013 空飛ぶ豚がやってくる
晴れ時々豚・・・
何処かで聞いたことのあるフレーズ。
現実の世界で、そんな事はあり得ない。
・・・と、誰が言った?
「ぶひぃぃぃぃぃ~!!」
今、街道を歩く少年へ、高度5メートルほどの高さから豚が降って来ていた。
「うそだろっ!?」
少年は突然の事に驚くが、長年冒険者として培った経験はその体を動かす。
「っっっぶねえっ!!」
少年は風の魔法を展開させると、豚の落下地点に旋風を発生させる。
「ぶひぃぃ。」
豚は旋風に乗ると、落下の勢いがそがれ、ゆっくりと地面に降りる。
「あ~、びっくりした・・・
いきなり豚が降ってくるとか・・・何があったんだ?」
豚は二本足でたつと、丁寧な物腰で少年に礼を言う。
「助かったブヒ。
礼を言うブヒ。」
・・・豚がしゃべった!?
「いや、気にしないでくれ。
目の前でグロテスクとか死んでもやだからな。」
が、少年は何でもない事の様に手を振る。
「嫌ですな、その場合死ぬのは私のほうブヒ。」
そんな少年に、豚も小洒落たトークで返す。
「それもそうだ。」
「「あっはっはっは」ブヒ。」
「って、豚が喋った!?」
今更ながらに少年が突っ込む。
改めて豚を見よう。
桃色の胴体にプニプニした肢体。
つぶらな瞳に大きな二つの耳。
特徴的な鼻に、二つに割れたヒヅメ・・・
そこまではどう見ても豚だ。
だが・・・
「なんで二足歩行・・・」
色々とツッコミどころはあるだろうに、少年が突っ込んだ所はそこだった。
「おや、オークという種族を見たことがないブヒ?」
オーク:それは豚面人身の魔族。
高い知性を持ち、数多くの魔術を操る才能を持つものも多い。
だが、何よりも食欲に忠実なものが多く、放っておくと何でも食い尽くしてしまう。
そのために種族自体隔離されることが多く、同じ魔族でも滅多に見ることは出来ない。
ただし言っておこう。
けして二足歩行で立つ豚と、オーク族は全くの別物だ。
じゃぁ、この豚は何だ?と言われると・・・
・・・何だろう?
「いや、流石に本物を見たことはないが、どう見てもただの豚とオーク族は違うと思うが・・・」
流石に少年も知っていたようだ。
「いやはや、なにをおっしゃいますブヒ。
見たこともない伝承と、目の前にいる現実。
どちらを信じるべきか、貴方なら解るのではありませんブヒ?」
・・・確かにその通りだ。
伝承は伝承であり、事実として目の前にあるものが全て・・・
ならば、この豚はオークと呼ぶべきであろうか。
「確かにそうだ・・・
悪かったな、豚なんて呼んで。
俺はカイン。
名前を聞いてもいいかな?オークさん。」
少年も柔軟に、目の前にいる豚をオークであると認めるようだ。
「いえ、私はオークではないブヒ?」
・・・違った。
少年も相当腹に据えたのか、額に青筋が立っている。
「自分で今、オークと言わなかったか?」
怒れる少年に豚・・・いや、畜生でいいな・・・畜生は、
「ぶっひっひっひっひっ、オークを見たことがないか尋ねただけブヒッ。
それに、現実を見るのは大事な事だと言っただけブヒッ。」
いけしあゃあしゃあと語る。
「じゃぁ、改めて聞くが、なんで豚が!
二本足で立って!
言葉を喋って!
空を飛んできたんだ?」
あまりの苛立ちに、言葉にトゲが入りまくっている。
「まあまあ、何を苛立っているのか知りませんブヒが、カルシウムが不足しているのではありませんブヒ?
・・・ あ、骨っこいるブヒ?」
畜生はそう言って、少年に骨っこを差し出す。
「食わねぇよ!!」
少年が叩き落とそうとするが、畜生はするりと避け、骨っこを少年の口に差し込む。
「まぁまぁ、何事も試して見る価値はあると思うブヒ。」
バキッ・・・がりがりごり・・・
少年は口に差し込まれた骨っこを噛み砕くと、乱暴に咀嚼する。
この人をおちょくる畜生の動き・・・
少年にとって、十分に警戒すべき鋭さだった。
ここは冷静になろう・・・と考えた結果、取り敢えず骨っこを食うことにしたらしい。
「おおっ、人の癖に骨っこ食うブヒか。
世の中、面白い奴がいるブヒね。」
更に調子に乗る畜生。
「怒るな・・・
怒ったら負けだ・・・
ここは無かった事にしてやり過ごそう・・・」
少年は怒りのために、言葉が口をついているのに気付かない。
少年が無視して進もうとすると、その前を畜生が遮る。
「むっ・・・」
横に移動すると、畜生も横に。
斜めに移動しようとすると、その前に立ちはだかる。
「・・・
ちっ・・・」
諦めて街道を戻ろうとすると、いつの間に移動したのか立ちはだかる。
「いい加減に・・・」
風の魔法を身体に纏わせ、最大のスピードで街道を駆け抜ける。
「これなら・・・」
・・・が、横で余裕そうにスキップで並走する畜生が目に入る。
「ぶひっぶひっぶひひっぶ~♪」
楽しそうだ・・・
「・・・(ピキッ)」
少年は足を止め、魔法で畜生を吹き飛ばそうとする。
畜生は地面に足を突き立ててびくともしない。
「・・・ブヒッ(にやり)」
「・・・(ビキビキビキビキッ)」
少年は荷物の中から、ダイナマイトの様なものを取り出すと、火をつけて畜生へ投げつける。
シュカッ
畜生が腕を一閃すると、ダイナマイトの様なものはミクロ単位まで細切れになって霧散する。
「っくぅぅ~」
「ぶっぶっぶぶぶっぶ~♪」
少年が地団駄を踏むと、畜生はにやりとしながらコサックダンスを踊る。
少年はorzの体勢で地面に膝を着く。
畜生は勝ち誇ったように、その背に片足を乗せる。
「・・・一体何が目的だ。」
少年の呟きに畜生は朗らかに答える。
「いや、助けてもらった御礼に、願い事を一つだけ何でも叶えようかと思っただけブヒ。」
その答えに少年は脱力する。
(いや・・・お前、助けなくても絶対無事だったろう。)
とは思うが口に出さない。
「願い事をなんでもなんて、叶えられる訳ないだろ。」
今、少年の頭にあるのは一つ。
いかに、この畜生にぎゃふんと言わせるかだ。
「これでも神の御使いブヒ。
大抵の事なら叶えられるブヒ。」
畜生は胸を張る。
・・・少年の背中に足を乗せたまま。
「取り敢えず、その足をど・・・いや、なんでもない。」
少年は、畜生がニヤリと笑った気がして足をどけろと言う言葉を飲み込んだ。
(こいつ・・・足をどけろと言ったら、それで願い事を叶えたとか言いそうだな。)
想像の通りだったのだろう。
畜生が「ちっ」と舌打ちするのが聞こえた。
「質問するのはカウントに入るのか?」
「・・・思ったより頭が良いブヒね。
質問だけなら問題無いブヒ・・・」
多少不機嫌そうな返答が返る。
「さっき、足をどけろと言ったらカウントに入ったか?」
「・・・お願いは全てカウントされるブヒ。」
畜生の正直な答えに、少年は胸を撫で下ろす。
(思った通りか・・・
他にも何か裏がありそうだ、聞いておかないとな。)
「質問には正直に答えるんだな?」
「そうブヒ。
嘘はいけないブヒ。」
畜生はうんうんとうなずいているが、少年は額に浮かぶ汗を見逃さなかった。
「つまり、おちょくるのは良いが、嘘はつけないと?」
「何を言っているのか解らないブヒッ。」
途端にとぼける畜生。
対象的に、少年の顔には余裕が浮かんでくる。
「とぼけるのは有り・・・か。」
「何のことやらさっぱりブヒッ。」
「神の御使いって言ってたが、なんで御使いとやらが豚なんだ?」
「豚豚うるさいブヒね。
見かけで人を判断してはいけないブヒ!!」
っても豚だし・・・
「俺は名乗ったが、お前は名乗ってない。
なら見た目で判断するしか無いな。
なぁ、豚?」
さっきまでは頭に血が登って気付かなかったが、畜生が豚と言われる度に目尻がピクピクなっている。
これは良いので、こっちでも豚と言い直そう。
「なら、御使い様と呼べば良いブヒ。」
「豚が神の代行者とか言われてもなぁ~。」
とぼけた感じの少年の態度に、豚も苛立ってくる。
「間違いなく、神の御使いブヒッ!!
余り舐めたことを言い続けると、天罰を落とすブヒッ。」
「ほう。
天罰を、"落とす"ね。
そんな事出来るんだ?」
少年は豚に見えないよう、ニヤリと笑う。
「そうブヒ。
だから敬うブヒ。」
胸を張る豚に少年は残念そうな顔で、
「残念だけど、とてもとても敬えないから天罰落として見て♪
そうすれば、敬えると思うんだ。」
「ブヒッ!?」
意外過ぎる言葉に、豚は目を丸くする。
「かっ・・・可哀想だから、今はやめておくブヒ。」
「本当は出来ないんじゃなくて?
嘘はいかんよ~、嘘は。」
特に嘘の辺りを強調して言う。
「嘘じゃ無いブヒ!!
嘘は許されてないブヒ!!」
その言葉に、少年は豚に見えないよう、拳を握りしめる。
「でも、天罰落とせないんだろ?」
更に攻勢は続く。
「いっ・・・今はやめておくだけで・・・落とせるブヒ!!」
「あぁ、でもこんなことを言ってたら神様から天罰が落ちるかな?」
「そうかもしれないブヒね。」
その答えに、少年は胸の中でガッツポーズを掲げる。
だが、そんな事はおくびにも出さず、質問を続ける。
「そういや、なんで願い事を叶えようとするんだ?」
「それは助けてもらった御礼ブヒ。」
「神の御使いだし、その身体能力の高さじゃ助けなくても大丈夫だったんじゃないか?」
「それはそうブヒが、善行を受けたら返すものブヒ。」
その答えは少年の予測通りだった。
「大丈夫だったのなら、俺のしたことは余計なお世話だったんじゃないのか?」
「まぁ、余計なお世話だったブヒね。」
「なのに、願い事を叶えるのか?」
「そうブヒ。
感謝するブヒ。」
少年の目が光る。
「願いを叶えないと、なんかあるのか?」
「なっ・・・何のことか解らないブヒ。」
しらを切る豚。
「つまり、肯定って事だな?」
「そっ・・・それは・・・」
先程までの余裕は全く無く、冷や汗も出ている。
「さっき、口が滑ったのか"嘘が許されてない"って言ったし?
とぼけるか話を逸らすしかないもんな。」
「くっ・・・」
とうとう脂汗までかき始めた。
「ふんっ!!」
「ブヒッ!?」
少年はおもむろに立ち上がる。
片足を乗せていた豚は、バランスを崩して地面に転ぶ。
「いきなり何をするブヒッ!!」
立場は完全に逆転した。
少年は地面に転がる豚を見下ろすと、口元を歪める。
「豚って言われると、目尻がピクピクしてたぜ?
なんかの理由で姿を変えられ、ものすごく不満なんじゃないのか?」
「そ・・・そんな事より、叶えたい願い事を言うブヒ。」
あからさまに話題を変えようとする。
「不満なんじゃ無いのか?」
が、少年の質問は変わらない。
「建設的な話をするブヒ。」
「そうだな。
だか、質問に答えなければ、俺は延々と同じ質問しかしないからな?」
「ぶ・・・ブヒ。」
少年の目は、すでに怪しい光すら宿ってそうだ。
「不満なんじゃ無いのか?」
「・・・その通りブヒ。」
3度目の質問に観念したのか、素直に答える豚。
「その理由って言うのは、願い事を叶えなくちゃならねえのと関係あるんじゃねぇか?」
「その通りブヒ。」
神妙に答える豚に、観念したと感じた少年は敢えて聞いた。
「何があった?」
暫くの沈黙の後、ぽつりぽつりと豚は語り出す。
「そうブヒね。
事の起こりは何時も通り、この地上世界で人間をからかって遊んでいた、ある日のことブヒ。」
すでに色々問題がありそうだが・・・
「好みの女の子が居たんで、風でスカートをめくろうとしたブヒ。」
「殴って良いか?」
少年のツッコミに、豚は手で制し話を続ける。
「話は最後まで聞くブヒ。
その女の子は、何故かブヒの気配に気づいたブヒ。」
「そりゃ、気配ぐらい誰だって気づくだろ?」
一人称がブヒの点を突っ込んで欲しい。・・・じゃ無い、誰にでも気づけるものでもないと思う。
「その時、ブヒは神の力で不可視のはずだったブヒ。
そのブヒに気づけるのは、同じ神の力を持つ者ぐらいブヒ!!」
「なら、気づいた女も神の御使い?だったって事でいいじゃねぇか。」
「良くないブヒ!!」
豚は凄い剣幕で少年に詰め寄る。
「しかも、その女の子は蔑んだ目で"近づくな駄神が。"って言ったブヒ!!」
「その言葉に怒りでもしたのか?」
「とんでもない!!
その言葉と視線に、こう・・・ぞくぞくっと来たブヒよ!!」
身を悶えさせる豚を見つめながら、少年は心底"こんなのに関わるんじゃなかった"と思った。
「そこで、すかさず女の子の足元に土下座して、"お願いします!!もっと罵ってください!!"と言ったブヒ。」
少年は心の中で、心底その女の子に同情した。
「女の子は汚物を見るような目で、"近づくな駄豚!!"と言ってくださったブヒ!!
その言葉に、ブヒは運命を感じたブヒ!!」
嫌な運命だな・・・おい。
「そこでブヒは"貴方こそ運命の人ブヒ!!結婚してくれ"と求婚を申し込んだブヒ!!
だが、彼女は足にすがり付いたブヒを蹴飛し、近くにいた男の元へ走って行った。
ブヒはその時見てしまったブヒ!!
複数の女の子に囲まれて喜んでいた、あの男性神を!!」
豚は熱を帯びたように熱く語ってゆく。
「そいつにブヒは言ったブヒ!!
"このチロルチョコやるから、その女の子、ブヒに寄越せ"と。」
さいっっっって~だな、この豚。
「そしたら、その男性神は
"か~、マジっぺ~。
世界の至宝であるチャンネーを、んなもんと交換なんて、まっじ信じらんね~んですけど~。
うん?・・・なになに?
ちょっ、マジっすか~。
とりま、お・し・お・き、必要じゃな~い?"
とか、さっきの女の子とヒソヒソ話しながら言ってきたブヒ!!」
チャラ過ぎないか?その神も・・・
「ブヒは勿論いちゃもんをつけようとしたブヒ。
だが・・・"駄豚?うぃ~ねぇ~。
行っちゃっとく~?"
と言った瞬間、豚に変えられたブヒ・・・」
豚は真っ赤になって行き、プルプルと震え出す。
「さらに!!
"えっ!?なになに、それはいけなうぃ~ねぇ~。
いっよぉ~しっ、面白うぃ~すぃ~1000人の善良な人の願い事を聞くまで、元の姿に戻れなくしちゃおっかぁ~♪"とか言って、呪いの多重掛けをしてきたのだ!!」
人、それを自業自得という。
豚は相当興奮しているからか、相当な失言を繰り返しまくった事に気づいていない。
「"性格悪いから、ズルしそうだっし~嘘ついたらノルマ2倍って事でケッテー?"
とまで言いおってからに!!」
地団太踏む豚に後ろから笑い声が聞こえる。
「くっくっくっく。」
笑い声は少年からだ。
豚は、そこでやめておけばいいものを鬱憤が溜まっていたのか、少年の笑いに気付かずさらに続ける。
「ブヒはあれから血反吐を吐いて力を溜めてきたブヒ!!
あと30人も騙して、叶えやすい願い事を言わせ、元の姿に戻るブヒ。
そしたら奴に逆襲するブヒ!!」
右手?を掲げ、自分に酔いしれる豚。
そんな豚に冷ややかな声が掛けられる。
「なぁ、豚。」
その声に我に返った豚は、"やっちまった。"とばかりに脂汗をだらだら流しながら少年に振り返る。
「き・・・聞こえた・・・ブヒ?」
その問いに返答はせず、爽やかな笑みを浮かべて、豚に手を差し出す。
「願い事を言ってやる。」
その笑顔をみて、
(やった!!こいつ聞いてなかったブヒ!!)
と豚はほくそ笑み、少年の手を取って立ち上がる。
「やっと決まったブヒか。
ここまで聞いたんだブヒ、さっくり言うブヒ!!」
だが、現実とはそれほど甘くない。
爽やかな笑みを浮かべたまま、少年は口を開く。
「ああ、お前の力を全てよこせ。
一滴たりとも残さず、全てな。
ただし、呪いだけは要らん。」
「・・・・・は?」
豚の目が点になる。
「そんな事出切る訳が・・・ブヒッ!?」
ない。と言おうとしたところで豚の体に異変が起こる。
「なっ・・・なんブヒ!?
力が・・・力が抜けるブヒッ!?
・・・まさかっ! 」
豚は甘く見ていたようだが、"願い事を叶える"と言う強制力は絶対だったのだ。
「くぅぅ、ブヒはあれから物凄く力を付けたブヒ!!
こんな呪い跳ね除けてやるブヒッ!!
ぶぅひひひひひぃぃぃ~!!」
例え豚があれから力を蓄え、チャラ神の力を上回っていたとしても、それ以前に掛けられていた強制力に逆らう事は出来ない。
つまり、
「おっおかしいブヒッ!!
力がっ・・・力が抜けるブヒぃぃぃ~。」
どれだけ耐えようと無駄なのだ。
・・・ぷっ
失礼、笑ってしまった。
勿論豚から漏れて行く力は、少年へと流れて行く。
「うおっ・・・なんだこの全能感・・・」
豚は知らなかったようだが、あのチャラ神は全ての世界の絶対神。
口だけでなく、本気でその絶対神並の力を得た豚から、その全てを奪ったのがこの少年だ。
勿論、人の身で神の力を受け入れる事など出来ないので、肉体そのものが神に近い何かに作り変えられる。
その上で神の力、神力とでもしておこうか。
神力が注ぎ込まれた。
・・・新たな神の誕生である。
今や全能感に体を満たされた少年の前では、息も絶え絶えと言った具合に干からびた豚が地面に横たわってた。
「・・・し・・・死ぬ・・・ブヒ」
「あ~、ちっとやり過ぎたか。
ぎゃふんと言わせようと思っただけだったんだが・・・」
少年はほんの少しだけ目に同情を讃えると、豚を見下ろす。
「すまんな、ちっとばかりやり過ぎたようだ。
なにか言い残すことはあるか?」
やはり少年は善良な心の持ち主らしい。
素直に謝ったら許してやるか・・・と言う心境だろうか?
「ぎ・・・」
豚は最後の力を振り絞って、言葉を紡ぐ。
「ぎ・・・?」
「ぎゃふん。」
パタッ
豚はそれだけ言うと、力尽きて倒れた。
「ぶっっ、ぎゃははははははははは。」
最後の言葉が相当ツボに入ったのか、少年は笑い転げる。
「ひっ・・・し・・・しぬっ・・・
最後の言葉がぎゃふんとかっ・・・
ぎゃははははははははは。」
そのまま5分ぐらい笑い転げただろうか。
少年はやおらに立ち上がると、指をパチンと鳴らした。
すると、干からびて地面に横たわっていた豚が淡く光る。
豚はだんだんと、金髪碧眼で中性的な感じのする美少女へと変わって行く。
「・・・って、女だったんかい!!」
そう、豚は実は(レズっ気のある)美少女だったのだ!!
「まぁ、いいや、起きろ。」
少年が指を鳴らすと、少女がゆっくりと目を覚ます。
「う・・・ん・・・助かったブヒか・・・」
口調はそのままだった。
見た目美少女なのに言葉尻にブヒがつくとか・・・そんな需要あるのか?
「命まで奪うつもりは無いからな。
ついでに、呪いも解いておいてやったぞ。」
少年は"ぎゃふん"と言ったのが気に入ったのか、本当に善良なだけか判らないが・・・笑顔で少女に手を差し伸べた。
「それと、どんな願いでも叶えられる力も手に入れてる。
反省しているのなら、お前の願いも一つだけ叶えてやろう。」
(まぁ、力を返せとか言ってくるんだろう。
ぎゃふんと言わせて気も済んだし、こんな力持ってたら今度はこっちが増長しちまうわ。)
「えっ・・・あれっ・・・嘘ッ!?ブヒ」
少女はそんな少年の言葉に気付かず、自分の体をマジマジと見つめる。
「戻ってる・・・戻ってるブヒー!!
でも力が・・・そっか・・・力は全て奪われたんだっけ・・・ブヒ。
・・・・・・・・・・それもこれも全部あのハーレム男性神が原因・・・
くぅぅぅ!!
ハーレムは絶対に!!一つ残らずネチネチとぶっつぶすっ!!ブヒッ」
豚少女は右手を掲げながら高らかに宣言する。
「ふむ・・・
力を返せとか、元の世界に戻らせろと言ってくると思ったが・・・
"ハーレムを一つ残らず、ネチネチとぶっつぶす"か。
面白い願いだな。
・・・どうせあての無い旅路だ。
目的が一つ出来た程度に思っておけばいいな。」
少年の呟きに豚少女は驚いて後ろを見る。
そこには嬉々として契約の魔法陣を作成している少年が居た。
「あ・・・」
豚少女は思わず声を出す。
少年はウィンクしてグーサインを出す。
「良かったな、願いを叶えても良いそうだ。」
「ちょっ・・・ちょっと待つブヒっ!!」
「なんだ?」
「なんで・・・力を使いこなしているブヒッ!?」
豚少女の問いかけに少年は首を傾げる?
「そういや・・・なんでだ?
力を寄越せとかいったから、力の使い方も奪ったとかじゃねぇのか?。」
「まっ・・・まさかブヒッ!!」
豚少女は懸命に何か思い出そうと頑張る。
「おっ・・・思い出せないブヒッ!!
確かにハーレムの探知レーダーとか、嫌がらせの為に数百年かけて編み出した魔法がっ・・・思い出せないブヒッ!!」
そんな事に数百年費やすなよ・・・と言いたい。
「これの事か?」
パチンッ
少年が指を鳴らすと、豚少女の服装が一瞬にして豚の着ぐるみになる。
もちろん後ろのファスナーは溶接済みだ。
「そうっ!!それブヒッ!!
って、何するブヒかっ!!
戻せっ!!戻すブヒーーーー!!!!」
うん、豚の着ぐるみになった事で、ブヒ口調がサマになっている。
「じゃ、疑問も晴れたようだし、俺はハーレムを潰しに行ってくるわ。」
少年は爽やかな笑みを浮かべ、豚少女に手をあげると、そのまま街道を歩いていった。
「待つブヒー!!
格好を元に戻すブヒー!!
それに、力を返すブヒッ!!元の世界に戻せブヒッ!!」
去り行く少年の後をよたよたと追う豚少女。
「わりぃな。
願い事は1人1個までと決まっているようだ。」
取り付く島も無く、ばっさりと切り捨てると先を歩いていく少年。
どこまでもその追い駆けっこは続くのであった。
これが後に語られる事の無い、ぼっち魔王と呼ばれる少年の誕生秘話であった。




