003 ハーレム勇者はぶっつぶせ
この世界は2つの大地とそれを繋ぐ1つの橋で形作られた世界。
大地の1つは、人族が王とした国家を形成する土地。
もう1つは、魔族が王とした国家を形成する大地。
この2つの大地は貿易以外で交流を持つことは少ない。
それぞれの大地はそれぞれの種族によって快適に過ごす事が出来kるように形作られているからだ。
人族は魔族の大地に興味を示さない。
なぜなら、魔族の大地は闇の神の加護が強く、魔獣が跋扈するからだ。
強さに重きを置く魔族は、己の力を高める為、この土地を好んだ。
魔族は人族の大地に興味を示さない。
なぜなら、人族の大地には光の神の加護が強く、魔獣が存在しないからだ。
平和と安寧に重きを置く人族は、心安らかに生きる事のできるこの土地を好んだ。
だが、全てにおいてイレギュラーと言うモノは存在する。
力を持たなく、平和を求め、人族の土地へ渡る魔族や、争いを求め、魔族の土地へ渡る人族もいる。
彼等、彼女達は何の問題もなく、難民として国々に受け入れられていた。
人族の土地に入ってくる野心ある魔族を、人は魔王と呼んだ。
魔族の土地に入ってくる野心ある人間を、魔は勇者と呼んだ。
魔王と勇者は、橋の精霊の力でいつの間にか消える事が多かったが・・・
だが、これまで・・・そしてこれからの長い歴史の中で、人でありながら魔王と呼ばれたのは、後にも先にも彼1人だ。
わ~れっらむってき~の~そ~ろぐ~んだ~ん♪
は~れっむゆ~しゃをぶっとばせ~(おー)♪
ど~んなてっきで~もいっちげっきひっさ~つ♪
なっかま~にな~んか~た~よら~ない~♪
すって~いたっすっは ちっから~にごっくぶっり♪
かいふ~くや~くはひっつじゅっひ~ん♪
やっかみ~な~んか~もっちゃ~な~いけ~ど♪
は~れっむゆ~しゃっはめっさ~つだ~(いぇ~い)♪
「ひっ・・・この歌はっ!?」
「来たぞっ・・・奴が来たぞーーー!!!!」
人族最大国家、バリオン王都の王城周辺から、その歌は聞こえてきた。
「そんなっ、王がハーレムを作るなんてっ!!」
「この国はどうなってしまうんだ!!」
「だが!!」
「「「「あの王ならば仕方ない。」」」」
―――――刻は遡り、バリオン王都
現在、会議室には周辺各国を含め、5つの国の王が揃っていた。
「各国の被害状況は?」
中央に座るは、バリオン王その人であり、今回の司会進行を担っていた。
「我が国では重婚が認められておる。
およそ2割の成人男性が奴の毒牙に掛かった。」
「ですが、4割の成人男性が「俺にも可能性が!!」と喜んでおります。」
左隣のでっぷりと太った男性、隣国アルティシアの王が言うと、その後ろに佇む妙齢の女性が言う。
「黙っておれ。」
「は。」
「私の国では元々一夫一妻制度でしたので、制度違反者が多数見つける事ができましたわ。
喜ばしい事ですわ。」
更に左隣に座る、婦人、隣国クアルの女王は肯定的な意見を述べる。
「だが、我が国では貴族からの声が五月蝿くてな・・・」
バリオン王の右隣に座る老人。隣国ポポロンの王は苦々しい口調で言う。
「元々ハーレムで安穏と生活していた貴婦人からも、生活をどうすれば?と言う声が上がっていますしね。」
更に右側に座る男性、隣国クアティの年若き王も言う。
「総括としては、ほぼ全ての国が困っておると言う事だな?
我が国も色々と問題が起こっていてな。
(ぼそ)囲っていた第2第3夫人予定者に逃げられたしのぅ・・・」
「(ぼそ)バリオン王もか?我もそうなのだよ。」
「(ぼそ)ワシなんぞ、せっかく見つけてきた美姫を手に入れ損ねたぞぃ。」
バリオン王の呟きにアルティシア王とポポロン王は同意する。
「ごほんっ」
クアル女王のジト目に3人は黙ってしまう。
「だが、問題は拡大を続け、新しい掟なる物まで庶民には広がっておる。」
「それは問題ですな。
掟は2つ。
橋と精霊のみですぞ!!」
「そうじゃ!!
ワシ等が長年守ってきたのはその2つのみ!!
勝手に掟を作るなぞ、女神様への暴論に違いないわい。」
「まぁ、私は新参者ゆえ、掟については良く分かりませぬが、
問題が起こっておる以上、それを食い止めるのも我等の務めですね。」
「クアティ王、いい事を言うな。
どうだろう、アルティシア王にポポロン王。
そなた達もそう思わぬか?」
「そうですな。」
「その通りじゃ。」
熱くなっていく4人の男を尻目に、クアル女王とアルティシア王の側近は話をしている。
「どうせ、自分達の欲望に目が眩んでおるだけじゃないのかえ?」
「少なくとも我が国の王はそうですね。
ぼっち魔王にやられて以来、夜中にうなされていますから。」
「ほう?あのアルティシア王が?
詳しく聞いても?」
「ええ、護衛の話では「おんな~、おんなはいねぇが~」と毎晩ベット周りを歩いているそうです。
その噂は国中にめぐり、剥げ頭と相まって国民からは、生ハゲと呼ばれるようになりました。」
「生ハゲか、言いえて妙じゃの。」
「地方部では「わるいごはいねぇが~」と伝わり、恐れ敬われております。」
「それはいい、我が国でもその噂を流すとするか。」
「あまり、本人のいるところでは言わないで貰いたいのだが・・・」
2人の会話にアルティシア王が加わる。
「王、家臣とは言え、女性の話を盗み聞きするのはいかがかと思います。」
「そうじゃぞ、生ハゲ王よ。」
その声に他の王達も加わる。
「まぁまぁ、良いではないか、生ハゲ。」
「そうじゃぞ、生ハゲ。」
「落ち着いてください、生ハゲ」
「お・・・お・・・お・・・おぬし等、揃いも揃いおって・・・・」
生ハゲは怒ると、顔どころか頭まで真っ赤になっていく。
「そんなに怒ると、血管が切れるぞ、生ハゲ。」
「そうですよ、生ハゲ。」
「落ち着くが良い、生ハゲ。」
「そう怒るから、皆がわらうのじゃぞ、茹で生ハゲ。」
この騒動が後に起こる、『血の粛清』と呼ばれる事件へと発展していく。
・・・となる訳が無い。
さすがに一国の王。
すぐに「ごほん」と咳払いし、話題を元に戻す。
「と言う事で、各国から勇者を選び出し、ぼっち魔王を潰す!!
それで良いな?
クアル女王に拒否権は認めぬからなっ!!」
「はいはい。」
生ハゲの発言に拒否するものはおらず、方針はまとまった。
――――――そこから時間が過ぎ、バリオン王城
「さて、この国から勇者を選出するか・・・
おい、宰相よ聞きたい事がある。」
「はっ、何なりと。」
隣に立っていた宰相が恭しく礼をすると、王の前に立った。
その頭部はてかてかに光り、先ほどのアルティシア王が生ハゲと称すなら、こちらは枯れハゲである。
「この国で腕は立つが、要らない奴はおらぬか?」
「要らない者・・・ですか。」
枯れハゲは会議の内容をすでに承知していた。
そして、王の言葉から真意を割り出す。
「そうですな・・・
この国でそのようなものは居りませぬ。」
「ではどうするかの・・・
下手な者を勇者と選出すれば、国民や他国から非難を受ける。
何か良い考えは無いか?」
枯れハゲは考える。
そして、記憶の片隅に残る伝承を思い出した。
「そうです、王よ!!
勇者召喚を行ってはいかがでしょうか?」
「勇者召喚じゃと?」
「ええ、過去の伝承に記憶が残っております。
魔王が橋を越えて存在した際、それを打ち滅ぼした召喚された勇者の伝説が!!」
その言葉に王も既に使われていない、魔法陣のある部屋を思い出す。
「そうか!!
召喚であれば、伝承にのっとる事となる。
国民もその者へ期待し、うまくいけば我が国の手柄。
失敗しても、支度金程度のものだな!!」
「その通りです!!
しかも勇者を召喚となれば、世界の王たる我がバリオン王の権威も更に増すというもの!!」
「良い!!
枯れハゲよ!!
その案を採用しよう!!」
「はっ!!
ありがとうございます。
・・・して、何故私の事を枯れハゲと?」
「はっ、私は一体何故そんな呼び方を・・・?
すまなかったな、枯れハゲ。」
「いや・・・いえ、なんでもないです。」
枯れハゲは再度訂正しようと思ったが、王が不思議そうにしているのを見て言うのを辞めた。
「それでは早速準備を開始いたします。」
このような経緯もあり、現在、勇者召還の儀が行われていた。
中央の魔法陣を囲むように、何人もの魔術師が数時間の詠唱を行っていた。
詠唱も終わりを迎え、魔力が魔法陣からあふれ出している。
「「「「ほんにゃ~かそわにゃ~かそらら~」」」」
「「「「いでよ!!勇者よっ!!」」」」
魔法陣は声に反応し、一際大きな煙を立てると、部屋中が白くなった。
時間が経ち、部屋の中の煙が消えると、誰かの声がした。
「やったっ、召還が成功したぞっ!!」
「勇者だっ!!勇者が来たぞ~!!!!」
魔法陣の中央には男性が立っていた。
金髪碧眼、その甘いマスクと端正なスタイルには、その場にいた女性全員がため息を漏らしていた。
「ここは・・・?」
彼の前に1人の少女が恭しく頭を垂れる。
「勇者様お待ちしておりました。
私はこのバリオン国の王女にして、この召還の儀を執り行いました、王女イアンと申します。」
その言葉に青年は困惑の色を宿す。
「どういう・・・ことですか?」
「突然の召喚に混乱しているかもしれません。
ここは勇者様にとって異国であり、『異世界』という場所になります。
私どもは世界の害悪を排除すべく、勇者様のお力をお借りしたいと思い、召還させていただきました。」
イアンの言葉に青年は頷く。
「小説やゲームでは良くある事だけど・・・
本当にこうなると、言葉が出ないね・・・」
「平に申し訳ございません。
ですが、我々ももう打つ手が無く・・・
お願いします勇者様!!
私に出来ることなら、どのような事でも行います!!
この世界をお救いください!!」
イアンは土下座に近いぐらい頭を下げる。
「お嬢さん・・・綺麗な方にそのように頭を下げられる訳には行きません。」
青年は地面に膝まずき、イアンの手をとると立ち上がらせる。
そして青年は逆にイアンの手をとり、
「僕に出来る事であるなら、成し遂げましょう。」
「「「「「おぉ~」」」」」
この行動にイアンだけでなく、その場にいたすべての人が感嘆の吐息を漏らす。
「ありがとう・・・ありがとう勇者よ・・・」
イアンは青年の行動に涙を流し、嗚咽を漏らした。
「イアン様、君に涙は似合わない・・・
これで涙をお拭きください。」
ポケットからハンカチを取り出し、イアンの涙を拭く。
"キュンッ"
「ゆ・・・勇者様・・・」
「「「「ほぅ・・・」」」」
さすがにこの行動には、その場にいた女性達がため息を漏らす。
美形なだけでなく、紳士的な行動。
その場にいる全ての女性が虜にならない訳が無い。
「勇者様っ!!」
イアンの隣に3人の女性が立ち並ぶ。
イアンは赤い頬を押さえつつ、彼女達を紹介する。
「紹介させていただいてよろしいでしょうか?
勇者様のお供をさせていただく方々で、左から、騎士のアイ、神官のラブ、魔術師のユウです。」
紹介された順に、挨拶を行っていく。
まずは、凛々しい女性が挨拶をする。
「始めまして勇者様、私は騎士のアイと申します。
勇者様のお供に選ばれた事、光栄に思っております。
微力ながらこの命、どうぞお使いください!!」
しなやかな長身に金色の長髪が特徴的な、切れ長な瞳の美女だ。
跪くアイに青年は、
「僕の方こそよろしくお願いします。
でも・・・命を掛けるなんて言わないで下さい。
命を散らしては残された者が喜びません。
成し遂げたい事があるのなら、必ず生き延びてください。」
青年はアイの手を取り、真剣な目で見つめる。
憂いを帯びた表情にアイの母性本能は刺激される。
キュンッ
「勇者様・・・そうですね。
必ず生きてのびて将来も2人で・・・ぽっ。」
アイは頬を赤く染めると、そのまま青年の手を両手で包む。
「私は神官長ラブと申します。
神の神託に従い、勇者様のお力となるべく旅に同行させていただきます。
私は神に嫁いだ身。
変な誘惑など行わないよう、お気をつけ下さい。」
アイを蔑むような目で、隣に立った少女は敵意も隠さずに挨拶する。
黒髪と黒目がちの瞳に似合う、艶やかな仕草で頭を下げる。
「誘惑なんて・・・そんな事するつもりは無いよっ!!
僕の世界にも神職はいます。
みな、君のように高潔な精神を持ち、『全ての隣人を愛せよ』と愛を説いております。
そのような愛の使者に誘惑だなんてっ・・・」
毅然とした態度で、青年はラブを見つめる。
その曇りなき瞳に、【スケコマシ】とタカをくくっていたラブは自分の瞳が曇っていた事に反省する。
「う・・・申し訳ありません。
私は自分が恥ずかしい・・・
貴方の目は曇りなどありません・・・
それに比べて私は・・・」
「いいえ、僕が誤解させるような行動をしていたのが悪いんです。
どうか・・・許してください。」
甘えるように、そして囁くようにラブの顔を見上げる青年に、ラブはその顔を赤く染め、そっぽを向く。
「そっ・・・そんなことっ。
許せないわけがありませんわっ。」
続いて、魔術師のローブに身を包み、銀色の髪と青い目が特徴の少女が青年の手をとる。
「私は魔術師のユウ。
貴方に惚れた・・・
幸せにして・・・」
直球だった。
青年は、照れたようにはにかむと、
「ありがとう。
でも、僕達はまだお互いを知らない。
お互いを少しづつ知っていく事から始めない?」
その言葉にユウは「うん。」と頷くだけだった。
だが・・・王女に加え、護衛3人を虜にした青年を見ていた将官たちは青い顔をしていた。
「やばい・・・来る・・・奴が来る・・・」
その呟きを聞いていた枯れハゲは、即座に勇者へと提言していた。
「勇者様っ!!
早くお逃げください!!
奴がっ・・・奴がやってきます!!」
だが・・・・・・時既に遅かった。
わ~れっらむってき~の~そ~ろぐ~んだ~ん♪
は~れっむゆ~しゃをぶっとばせ~(おー)♪
ど~んなてっきで~もいっちげっきひっさ~つ♪
なっかま~にな~んか~た~よら~ない~♪
すって~いたっすっは ちっから~にごっくぶっり♪
かいふ~くや~くはひっつじゅっひ~ん♪
やっかみ~な~んか~もっちゃ~な~いけ~ど♪
は~れっむゆ~しゃっはめっさ~つだ~(いぇ~い)♪
何所からとも無く聞こえてくる歌に、全ての人間の顔が青ざめた。
その場にいた魔導師たちは全力で対魔結界を張った。
全ての神官達は、全力で聖域結界を張った。
全ての騎士たちは、全方向からの攻撃に備えた。
だが・・・そのようなモノ、彼の前には紙よりも薄っぺらだった。
ドゴォォォォン!!!!
壁をぶち抜いて、ソレはやってきた。
「ひぃぃぃぃ、来たっ!!
ぼっち魔王がやって来たぁぁぁぁぁぁぁ!!」
最初に悲鳴をあげたのは、王女の後ろに控えていた豪奢な身なりの男性。この国の王だ。
すでに全力の結界を破られた事で、魔導師も神官も失神している。
その中にはラブとユウの姿もあった。
「「「うおりゃぁぁぁぁぁ!!」」」
その場にいた兵士・騎士が全員で襲い掛かるが、壁のような物に阻まれて近づく事すらできない。
「俺の前に立ちふさがるものは・・・すべて斬る・・・」
手を一振りするだけで、兵士・騎士の鎧・服がやぶけ、パンツ一丁の姿になる。
更にイケメンのみ髪の毛や眉毛等、ありとあらゆる毛がそり落とされ、見るも無残な姿になってしまう。
「まだ来るなら、お前達も同様の姿になるぞ?」
魔王が睨むと、残っていた兵士・騎士達はその場に崩れ落ちてしまう。
「イヤァァァァァァァ!!!」
呆然としていた、アイと王女がレイピアを片手に襲い掛かる。
「それでも来るか・・・哀れな・・・」
魔王が手を振ると、王女からは胸パッドが落ちて豊満に見えていた胸がぺったんこに、アイの周りにはポエム集がどさどさっと音を立てて落ちる。
一瞬ぽかんとしていた王女とアイだが、それが何か気づくと慌てふためき、
「見るでないっ!!
わらわは誤魔化してなぞおらんのだっ!!
そうっ・・・きょ・・・今日はちょっと胸が出かけてしまっておるだけなのじゃっ!!」
「み・・・見るなっ、これは何かの間違いだっ・・・
これは私の書いた詩集じゃないっ・・・これは違うんだぁぁぁぁぁぁ」
王女は落ちたパッド、アイはポエム集を抱えると、一目散に部屋から出て行った。
「ふふふ・・・後はお前だけだ・・・ハーレム勇者めっ!!!!」
そして・・・魔の手は事態についていけず、放心したままの青年へと伸びていった。
それから数刻後・・・
城下町では、空からチラシが降っていた。
チラシの見出しは、『召還勇者!! ハーレム勇者だったので処刑。』
チラシの中心には、逆モヒカンに金太郎ルックの勇者の写真が載っていた。
チラシを持った1人の青年は呟いく。
「ぼっち魔王・・・恐ろしい・・・」
その後郊外では、健気に体を鍛え、ぼっち魔王への雪辱に燃える召還勇者と傍らに佇むラブの姿があった。
他の3人?
王女とユウは逆モヒカンに愛想を尽かし。
アイは自分を見つめなおす為の旅に。
そして、最後に残ったラブは、内面に惚れたと言って青年と共にいるのだった。




