ど~んなあっほで~もいっちげっきひっさ~つ♪
なっかま~にな~んか~た~よら~ない~♪
すって~いたっすっは ちっから~にごっくぶっり♪
かいふ~くや~くはひっつじゅっひ~ん♪
ひっどい~きょ~だ~い~み~ぬふ~りす~るけ~ど♪
へ~んったいあ~にき~はめっさ~つだ~(いぇ~い)♪
そして後には流れる歌と、すねた顔をするパールティ。
腰を抜かしたまま泡を吹いてる美女だけが置いていかれた。
「まったく、鈍感なんだから。
自分だって気付けばハーレム状態の癖に。
あ、宰相様の所にあいつを連れてかないといけないんだった・・・
いいや、適当な理由つけて来月連れてくって言っとこう。」
そのつぶやきは風と共に空のかなたへ消えていった。




